なんてひどいたいとる。2
※ドタチンが変態紳士属性
※最初から本番
「っひ、ぅ…」
腹の奥に注ぎ込まれる熱に、ゾクゾクと臨也の肌が粟立った。
「…っぁ、あ」
その痺れは、寒気のような、悪寒のような、似ているけれどそれらとは違う、イヤラシイ淫靡さを帯びている。
そしてなにより、もう何度目かもわからないほどに内側を満たされ、浸されて、こぽこぽと繋がる隙間から溢れ出していく感覚が、たまらなかった。
「も、…やだ、」
さらに居たたまれないのが、舌が回らず発音がほぼ「やら」になったことだった。死にたい。
「抜いて、よ」
「なんでだ?」
「…なん、でって、」
最中に不意に訪れたインターバルに、ふうふうと息を整えながら、臨也はぐったりと目の前の体躯にもたれ掛かった。脱力したくもなる。
だいたい、座位とか。ホント止めて欲しい。ただでさえ受け身は身体がいろいろ辛いのに。
そもそも重力に従って全てのものは落下するのだ。量が量だけにふっつーに零れていくのは当たり前だよねぇ。…は? 何が落下して零れるかって? 冒頭に言ったとおりですがなんか文句でも?
「嫌なのか?」
「………、」
その感覚を気にしないようにぐるぐる考えを巡らせていれば、顔を覗き込まれて言われた台詞。ああずるい。それは卑怯だよ。
駄目なのかと問われれば駄目だと言える。
けれど嫌かと問われれば、嫌だとは言えないのだ。
だって仮にも好きな相手で、恋人で、こうして身体を預けられるほど大切なひとに、嘘でも嫌だなんて言えるわけがない。
「…おなか、苦しい、」
でもしんどいもんはしんどいんですよ。まだ痛くはないけど、このままの状態でいればやがて鈍痛を呼んでしまう。
だから、
「したくないんじゃなくて、ね」
求められるなら応えてあげたいよ。俺だってね、人並みに性欲くらいあるし、恋人に求められて嬉しくないわけがないじゃないか。
「また、したいから、さぁ」
俺だって、俺だってね。
自分から求めたい気分のときもあるわけで。単にその前に求められて先を越されちゃうってだけで。
「──かき出してよ、俺のなか」
きみのてでキレイにして、
そのゆびでなかを、
おれのおくふかくを、
さわって、なでて、かきまぜてよ。
「それからまた、なかにだしてね」
ちゅー、と、目の前のデコに吸い付く。珍しく、うっすら耳を赤くしている姿が新鮮で、小さく笑った。
「すげえ殺し文句だな、それ」
「ドタチン、こーいうの好きでショ」
「お前ならなんでもいい」
「の、割に、えっちはいつもアブノーマルだよねぇ」
「訂正。お前とするのがいい」
「なんでものとこ否定しろよ」
ククッと笑いながらも臨也はそろりと腰を引き上げて、埋め込まれた杭を引き抜いた。
「っ…はぁ、」
瞬間、詮を失って、吐き出された白濁がとろとろと中から溢れ、腿の内側を伝い落ちていく。
「…壮観だな」
「……えっち」
「悪いか?」
「悪くないけどたまには自重を覚えようね君の場合」
「善処する」
「徹しろ」
「可能な限り、善処はする」
「……君はいったいどこで道を踏み外してきたのかな」
体勢を変え、ころりとベッドに横たわりながら、やれやれと臨也は嘆息する。
「お前に言われたくねェな」
立てられた膝を割り開き、その片足を肩に担ぎ上げて男がうっそりと笑う。
「俺とは違った道の、ん、踏み外し方、……っぁ、して、」
くちゅりと前触れなく内側に侵入してくる指に、ひくりと臨也の喉が震えた。はぁ、と漏らす吐息が、先程の絶頂を引きずってまだ熱い。
「種類の話じゃなく、程度の差だろ」
「んぁ、っ……は、ぁ、程度、なら、ぁ、…余計にっ、ん、…深刻、だよ、……ア、」
入り口で指を二本、拡げられて、別の一本が内側をゆるゆるとかき混ぜる。
くちゅくちゅと粘着質な水音が、なんとも卑猥な場所から奏でられていることに、失笑に似たものが零れそうだ。
「あ、…ん、っ」
やわやわと穏やかに触れてくる指がもどかしくて、臨也は自ら腰を揺らす。もとより恥も外聞もない、そんなのは感じないし、感じる必要のない相手なのだから。
「足りな、っ……よぅ、」
ぎゅう、と広げた脚で相手の身体を挟む。ねだるように膝をぐりぐりと押し付けるが、相手は楽しそうに笑うだけ。
「自重しろって言われたんでな」
「うわ、……ぁ、はっ、…あー、も、やだやだ、根に持つとか、……ッんぁ、あ、…っそれ、きもち、」
「別に根に持ってねェよ。労ってるんだろーが。…ここか?」
言いながら、その指が深いところをくりくりと弄る。
「ん、…うん、っ……そこ、あ、きもち、い……っあ、ぁ、」
「お前、ゆっくりやる方が好きだよな」
「ん…? んー、そう、かも……あ、っ、だって、ちゃんと、……感じるから、」
「うん?」
「あっ、…あ、そこ、ッ、……くりくり、しちゃ、」
「こうか?」
「っん、あ、……っあ、それ、そこ……っ、もっと、……ッあ、ア、ぁん……!」
「感じるから?」
「あ、っぁ、ん、…なに、」
「さっきの」
くちゅ、くちゅりと、太い男の指が三本、内壁をなぞるように擦るように、臨也の中を出入りする。
時折、まるい爪先がやわらかなしこりをきゅうと撫でていくのが、たまらなく気持ちよかった。
「あ、……ぁっ、かん、…感じ、られ、…から、」
「うん」
「手、とか…」
「…手?」
「ん…っ、ドタチンの、手、…すき、でかくて、…あ、」
「ふぅん」
手、と言われるとは思わなかったなと、その精悍な顔がいささか不思議そうな色を浮かべる。
「あと、…ちゅ、して、」
「ん? ああ、」
「ふ、…ん、ぁ……っこれ、も、すき」
「そうか」
「ね…、なまえ、俺の」
「臨也?」
「うん……呼ばれるの、も」
ふふ、と臨也が笑う。すこし無防備に。無防備になっていい相手の前だからこそ、素の表情で。
あと、ぎゅうぎゅうと抱き合ったときのぬくもりとか、
俺の腰を掴む強い力とか、
下りてきちゃった前髪とか、
やさしい顔とか、
色っぽい吐息とか、
俺のことしか映ってない瞳とか、
そういうのみんな、どれもすべて、ぜんぶ、
「嬉しい、から、…すき」
じんわり染み入るように感じられるから、きみを。
だからゆっくりのがおれのこのみだね、そうふにゃふにゃと笑う、柔らかな快楽にとろりと熔けたその表情。
「おま、…」
それは反則だろう。と呟く声は力なく、聞き取れなかったらしい臨也は「ん?」なんて不思議そうに目を瞬かせている。
「顔、真っ赤だよ、ドタチン」
っていうか耳まで。
なに? 暑いの?
「それが無自覚とかタチ悪ィなお前…」
「なにが? …ね、それより指やめちゃやだ」
すこし拗ねたような顔をして、臨也はいつの間に止まってしまった愛撫に、そう言って不満げにしてみせる。
「なか、こすって、」
足りないよ。
もっと、ちょうだい。
「っ、」
きょうへい、と掠れ声で呼ばれて、撃沈しそうになったのは門田の方だった。
いつも求めるばかりで、臨也が求める前に貪るばかりで、ああ今思えば確かに自重は必要だったのだ。どうも自分は随分ともったいないことをしていたらしい。
臨也の好みどおりに、優しい、おだやかでやんわりとした、ゆっくり互いを高め合う方法を取っていれば、もっと早くこれを味わえた。
ならば、と思う。今日はひたすら、臨也の好いとおりに。
「あ、あ、…んぅ、っ……ふ、はぁ、あ、…んー……ッ」
「はぁ、」
丁寧に丁寧に慣らし、もういいよ、はやく欲しい、なかに、きて、ちょうだい、ねえ、欲しいよ、という蕩けた声を勝ち取って、門田はゆっくりと臨也の中に押し入った。
「あ、…っは、ぁ、あ、ア……きもち、い、…あ、すご、」
ふわっふわのとろっとろに蕩けた表情で瞳を潤ませ、臨也がうっとりと仄かに笑う。
「っ…腰、動いてるぞ」
「あ、だって、…だめ、きもちい、…っ、動いちゃう……、あ、ん、んぁ…っ」
抱えられた脚を門田の腰に絡め、ぐいぐいと自らに引き寄せて、臨也は貪欲にゆらゆらと腰を揺らす。
その動きは柔らかで穏やかながらも、まるでじっくりと味わうかのように淫蕩でみだらだった。
「あぁ、…ッア、ふ、…ぁ、あ、あ……っ」
門田は臨也の動きに合わせてゆるゆると杭を抜き差しする。くちゅ、ぬちゅ、と控えめに響く音に、耳からも煽られてたまらない。
「臨也、っ…臨也、いいか?」
「いい…、っ、い、…よぅ、あ、あ、…ぁっ、は、…ぅ、っ」
きもちいい、すごく、いいよ、もっと、なか、きもちい、すごい、おく、おくも、こすって…っ
それは、普段は門田が追い詰めて追い詰めて狂うほどに構い倒して追い詰めて、そしてようやく理性がぶっ飛んだ臨也が、意識が朦朧とするなかでこぼすような台詞。
なのに今はそれが、臨也の意識も理性も確かに残る状態で、惜しげもなく門田に振り撒かれる。
ああ、たまらない。
なんて、いとしい。
手やキスや名を呼ばれることやぬくもりや掴む力や払う余裕なく落ちる前髪や表情や吐き出す呼吸やただひとりしか見ない目や、そんなものが好きで、好きなのだと、それらが感じられるからゆっくりと交わるセックスの方が好きだと、感じられるから嬉しいのだと、そんな。
そんな馬鹿みたいに門田を喜ばせるばかりの言葉を、そんな愛しい台詞を、聞かされたら、聞いてしまったら、そうしてやりたくてたまらなくなる。そうすることしか、考えられなくなる。
「臨也、……臨也、っ」
「あ、あ、…きょうへ、……きょうへぇ…っ、きもち、よぅ…ッ」
「ああ、…きもちいいことだけ、してやるよ」
「うん…っ、ん、…あ、ぁ、っなか、なかぁ……っ」
「ん…? こうか? もっと擦ればいい?」
「あ、っあ、それ、ッ……それも、欲し、……もっと、して、…なか、ぁ、すき……ッ」
「…も? 他は? なにがいい?」
目の前の赤く熟れた乳首にちゅるちゅると吸い付きながら、腰を揺すってやわらかく前立腺をいじめる。
喉を反らして、ひくりひくりと唇を震わせる臨也の性器は、触らずとも白濁を零し、すでに内側の刺激だけで何回か達しているようだった。
「なか、っぁ……なかに、」
「なか?」
まだ足りないのか? と、互いが繋がる箇所に指を這わせる。グロテスクな赤黒いモノを呑み込むその入り口を、ぐりぐりと優しく指の腹で撫で擦った。
「ひぁ、っ…ア、…!」
感極まった声を上げ、臨也が身を震わす。ぴぴっと腹に飛ぶ飛沫は薄く、量も大分少なくなっていたが、吐き出したあとも性器は萎えずに勃ち上がったままだ。
「あー、…っ、あ、ぁ、…きょうへい、…きょうへ、なか、」
「ん…? 臨也?」
「…なか、…っすき、なかに、もっと」
「うん…?」
やたらとなかに固執する臨也に、門田は首を傾げる。内側はもう十二分に弄ってやっているのだ。これ以上になにかあるだろうかと、不思議に思いながらその言葉の続きを待つ。
「──なかに、…だして、もらうのも、……すき、」
だから、ちょうだい、おねがい、
そう潤んだ目で見つめられ、雛が親鳥に甘えるようにねだるようにちゅ、と唇に口付けられ、ついでにそのままちゅぅ、と舌を吸われて絡められて、そう、これで耐えきれるという男が居るのならば見てみたい。
「ッ…」
「ふぁ…っ」
まずい、と思ったときには背筋から腰を震えが駆け抜け、門田は小さく呻きながら臨也のなかに精を吐き出してしまっていた。…不覚。
「ぁ、なか、…っ熱、」
けれど心底嬉しそうに幸せそうに微笑まれてしまっては、保たずに達した情けなさなど明後日の方向へふっ飛んだ。
だって、そんなものは些末事だ。
それよりも。
そんなことよりも。
「きょうへい、…もっと…──」
…こっちの方が、重要で重大で最優先事項だろう。
「ああ、…いくらでもしてやるよ」
この可愛いいきものを、愛らしい、たまらなく甘やかしてやりたくなるいとしいいきものを、
──全力で愛でなくて、どうする、
END
なにも言うことはない!(ドーン)←