どうして、こうなっているのか。
ぐるぐるする頭では答えは出なくて、狭くなった視界にただただ口を開けるばかりだ。
「名前」
耳元で囁かれた掠れ声が艶やかで、背中が粟だつ。三成の熱い手が頬をなでた。
押し倒された、と言われるこの体勢。あたしはただいつもみたいに幼なじみの彼の部屋に遊びにきただけなのに。彼もまたいつもみたいに投げやりな態度しか示さないはずだったのに。
どうしてこうなっているのか。
「み、三成、冗談きついってば」
「…お前はそうやって」
逃げるのか、と続けて、頬から唇へと指先を流す。びくりと体が揺れたのは恐怖か、それとも。
「好きだ、お前が」
「三、」
「お前がそうやって無防備に部屋にくることがどんなに俺を苛つかせるかわかるか。幼なじみとしか見られてない俺の気持ちがわかるか。そのたびに、こうしてでもお前に意識させたいと思っていたなど、考えたこともないくせに」
珍しく雄弁な三成は、しかし顔を歪めて笑う。昔、クラスでも浮いていた三成の幼なじみということであたしも一緒に友人から仲間外れにされたことを知ったときと、ひどく似ていた。三成の熱い指先は首筋を辿って鎖骨をなぞる。三成、手震えてるよ。やっぱりあなたは優しい。
「…幻滅したか」
「んーん。しないよ」
「…やはり馬鹿だな、名前は」
「そうかもしれない。だってあたし今嬉しいもの」
今度は三成が固まる番だった。あたしの言葉に目を開けたまま、姿勢を保っている。
もう、いつもみたいに幼なじみごっこはできない。
「びっくりしたけど、三成があたしと同じ気持ちで嬉しい」
「名前、それは」
「あたしも三成が好きだよ」
言い終えるのを待ってたかのように彼があたしの口をふさぐ。押し付けるキスは不器用な彼そのもので、あたしは甘んじてそれを受けた。
「あっ、みつなっ」
「…ここか?」
くい、と指を曲げてあたしを翻弄する三成は、どうせ意地悪く笑ってるだろうと思って睨みつけてみたらなんとまぁ珍しい。
(そ、そんな子犬みたいな顔しないでよ)
不安げに眉尻をさげる三成に思わずときめいてしまい、きゅうと、締めてしまう。それに気付いた三成は、はてと首を傾げた。
「名前、いま」
「い、いいから!あの、もう」
お願いしますと蚊の鳴くような声で漏らして彼の首に腕を回した。いくら暗くしてもらったとはいえ何も着てない状態は恥ずかしくてたまらない。
僅かに汗ばんだ三成の体が離れる。ぎゅうと瞑って待っていると先ほどまで指を入れていた箇所にひたり、あてられる。
「いいか?」
目とともに口も噤んでいたから、返事の代わりに一、二度頷いた。
「いっ!」
「名前、力抜け」
「んんっ無理!」
「…じゃあ、俺の名を呼んでいろ」
リップ音付きの軽いキスをして、そんなことを言う。この痛みを忘れられるならとあたしは提案に乗る。
「三成、みつなっあっ、ん」
「名前」
「み、つ、はぁ、あっやっあぁっ」
「…お前、声いいな」
「な!なに言っ、んぁっ」
自分の声が嬌声に変わっていくのがわからないほど頭は惚けていなかったけれど、どうでもよくなるほどには彼にとろけてしまっていた。
好きだと思うより早く口に出てしまったようで、俺もだ、と返してくれた彼が愛しくてたまらない。
幼なじみごっこ(幼なじみのつもりでした)
END
あけすけのいちこ様より