「なぁ、お前ってドジだよな」
「は?」


自分でも少しはドジなのかなって思ってた。
けど、切原に言われるなんて正直思っていなかったからなんかショック
まぁね、今の私を見てドジと言わない方が変だけどさ。


「‥良いから助けてよ!」
「へーへー」

部室の掃除をしようと置いておいたバケツ
その中にはなみなみと水が注がれていたっていうのに、私はそんな存在をすっかり忘れていて
まんまとひっくり返し、滑って転ぶという間抜けっぷりを見せた。

そんな状況を一緒に見ていた切原に、ショックな一言を言われ
タイミング悪くたまたま制服だったせいでスカートもYシャツもびしょ濡れ
おまけに尻餅もついたんだから!


「‥何をしてるんだ?」
「あ」


私と切原の声が、ドアに向かってハモったそれは目の前に制服姿の柳先輩が現れたからなんだけど。


「こいつが阿呆だから水撒けて、オマケに転んだんですよ!」
「ちょ!阿呆とは何よ!」


ギャーギャーとまるで遊び盛りの子犬の様に騒ぐ私たちを、先輩はいとも簡単に引っぺがし
切原に後始末をするよう指示しすると私を部室の外へと連れ出した。
部室から文句が聞こえたような気がしたけど、柳先輩に口答えなどできない事は分かっていた。


「名前、お前は一体何がしたいんだ?」
「‥モップがけですけど」
「あれのどこがモップがけだ」


体育館に備え付けられたシャワールームに連れて行かれ、
先輩が持っていたジャージとバスタオルを無理やり手渡される。


「いつまでも濡れたままで居ると風邪を引く」
「え、でも先輩のジャージをお借りするなんて」
「‥良いから着ておけ」
「でも‥」


私が今だ断ろうと言葉を口にすると
「その透けたYシャツでどうする」と言われて自分のYシャツが透けて下着が浮かんでいるのに気が付いた。


「わ、わわ!先輩すみません!!!」
「‥お前は」


シャワー室に居るのは私たちだけで、いつも以上にやけに声が響く。


「俺を困らせたいとしか思えないな」
「!」


呆れたように吐きだした柳先輩は
「ここで待っている」とだけ言い、私の背中を押した。


冷たい身体に暖かいシャワーで熱を戻しながら
先輩にあんな事を言われて、私はきっと呆れられてしまったんだと思ったら

なんだか悲しくなった。


「‥お待たせしました」


そんな考えのままシャワー室から出て先輩の元へ向かうと
別段何も気にしていないように私を大きな腕の中に納める。


「お前には、俺のジャージでは大きすぎるな」
「まぁ、身長が違いますから」


憎まれ口を叩くような言い方しかできない私に、先輩は苦笑いをして
まだ少し濡れたままの髪に指をからめる。


「さっきの事を気にしているのか?」
「‥別に」
「あれは悪い意味ではないぞ」


何にも言ってないのに私の心を見透かしたようにそう言った先輩は
愛おしそうに私の髪にキスをした。







いつまでも意味が分からなくていい

(困らせ続けてくれればいい)
(俺はそんな感覚にすら、酔いしれているのだからな)



Brand New Selfの中條優芽様より

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -