それは、唐突な言葉だった。

「愛が足りない」
「…はい?」

いつもの執務中、筆を置いて肩を揉む三成は、真面目腐った顔のままで「愛が足りない」と言った。
性根の真面目さが祟ってついに壊れたか、なんと思いつつ見つめていると、その三成が真面目な顔のままでこちらを向く。

「名前」
「何?」
「愛が足りないのだ」
「…だから何?」
「接吻させろ」


とりあえず文鎮を投げました。
(避けられたけど)


「ばっ…馬鹿なこと言うんじゃないわよ!」
「どうせ顔を赤くするならもっと可愛い返事があるだろう」
「うるさい!!」

減らず口に脱いで畳んでおいた上着を投げつけて、しかしそれも軽々と受け止める秀麗な恋人が憎たらしい。
嘘、本当は大好き。

両想いだって分かったときは死ぬかと思ったもんね!本当に心臓が飛び出しそうだった!

「そろそろ休憩時だと思うが?」
「だーめっ」

迫る唇に人差し指でお預け。
不満露わな三成は子供みたいにむくれて、私の指に軽く吸いついてから離れていった。

「仕事をやっつけてからにしよう?」

仕事を…なんて建前で、本当は胸のどきどきを隠すため。


だってここで三成に触れられたら、気持ちが浮ついちゃって仕事が手につかなくなるから。

こんなに溺れてるのは私だけで、実は三成はさほど私のことを好きではないんじゃないか、なんて疑問が時々頭を掠める。

恋人同士になる前からこうして一緒に一日過ごすことが多かったけど、私はいつだって、今だって心臓壊れるくらいに緊張してる。
対する三成はと言えば、眉一つ動かさずに黙々を仕事をこなしていて、

「名前、お前のところの報告書が混ざっていたぞ」
「あ、ありがと…」

それが三成の性格だとは分かっている。
でも、さっきみたいに急に迫られたり…突然夜中に部屋に来たり…

三成の突拍子のない行動は、乙女心への負担が大きい。

「ふん…次からは気をつけろよ」

三成から報告書を受け取り、その文面に目を通す。
しかしその紙は真っ白で、中に一文字だけ小さく


『愛』


…と、書かれていた。
何だこれは、ついに兼続が宗教勧誘まで始めたのか?
というか、私の報告書というのは…?

いろいろと疑問が頭を駆け巡ったのと上体が傾いていたのは同時で。
「あっ」と言う間にも三成に押し倒されていた。

「…三成さーん、大人の時間は仕事の後にしましょうや」
「俺は仕事が終わった」
「私は終わってないんですー。…というか、さっきの紙は何なの?」

聞けば三成は愉快そうに笑んで、鼻先が触れ合う距離に迫ってくる。
どきどきしながら鳶色の瞳を覗き返していると、大好きな声が甘く囁いた。

「愛だ」
「説明はもっと具体的に願いたいものです」
「愛は愛だが?」
「…あんた兼続?」
「石田治部少輔三成だぞ」

今の私には理解できない。

抵抗するのも面倒だから大人しくしてたら、優しい腕にそっと抱きしめられる。
首筋に髪が触れてくすぐったいとか思っていると、再び三成が口を開く。

「…まだ俺には馴れぬか?」
「え…?」

至近距離で交錯する視線。

「俺と付き合いだしてからも、ずっと緊張しているだろう」
「!」

ずばりと言い当てられた一言に驚いて目を見開く。
そんな私の表情を見た三成は、やっぱりな、と呟いて私を強く抱き直した。

「…いつから、気付いてた?」
「最初からだ」
「最、初…って」
「付き合う前から、俺達が初めて会抗するのも面倒だから大人しくしてたら、優しい腕にそっと抱きしめられる。
首筋に髪が触れてくすぐったいとか思っていると、再び三成が口を開く。

「…まだ俺には馴れぬか?」
「え…?」

至近距離で交錯する視線。

「俺と付き合いだしてからも、ずっと緊張しているだろう」
「!」

ずばりと言い当てられた一言に驚いて目を見開く。
そんな私の表情を見た三成は、やっぱりな、と呟いて私を強く抱き直した。

「…いつから、気付いてた?」
「最初からだ」
「最、初…って」
「付き合う前から、俺達が初めて会ったときに決まってる」

最初に目と目が合った、その瞬間から。

「ずっと名前のことを見ていた…好きな女を観察し続けていたのだ。お前が緊張していることくらい分かる」
「三成…」
「…言っておくが、お前が思っている以上に俺はお前に惚れているぞ」

今は恋人同士で、でも、そのずっと前から気持ちは通じていたの…?

「……なぜここで泣くんだ」
「ごめ…っでも、嬉しくて…」

そう思ったら、なぜか涙が溢れて止まらなかった。
自分の想いは一方通行で、三成にとって私は大したことない存在だと思っていたから。

愛されてるんだ、と実感するだけでも嬉しくて。
この胸は張り裂けそうなくらい痛いのに、どうしてこんなに幸せなんだろう。

「三成ぃ…」
「何だ?」
「…すっごく、大好きだよ…っ」

素直に腕を伸ばしたら、驚いた顔の三成がしっかり抱え上げてくれた。
膝の上に座らされて向き合えば泣き顔に唇が降りてきて、雨が降るように何度も口づけられる。

「あんまり可愛いことを言って煽るなよ」
「愛が足りなかったんじゃないの?」
「ふっ…その様子では、もう緊張は解けたようだな」

笑んだ三成の表情は今までにないくらい嬉しそうだ。
もしかしたら、ずっと淋しい思いをさせてたのかもしれない。

「三成…大好き」

今はもう、素直な心でそう言えるから。
これからはもっともっと、私の『大好き』を貴方に伝えてあげる。



化猫の小径のノウラロキ様より

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