※唐突に蘭臨
※正確には蘭+臨な感じ
※粥は蘭くんを把握しきれてない(致命的)










「あたま痛い」

真っ青な顔で、不意に臨也がぼそりと呟いた。
場所は池袋、東口五差路のど真ん中である。
先導するかたちで前を歩いていた男は振り向き、ハァ?と怪訝な声を漏らした。

それは、臨也が唐突に体調不良を訴えたことに対してではなく、何を今さら、という呆れを含んだもの。


「馬鹿か。それを承知で池袋に行くっつったのはテメェだろうが」

そう、朝から臨也は調子が悪かった。
季節の変わり目のせいか、残暑から秋口に入った途端、偏頭痛にたびたび見舞われるようになったのだ。
波江や美影から大人しくしていろと言い付けられたにも関わらず、二人が無いよりはマシだろうと薬局に頭痛薬を買い求めに出かけた隙を突き、臨也は蘭のみを伴って池袋に訪れていた。
どう言い訳しようとも、完璧に臨也の自業自得である。

「だって、ここんとこずっとこの調子で、池袋に全然来れてなかったんだもん」

「もんとか言うな。テメェは似合いすぎてきめぇ」

「蘭くんひどい…」

臨也は唸った。
こめかみを細く白い指先で揉みながら、その場にふらふらとしゃがみこんでしまう。

「…まともに歩けもしねーのに、ほいほい出歩いてんじゃねーよ」

「人間観察してれば治ると思って…」

「治んねーよ。それで治ったらあの秘書の女もテメェのオトモダチの闇医者も要らねーじゃねーか」

「ですよね…」

頭を抱えてしゃがみこんでいる臨也を、心底小馬鹿にして鼻先で笑う蘭。

ところで普通に会話をしているがこの二人、居るのは五差路のど真ん中である。
蘭は立ち止まり、臨也に至ってはしゃがみこんでいる。
既に信号は点滅を終え赤く色を変えていて、左右からクラクションがちらほらと鳴らされ始めていた。
その甲高く響く音に臨也の顔が歪み、色を失った唇からはか細く消え入りそうな呼吸が漏れる。

「………」

チッと舌打ちを溢した蘭は、サングラス越しに左右の車のドライバーそれぞれに射殺しそうなガンを飛ばしてから、臨也の首根っこを掴み上げた。
そのまま引き摺るようにして道を横断し、歩道にたどり着いたところでその手を離す。

「うう、蘭くんの乱暴者…」

「うっせェぐだぐだ抜かすな。ほら乗れ」

「え」

その、粗野だがどこか気遣いの混ざる静かな声で促す蘭に、臨也は一瞬、頭痛も忘れて顔を上げた。
そこで視界に映ったのは、向けられた広い肩と背中、そして後ろ手に差し出されている両腕。
臨也はポカンとした。

「…これはまさしくてんぺんちいのまえぶれにちがいない……」

すべてひらがな発音になってしまうほどの動揺が、如実に声に出る。

「なんなら俵担ぎにしてやろうか?ァア"?」

「うそですごめんなさい蘭くんマジいけめんかっこいー」

俵担ぎなんてされたらそれこそ軽く死ねる。臨也はすぐさま手のひらを返した。
台詞が棒読みになったのはご愛嬌だ。

「…ありがとー、」

恐る恐ると手を伸ばして、臨也は蘭の肩にそっと掴まった。すこし申し訳なく思いながらも、鍛えられていることが服越しにも分かるその背中に、遠慮なく体重を預ける。

正直、歩くどころか立っていることさえ辛かったので、あまりに似合わない気遣いを見せた蘭が不気味ではあるものの、今は素直に有り難かった。
そして、臨也など重荷にすらならないとでも言うような動作で、蘭はスッと立ち上がる。


…とても、意外だった。

この男が簡単に背中を見せたのも、立ち上がる際に臨也に負荷のないよう配慮した動きだったのも。
そもそも、蘭の中に病人は気遣うものだという認識が備わっていたこと自体が。


「これがギャップ萌えというやつか……」

いや、萌えてはないけど。と、小声でひとりツッコミを溢しつつ、臨也は間近の肩にぽすりと頭を擦り寄せ、乗せた。

頭痛のせいか、それともあまりに意外な蘭の一面を垣間見たせいか、これだから人間は!…と、いつもの思考回路に繋がることもなく。
奇妙な安堵感に襲われて、不思議と身体から強張りが抜けていく。


「帰るか?」

「…うん」

思いのほか、他人の体温は落ち着いた。
頭痛もわずかに和らいだような気さえするのだから、可笑しなものだと思う。
その相手が同性で、しかもよりにもよって泉井蘭という事実には失笑すら漏れそうなのに、臨也はそれを思考の片隅に追いやることにした。

体調が悪いせいだ。
理由はそれ以外にはない。


「蘭くん、蘭くん」

「ア?」

「タクシー」

「池袋から新宿までどんだけかかると思ってんだ」

「おれ蘭くんと違ってお金持ってるからへいき」

「道端に棄ててくぞテメェ」

「うそじゃなくて事実だけどごめんなさい。…ごめんってば、蘭くん、ちょ、腕の力を弱めないでください落ちる…!」

臨也の足を抱える手が仕事を放棄しかけるので、慌てて蘭の首に縋る。

「チッ」

「舌打ちとか……でも今おれ電車ホントむり」

常ならば愛してやまない人混みが、今は頭痛を誘発し増長させるものでしかないのだ。

「てか、ドタチンたちに見つかったら蘭くんも困るでしょ。はやく帰ろ」

「………」

ふと蘭が口をつぐむ。

「…? 蘭くん?」

「なんでもねーようっせーな黙ってろ。タクシー拾えばいいんだろ拾えば」

「…このひと横暴だ…」

「理不尽と傍若無人の塊なテメェにだけは言われる筋合いねーよ」

「………」

蘭くん傍若無人って言葉知ってるんだ、と臨也は内心思ったが、思うだけに留めた。口に出したらそれこそ道端に投棄されるハメになる。

通りでタクシーを止め、蘭の背中から下ろされた臨也は車内に乗り込んだ。
身体を預けた真っ白い座席は、何故だかすこしだけ居心地悪く感じて首を傾げる。


「新宿まで」

一言のみを告げ、蘭はそれきり口を閉ざして窓の外へと視線を向けた。
具合の悪そうな臨也を気遣ってか、蘭の顔にある火傷の痕やサングラス越しにも分かる目付きの悪さやその危ないオーラ立ち込める威圧感に気圧されてか(前者二割、後者八割と見た)、運転手も余計な口は開かず、新宿まで車内にはただただ静かな沈黙が降りる。


自分の領域(テリトリー)に戻れるという安堵と、頭痛に苛まれ続けた疲労が重なり、またタクシーが随分と丁寧に走行してくれることも相まって、臨也は車中でウトウトと眠気に誘われた。

…特に抗うこともなくそれに引き摺られるまま眠りに落ちた臨也は、だから、知らない。


窓の外から視線を戻した蘭が、こくり、こくりと不安定に揺れる臨也の頭を、自分の肩に引き寄せたこと。
そうされた臨也が無意識に、居心地のいい場所を探して顔を擦り寄せ、どこか満足そうな顔をしたこと。
それらをミラーで目撃した運転手が、こっそり微笑んでさらに丁寧な運転を心掛けたこと。
新宿のマンションに着き、支払いを終えた蘭が眠る臨也を起こさずに抱えて部屋に戻ったこと。
待ち構えていた波江と美影にこっぴどく責められた蘭が、元凶である臨也を言い訳に使わなかったこと。

そもそも、蘭が何故わざわざ池袋まで臨也に付き合って出向いたのかなんて。


──臨也はきっと一生、知ることはないのだ。






END


なんてったって蘭くんは紳士ですからね!ガツガツしないんです!
自分を売らないでアピールもしないで、ふとしたキッカケで偶然それが露呈した時、蘭くんの男前度が異様にハイレベルで臨也さんは思わずキュンキュンしちゃえばいいと思います(笑)

池クロで某方と盛り上がりすぎて勢いのままの初蘭臨です。
その方の影響を如実に受けているのがモロ分かりで…力不足が情けない。
大好きなせいは様に勝手に捧げます…!><

そっ、それにしても蘭臨楽しいなあオイ…!




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