「おはようございまるふぉい」
朝から爽やかな笑顔を振りまいて来たハッフルパフの馬鹿女を睨み付けた。今なんて言った?この馬鹿女は
「…寝不足な僕の聞き間違いだろう。もう一回挨拶してみろ。」
「おはようございまるふぉい」
「……」
つい最近までこの女は僕に好意を持っていると信じて疑わなかった。自分から「ファンです」とか言ってきたし、間違いなく僕の事が好きなんだと思っていた。
しかし、コイツの最近の反応を見ると只僕を馬鹿にしたいだけのように感じる。
「その挨拶は一体何だ。僕を馬鹿にしてるのか?」
「日常会話にマルフォイを入れて会えない間も寂しくないように、…という私の作戦だよ。」
毎度ながら、頭に花が咲いているんじゃないかと思うくらい馬鹿すぎる。会えない間とか言っているが暇さえあれば僕に会いに来てるじゃないか。溜め息をつきながら女の横を通り過ぎ大広間に向かう。いつもなら鬱陶しいくらい僕の傍でベラベラ喋り始めるのに、今日は僕の後もついて来ない。
「ねぇ、ドラコ。」
数メートル離れた所でやっと馬鹿女が呼び掛けてきた。後ろを振り返るが、見慣れたハズの姿が見えない。
「おい、隠れてないで出てこい。」
「私が知っててドラコが知らない事ってなんだと思う?」
「は…?」
相変わらず姿も見せないで話し掛けて来るから、端から見れば僕が独り言を言っているような風景。馬鹿女が知ってて、僕が知らないことだと…?
「お前よりは知識もあるし、礼儀もあるつもりだがな。」
「もっと簡単な事だよ。」
そう言って、ひょこりと柱の影から出て来た女は“今度会うまでの宿題だからね”とニコニコ笑いながら言い、手を振って僕の進む方とは逆方向に向かってスキップしながら去っていった。
「なんだアイツ…朝食食べないのか?」
一人で大広間に向かう足はどこか寂しいような気もしないこともない。 いや、何を言ってるんだ僕は。どうせあの馬鹿女の事だから大広間に行ってて、何気なくスリザリンの寮生に混じってご飯を頬張ってるに違いない。 となると僕は大広間につくまでにさっきの答えを考えとかなきゃならないというわけか。
アイツが知ってて
僕が知らないこと
考えれば考える程分からない。あっという間に大広間に着き、いつもの場所に向かう。するとそこに居たのはいつものスリザリンメンバーで馬鹿女の姿が無い。
「おい、パーキンソン。あの女は今日は来てないのか?」
席に座りながら、パーキンソンに話しかけるが彼女は眉をしかめて首を傾げた。
「あの女ってだあれ?」
「お前も知ってるだろ?あの頭に花でも咲いてそうなハッフルパフの…」
馬鹿女。そう言いかけて口を閉じた。そういえば、あの女の名前を知らないじゃないか。今までずっと“お前”とか“馬鹿女”しか言ってなかったからな。
なんだ、アイツ。僕に名前で呼んでもらいたかったのか?可愛い所もあるじゃないか。
「パーキンソン。ハッフルパフに馬鹿女が居るだろう?頭に花でも咲いてそうなほど脳天気で、無駄に笑ってて、年中幸せそうな奴だ。」
「ハッフルパフ…?ああ、First nameの事?First nameがどうかしたの?」
「お前とFirst nameはどういう関係なんだ?」
「告白されたわ。」
サラリと言ったパーキンソンの横でカボチャジュースを吹き出しそうになるのを抑えて、パーキンソンの方を見た。
「告白だと…?」
「ええ。廊下ですれ違った時いきなり“え!なんでそんなに可愛いの!?良かったらお友達になって下さい!一目惚れです!今日今から暇かな?隙だったらあそこのベンチにて愛を育みませんか?にしても本当に可愛いね、羨ましいなぁ。”って。」
おい、待て。どこぞのナンパ男共より酷いぞ。女じゃ無かったら間違いなく叩かれてたな。馬鹿女らしいといえば馬鹿女らしいが。
「あら、ドラコ。そんな風に笑うのね。私初めて見たわ。」
「笑ってたか…?」
「えぇ。」
“無駄に幸せそうだわ”パーキンソンにそう言われて“そんなわけないだろ”と返し、カボチャジュースを飲み干した。
無駄に幸せそうなのは僕じゃなくてアイツの方さ。いつもヘラヘラ笑ってるし。
早く会いに来れば良い。
名前を呼んだ時の反応が早く見てみたい。きっと、満面の笑みが見れるんだろうな。
願えば願うほど、それはシャボン玉のように。
それから3日間1回も会うことの無いまま、First nameが行方不明になったと風の噂を聞いた。