夜が明けてだいぶ経つ。

僕は、海岸に立って煙草に火をつけた。
海猫が鳴いている。
誰がそう呼んだかは知らないが、海猫。いいネーミングセンスだ。そう思わないか。

ざざん、と波が僕の足下へ寄せた。
残念でした。君がいくら僕を浚おうとしても、僕はここを動く気はないよ。
生憎、僕はここが気に入っているんだ。

口ずさむのは鼻歌だ。
煙を交えて、どこかへ上っていく。
何を歌っているのかだなんて聞くなよ。僕だってこの歌の題名を知らない。

海原は金を映していた。
あそこを走る船は、自分たちが黄金の上を航海していることを知っているのだろうか。


僕の目の前を子供が駈けていく。

そうだね。
もう行く時間だ。
僕らはいつだって見えない何かに急かされて生きている。

煙草を消した。
煙は消えて、灰が残る。

僕は海原にむかって歩き出した。
お気に入りの革靴が、海水に沈む。
水は黄金を映すのに、僕の革靴は相変わらず茶色だ。
でもそんなに悲観することはない。
僕は黄金より、茶色のが好きだからね。



それじゃあ皆さんお元気で。
大丈夫。いつか会えるさ。僕らはみんなあそこで生まれて、そしてあそこで巡り会うんだから。



hired by ジューン
<海原>





   

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