君は僕の執事










初めまして。私は枢木家に仕える執事でございます。







枢木家に恥じない行いをしてみせましょう。







「おはようございます。スザク様」

「おはよう…、ルルーシュ」

「今日の予定のご確認を」

そう言ってルルーシュは手帳を見ながら主であるスザクの予定を言っていく。スザクはぼんやりと聞いているのか聞いていないのかわからない顔でルルーシュの顔を見ている。

「ルルーシュ〜」

「…どうなさいました?」

予定を言っている最中にスザクが言ってきたのでルルーシュは主であることもあり、無下にもできず手帳を閉じ、スザクを見る。スザクは子供みたいに手をルルーシュに向かって広げた。

「着替えさせて」

ニコッと屈託のない笑顔で言われ、ルルーシュは溜息を吐く。

「自分で着替えてください」

「ルルーシュ?君は僕の執事でしょ」

「…わかりました」

ルルーシュはスザクのシャツのボタンを外していく。もういい年なのだから着替えぐらいは自分でやれと罵りたくなる。もしくはメイドにやらせろ。喜んでやってくれるものが多いだろう。なんせルルーシュの主のスザクは顔が整っており、主に向ってこんなのことを言うのもなんだがタラシだ。

なのに何故かこの広い屋敷には数人のメイドしかいず、そしてこのスザクの寝室に入れるのはルルーシュだけだった。それはスザクが命じたことでもあり、そして暗黙のルールでもある。

スザクの部屋に入ったものはいつの間にかこの屋敷にはいない。やめさせられてるのだ。そんなに部屋に入られるのがいやなのか。

「あっ、ルルーシュ。ついでに舐めて」

スザクの指さす先には生理現象でたっているスザク自身。あぁ、もうこの主は。

「お断りします。あぁ、後の着替えはご自分でやって下さい。朝食の用意をしてくるので」

にっこりと最上級の笑顔で言ってやる。そしてそのままルルーシュは部屋を出た。そして歩きだす。

あぁ、もう頭が痛くなる。日常茶飯事のこのセクハラまがいのことに。







「ルルぅ〜シュ〜」

「ようこそお越し下さいました。ジノ様」

体の大きなジノに抱きつかれてルルーシュは少しよろけながらもそれを受け止めた。

「堅苦しい言葉遣いはいいから。もっと気楽に」

「そう言うわけにもいきませんので。スザク様は今、出かけております」

「ルルーシュは付いていかなくていいのか?」

「ここにいろと言われましたので」

「ふ〜ん、ラッキー」

何がラッキーなのか。スザクに用があるわけではないらしい。

「待っておられますか?」

「うん」

「ではお茶を淹れてきますので少々お待ち下さい」

「はいよ」

にこにこと人懐っこい笑顔を向けられルルーシュも微笑み返しその場を離れる。スザクの友人だから失礼なことをしてはならない。

紅茶と菓子を持ち、ジノの元に行くと数人のメイドがいる。きゃっきゃと楽しそうに話している。だが、ジノはルルーシュの顔を見ると嬉しそうに笑った。そんなにお茶を待っていたのかとルルーシュは苦笑する。

「お待ちいたしました」

「全然待ってないよ」

そして紅茶をカップに注ごうとするとメイドがいきなり振り向いた。それがルルーシュにあたりルルーシュは紅茶をこぼしてしまう。

「あっ」

「大丈夫か?ルルーシュ!」

「平気です。申し訳ございません」

本当に平気だった。ジノはあまり熱い紅茶は好きじゃないからぬるめにしておいたし、かかっても火傷するということはないだろう。

ジノに腕をひかれてルルーシュはジノに引き寄せられる。そして服を脱がされた。

「なっ…」

「火傷しちゃう」

「平気です!そんなに熱くありませんから」

「駄目」

そう言って上着を脱がされ、シャツの袖を捲くられる。そしてあろうことか紅茶がかかった部分にジノは舌を這わせ始めた。

「…っ!?」

メイドはキャーキャー言っているし他の使用人は呆然とそれを見ている。羨ましいという声は聞こえなかったことにしよう。

「ジノ様っ!お止め下さい」

「濡れたままじゃ気持ち悪いでしょ」

そう言ってお構いなしにぺろぺろと舐められる。殴りたいがスザクの友人だ。我慢しなければ。

「何やってるの?」

その時、冷たく低い声が聞こえた。そちらを向くと自分の主が笑っている。眼はそれだけで誰かを殺せそうなほどするどく光っているが。

「お帰りなさいませ。スザク様」

「よっ!スザク」

「僕は何をやっているのかと聞いたんだけど?」

「ん〜一種の消毒?」

「何で?」

「紅茶かかっちゃったからなぁ」

「わざわざ舐める意味がわからないんだけど」

スザクが近寄ってきてルルーシュを自らの元に引き寄せる。どうせなら着替えさせてほしいとルルーシュはぼんやりと思った。

「ルルーシュ、何で素直に舐められてたの?」

「え?…あ、スザク様の「言い訳は後で聞くよ」

自分で聞いてきたんじゃないかと思ったが久しぶりに本気で怒っているみたいだから何も言えない。

「ジノ、早く帰ってくれる?」

「嫌だね」

「何で?僕に用はないだろう?」

「私が帰ったらルルーシュ何されるか分かんないしなぁ」

「何かしてたのは君の方だろう」

スザクとジノが睨み合っているように見える。あぁ、友好関係を築いていたほうが楽なのに。

「スザク様、私が何か貴方の気に障るようなことをしたのなら謝ります。ジノ様は私が紅茶にかかってしまったので仕方なしにやってくださったんです。なのであまり責めないで下さい」

2人がルルーシュを見て溜息を吐く。何故かはわからないがあまりいい気分はしない。

「わかったよ」

「…何もしないか?」

「うん。だから早く帰って。君がいると苛々するんだけど」

「はいはい。怖いなぁ」

ジノが立ち上がって出ていこうとする。だがその前にジノはルルーシュの額にキスをした。

「じゃね。ルルーシュ」

「またお越し下さいませ。ジノ様」

「もう二度と来るな」

ジノはそのまま笑顔で帰って行った。スザクに腕を引かれてルルーシュはそれに抵抗せずに付いていく。部屋に入れさえられ、抱き締められた。そして先ほどジノがキスしてきたところにキスをされる。

「スザク様…っ」

「消毒。とゆうかルルーシュ、僕以外にこんなことさせないでよ」

服を脱がされ、スザクが着ていた上着を羽織らされる。

「虫唾が走る」

その視線が冗談を言っているようには到底思えなくてルルーシュは頷いた。

「はい…。スザク様」

背筋に走るこの悪寒にも似た寒さ。あぁ、本気で怒らせてしまったかもしれないと上着を握る。

スザクはルルーシュが他人に触れられることを極端に嫌がる。これは執事として仕えたとき、その瞬間から始まっていたのかもしれない。でも考えて欲しい。スザクの友人であるジノなどにルルーシュが失礼な態度をとるわけにはいかないのだ。

「ルルーシュは、僕の執事なんだから」

頬を撫でられる。目の前にある顔の眼は笑っていない。

「僕の言葉だけ、聞いてればいいんだよ」

時々感じるこの恐怖。普段は優しいのにたまに起こるこの感情。

これが嫌いだから、余り怒らせない様にしているのに。







「今日はシュナイゼル様がお越しになります」

「そう。…何の話で?」

「会社の契約を結びに」

「わかった。ルルーシュ」

「はい?」

「ずっと隣にいてね」

「わかりました」

にこっと微笑む主にルルーシュも微笑む。

暫くするとシュナイゼルが来た。隣には彼の秘書のカノン。

「ようこそいらして下さいました。シュナイゼル様」

「お久しぶりです」

「久しぶりだね」

シュナイゼルを会議室に代用される部屋に案内する。そして滞りなく話は進み、一段落ついたところでルルーシュはお茶を出した。

「ルルーシュ君はやっぱり優秀だね」

「ありがとうございます」

「自慢の執事ですから」

スザクにそう言われ、ルルーシュは少し微笑んだ。主にそう言われて嫌な気分はしない。

「あはは、羨ましいな。ねぇ、カノン」

「えぇ。とても」

「ルルーシュ君、こちらに来る気はないかい?」

「とても光栄ですが私はスザク様の執事ですので」

「そうか…」

「勝手に僕の執事を誘うのは止めて頂けますか?」

「はは、すまないね」

こちらのスザクの作り笑顔にシュナイゼルも似たような笑みで返す。ルルーシュはシュナイゼルが苦手だった。そこ知れない笑み。

シュナイゼルが帰るので送っていく。そして別れる時にシュナイゼルに耳元で囁かれる。

「いつでも私の所においで」

返事を返さないでいると彼は笑ってルルーシュの手の甲にキスをし、帰って行った。







「さっき、シュナイゼルに何言われてたの?」

「特に何も。スザク様が気を紛らわせるようなことではございません」

「いいから。言って」

「…」

言うのを少し躊躇っていると腕を引かれた。ベッドの上に座っているスザクに近づけさせられる。腰に腕を回され、逃げれない様にされる。気まずくて顔を逸らすと無理やりスザクのほうに顔を向かされた。

「僕を見て」

「…っ」

「さっき何を言われたのか言ってごらん」

「スザク様…っ」

「言え」

あぁ、また怒っている。最近は厄日かもしれない。

「いつでも自分の所に来い、と」

「…へぇ」

腰にまわされている腕に力が込められる。抵抗はするがスザクの腕は押してもびくともしなかった。

「それで君は?何かいった?言ってなかったよね。口が動いてなかったもの」

「…はい。何も言ってはいません」

「何で断らなかったの」

スザクがルルーシュの服を片手で器用に脱がしていく。身の危険を感じ、ルルーシュはスザクの腕に少し爪を立てるがそれすらも抵抗にはなっていなかった。

「何で抵抗するのさ」

髪の中に指を絡ませられ、そしてそのままスザクのほうに顔を寄せられた。そして口付けをされる。

「っ…!スザク様っ!」

「…何?」

「お戯れが過ぎます!」

「戯れじゃないんだけど」

そしてまた口付けをされる。今度は先程よりも深く。

「んぅ…っ」

ベットの上に寝転がされ、天井を見ると目の前には主の顔。

「君は僕の執事でしょ」

耳元でスザクが囁く。ずっと、彼は言う。それはルルーシュがスザクに仕える様になってから毎日のように。

「僕だけを見てればいいんだよ」

そう、それは甘い囁きのようでまるで違う。毒をもった呪いの言葉だ。

囚われてしまうその言葉に。主に逆らう術など、とうの昔に忘れてしまった。







 君は僕の執事

                君の全ては主人のはずだろう?

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