※臨也さんが怪盗とかいう頭の悪いパロ
※刑事なドタチン+ワゴン組
※続かないよ!










臨也はその日、なんとなくの気まぐれで、数日後に侵入して目的の物をかっぱらう予定の屋敷へ下見に向かった。
ファー付きのフードを目深に被って、一応それなりには顔は隠しているが、見る人間が見たらすぐにバレるだろうなぁと思う。思うだけで特にどうもしない。

「んー……正臣くんの調べだと、確かこの辺だったかな」

怪盗助手とは名ばかりの、雑用雑務雑事を全て押し付k……任せている少年の嫌そうな顔を思い浮かべて、臨也は自身の身の丈を優に越す塀をチラリと見上げた。
そして人通りのなさを確認すると、2m以上はあるその塀をひょいっと飛び越える。

「…ずぼらだなぁ」

トン、と軽い音を立て着地した臨也は、あまりの無防備さに呆れた声を漏らした。
屋敷の方はガチガチに警備を固めているのかもしれないが、そもそも庭自体へ侵入させない、という考えはないものか。
広い庭には警備員どころか番犬の姿すら見えず、特に監視カメラや赤外線センサー等が設置されている様子もない。

臨也は、わざわざ馬鹿丁寧に予告状などというアホ丸出しの陳腐なモノは出さない。
しかし、「本業」の仕事の関係で、秘書や助手に愉快犯そのものだと白い目で見られるほどには、面白半分で情報を流すことはあった。
だから、自分が狙われるとは思っていない故の悠長さ、などという事態は、本来ならあり得ないはずなのだが……。


「……まさか、情報掴んでないとか言わないよねぇ?」

すこし調べれば分かることなのに、その「すこし」すらも怠っているのか。
それにしたって、臨也が本業と並行してこなす怪盗はそこそこの知名度だ。いつ自分が狙われるか、と緊張と警戒を普段より強めるのが妥当なのに。

「…後でわざわざ侵入し直さなくても、今日このまま盗めちゃいそうだよね」

それこそ、怪盗に扮する際、わざと目立つように着用する白いコートがあれば、恐らく臨也は実行していただろう。
ただの気まぐれが高じた下見のつもりだったので、そういうわけにもいかないが。

…そう思うと、後日に出直すのが逆に億劫に感じてくる。


「うーん……めんどくさいな」

正臣くんに電話して持ってきてもらおうか、と最早雑用どころか完全なパシり扱いの少年へ、時間帯の配慮もせず(平日の昼間だから彼は学校だ)、連絡するか否かで臨也は真剣に悩む。

「……まあいいか。情報流したんだし、それが外れたら俺の評判が落ちちゃう」

せいぜい内部の警備を引っ掻き回す程度の下見で済ませようと、臨也は軽い足取りで屋敷への侵入を開始した。


 *


「ここが次の現場っすね」

スモークが貼られた窓のガラス越しに、高い門柵と塀を見上げて糸目の青年が呟く。

「…うわー、すっごい成金な感じ!」

その隣に座るロングスカートの女性は、完全に面白がる口調でけらけら笑い、その柵の向こうの屋敷を指差した。
恐らく9割以上の人間が「うわぁ…」とドン引くだろう、そのセンスのない外観に、糸目の青年も同意してうんうん頷いている。

「目に痛ぇなぁアレ……金と赤と、あとなんだ? 明るい緑か?」

運転席に居る青年は、あまりの派手さに呆気に取られて気のない口調で呟いた。

「って言うか、蛍光色だね。黄色も混ざってるから、クリスマスカラーもドン引く色合いよアレ」

「何を思ってあの色をチョイスしたんっすかねー」

「…自分ではセンスいいと思ってんだろうなぁきっと」

「あはは、それ余計に痛い」

「っていうか、痛々しいっす」

三者三様に「ないわー」としみじみ感想を漏らす様子に、助手席に座る青年がオイ、と咎めるように声を上げる。

「遊馬崎、狩沢、渡草も。注目するところはそこじゃねぇだろ。俺らは現場の下見に来てんだぞ」

「いやでもアレはないっすよ」

「これ、絶対に近所から苦情が来るレベルだよねー」

「いやむしろこれは取り締まるべきレベルっす」

「金払われてもここら一帯には住みたくねえなぁ…」

「住んでても引っ越すよね、ゆまっち」

「っすねー。金払ってでも居たくないっすよ、この近所には」

「お前らな……」

ぎゃいぎゃいと好き勝手に騒ぐ彼らに、青年はぐったりと座席に身体を沈めて唸った。

確かにこの絶望的なまでのセンスのなさは、心底からどうかと思う。思うし、いっそその思考回路を心配したくなるほどに「ない」のも、事実だ。
だが問題は、屋敷の外観などではなくて。


「あのなァ、ここが犯罪現場になるかもしれないんだ。ぐだぐだやってねェでシャキッとしろ、シャキッと!」

「はーい」

「はーいっす」

「りょーかい」

「……ハァ」

それぞれ返事だけは立派な三人に、深いため息が漏れる。
青年は鈍く痛むこめかみを指で揉みながら、窓ガラスの向こうの屋敷を眺めた。


──この屋敷の主人が持つ絵画が、件の怪盗の今回のターゲットらしい。

今世間を騒がせている存在、「怪盗サイケデリック」。
まるでおとぎ話の冗談か何かのように、現代社会には到底似合わない、あり得ない、「義賊」と呼ばれている人物。
それを追うために組まれた対策チームが、青年らだった。

しかし、結果は今のところ、ものの見事に全敗中。
背格好からして若い男ということ、異様なまでに身軽なこと、あとは彼が名乗る奇抜な名前くらいしか情報は掴めていない。
次の狙いがこの屋敷だということも、自分たちが調べあげたのではなくて、遊馬崎と狩沢がインターネット上で密やかに囁かれていた「噂」を拾ってきたものだった。


「……不思議なんすけど、」

不意に、遊馬崎がぽつりと呟く。

「俺ら警察も掴めない情報を、一体誰が流してるんすかね?」

「調べたらさぁ、その噂、今までにも流れてたみたいなのよね。しかも百発百中!」

実際に侵入されるより前にその噂は流されているから、信憑性は高い分、その情報源が気になる。

「ソースは追えなかったのか?」

「それが、ぜーんぜん。足取りどころか影すら掴めなかったよ」

後部座席を振り返り尋ねる渡草に、狩沢がお手上げ、と仕草で肩を竦めた。

「情報が乗る掲示板も、毎回サーバーごと違ってるんすよねぇ。だからその噂話でさえも、探して拾うのはけっこう苦労したっす」

「ほんと、コソコソーッと流れてただけだしね」

まあ、そうでなければ、毎回現場はマスコミや野次馬、俄かファンらに埋め尽くされ、警備どころではないのだろうが。

「…案外、本人が流してたり、ってのは?」

「あり得なくはない……というか、十中八九そうだろうな」

渡草の言葉に、嘆息混じりに青年が頷いた。腹立たしいことこの上ないが、その可能性がいちばん高い。

「そもそも怪盗とか義賊とか、その時点でまんま愉快犯っすからねぇ。注目を浴びたいとか、チヤホヤされたい系な」

俺の勝手なイメージっすけどね、と遊馬崎が言葉を付け足した。
某「中身は大人な少年探偵漫画」に出てくる、とある登場人物と被るのかもしれない。
なんせ、こちらの怪盗もご丁寧に、真っ白な服を着ているのだから。

「毎回、もともとの持ち主は別って展開だからね……某所の掲示板とかスレッドなんかはもう大盛り上がりよ。強引な手で巻き上げたり盗品だったりで、盗まれる側もロクな人間じゃないんだもん」

おかげで被害届出そうとするヤツが居ないのよね、と狩沢が苦笑した。

そういう後ろ暗い連中は、政経界や警察の上層部にコネを有する人間がほとんどだ。ここに居るメンバーだとて、その圧力や権力には逆らえずにいる。
だから怪盗を捕まえろ、盗まれるのを防げ、しっかり警備しろ、と嫌味混じりにせっ突かれはしても、盗まれたものを「取り返せ」とは言われないのだ。


「ここんちの当主に連絡はしないんすか?」

「信憑性はあると言っても、所詮は噂だからな。実際に予告状でも送られてこない限りは信じないだろ」

「警備を申し出ても無駄ってことか…」

「それで盗まれるのを防げだのなんだの、文句だけは一人前に言うんだからねー。ほんと成金自重しろ」

「あはは、狩沢さんが自重しろとか言うとウケるっす」

「失礼な!」

騒ぐ後部座席の二人に苦笑し、渡草は隣に座る青年に目を向ける。

「どうする? 一度戻るか?」

「そうだな……とりあえず当日までは交代で見張るぞ。ご本人様が下見に来ないとも限らない」

「地道にやるしかねぇか…」

「不安は残るが、警備の動員数は、上に掛け合って当日に増やしてもらうしか──」

ない、と続けかけた言葉は、前触れなく突然にガラッと外から後部座席のスライドドアが開かれ、遮られた。

「いやぁ悪いけど乗せてもらうねありがとー!」

一息に言い切られた台詞は軽く、彼らの耳をつるっと上滑りする。
そうしてそのまま、ファーコートを身に纏った細身の青年が、遊馬崎と狩沢を押し退けるように車内に乗り込んできた。

「「えっ?」」

「「はっ!?」」

「もうホント助かった! ワゴン組ったらさすが! ナイスタイミング!」

当然ながら、盛り上がっていた後部座席の二人や、今後の予定を話していた運転席と助手席の二人も、呆気に取られて硬直する。

「ごめんねちょっとそっち詰めてねー。はい、シートベルトもちゃんとしたよオッケー準備は出来てる。さあホラはい、しゅっぱーつ!」

にこにこ笑いながら、しっかりきっちりシートベルトまで装着した青年は、ひらひら手を振って渡草に発進を促す。
その横の遊馬崎と狩沢は、いまだにぽっかーん、と口を半開きにしたままだ。

「は? あ、えっ、…なん、」

「あーホラ早くしないと、追ってきてるよ後ろから。キャーたいへーん、逃げなきゃー。急げー」

後半の台詞は完全に棒読みで、彼が振り返りもせずに親指でピッと示す背後では、黒スーツにサングラスの屈強な男たちが、バタバタと車へ迫ってきている。
バックミラーでそれを確認した渡草は、反射的にパーキングからドライブにギアを入れ、ぎゅっと思いきりアクセルを踏み込んだ。

「っ」

「う、わっ」

「きゃッ」

構えていなかった助手席の青年、そして遊馬崎と狩沢は、反応が遅れて身体をシートに押し付けられる。
ぐんっ、と急発進した車は、訳も分からぬままその場から逃げ去るのだった。






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なんという俺得な話\(^O^)/
オマケに異様に長い\(^O^)/




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