ぬくぬくと暖かな温度に顔を埋めながら、臨也はふあ、と隠すこともしないあくびを漏らした。

「うー…」

この離れがたい心地好さといい何故か眠たくなってくる不思議な魅力といい、本当にたまらない。好きだ愛してるマジらぶ。

「…おい臨也」

「なぁにー」

ぐりぐりと頭を擦りつけて、呆れたような門田の呼びかけにのんびりと間延びした声を返す。

「いい加減離れろ」

「やーだー」

「あのなぁ、」

深い嘆息と共にがしっ、と頭を両手で掴まれ、ぐぐぐと強い力で引き剥がされそうになって、臨也は駄々をこねる子供のようにいやいやと悲鳴をあげてそれに抗った。

「ちょ、やだって、だめ、……もう、ひどいよドタチン! 恋人がこんなにも健気に縋ってるのに無理やり力ずくで引き離そうとするなんて!」

おにー! と臨也が喚く。

「…誰が恋人で誰が健気だって?」

「ひどい、ドタチンのばか! 俺の純粋な心を弄んだんだね! 俺はもう君をこんなにも愛してしまったというのに! 一方的に利用して棄てるなんて……っ」

「コラ、誤解を招く発言をするんじゃない」

そしてお前にだけは言われたくねえ、と門田は淡々と冷静に真顔でそう返した。
加えて、純粋な心とかどの口が言うんだ、とも。

「ドタチン最近マジで俺に容赦ないよねー」

「甘やかすとお前はただひたすらに増長する一方だとここ数年で学んだからな」

「気付くのが今更なところが君らしいけどね☆」

わざとらしく語尾を跳ね上げウィンクまでする臨也に、門田は一瞬イラッとしたが堪えた。
この忍耐力も元から高かったのだが、臨也と過ごすようになってからはよりいっそう磨きをかけている。

「ねえねえ、手ぇ離してようドタチン」

寒いんだから引っ付いて何が悪いのとぶーたれるその様は、とても普段がアレでソレな新宿の危険人物には見えなかった。
常日頃からこの程度の無害さであればと、門田のその常々の嘆きは本人には届かない。

「悪いって言ってんじゃねえよ、ただいい加減にしろって言ってんだ」

限度があるだろ、と門田はがっくり肩を落とす。

「もう寝るってのに、いつまでそうしてる気だ」

「だって離れたら寒いんだもん」

「もんとか言うな。布団入ってれば暖かくなるだろ」

「暖まるまで寒い」

「ほんの数分だろうが。我慢しろよそれぐらい」

「やだむりありえないマジむり」

「お前…」

どうしてくれようかと、呆れと疲れと諦めと脱力感とに一気に襲われた門田は、眉間に深い皺を刻んだ。頭が痛い。

「だぁってあったかいし気持ちいいしなんか眠くなるし、俺もーここでいいよ。ここで寝る」

「……お前がよくても俺がよくない」

「え?」

なんで、ときょとんとして問い返そうとした臨也は、がばっといきなり宙に抱き上げられて、ぎゃっ、と声を裏返させた。

「色気ねぇなあ」

「俺に色気あってどうすんのってか、ちょ、なに離してよ!」

寒い寒い寒い! と臨也が門田の腕の中でじたばた暴れる。

「やーだーおーろーせー」

「…そもそもだな、」

「さーむー……え? なに、」

低い声音で落とされた言葉を拾って、臨也はぴたりと動きを止めた。
それを見下ろして、だから、と門田は台詞を区切って言い直す。

「そもそも。おかしいだろ」

「なにが」

「寒い寒い言って」

「だって寒いじゃん」

「…俺はお前の何だ?」

「何って、…………こ、恋人?」

「疑問符つけんなテメエ」

凄むように睨まれ、あわあわと臨也は視線を泳がせた。
どうやら門田の機嫌が悪いらしいと、そこでようやく気付く。

「恋人で、す」

「寒いんだろ」

「さむいです」

「よし」

頷いて、臨也を担いだまま門田の足が寝室へ向かう。

「え? ちょ、待、意味わかんな、っ…なに? なにがよしなの!?」

「うるさいお前覚悟しろよ」

「はあ!?」

「寒いとか冗談でも言えないようにしてくれる」

ふん、と鼻でそう笑われて、普段は温厚なはずの恋人が見せるその悪い顔に。

「──…え? あれ?」

どうしてこうなった、と。

臨也はただ、困惑する頭を抱えるのだった。






END


恋人の自分が居るのにこたつに懐く臨也さんに嫉妬して最後はとうとう実力行使に出ちゃったドタチンでした。
誰が恋人だって言ったのも、縋ってたのドタチンじゃなくこたつだったから、恋人=こたつに思えちゃってイラッとしたり。

作業が進まないからムシャクシャしてやった。後悔も反省もしない。←



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