星貝マーケット




「ここは、星なんか必要ないね」

隣で曹達水を飲むロムニーが呟く。

僕らは赤く塗られた橋の欄干に寄りかかっていた。
僕とロムニーが出会ったのは偶然だ。
待ち合わせたわけでも、一緒にここへ来たわけでもない。
僕は月光ランプを新調しに来たのだし、ロムニーは金雀枝でできたシロフォンを買いにきたらしい。
橋上で一休みする僕に、声をかけてきたのがロムニーだったというわけだ。

ここは、この辺じゃ一番大きいマーケットだ。
昼間はもちろん、夜中でも明るい。
だから、ここでは空に星は輝かない。
代わりに"星"があるからだ。
このマーケットが明るい理由もその"星"にある。

「こんなにキレイなのにね。死んでしまえば、崩れてしまうなんてもったいない」

ロムニーが飛び回る星を一匹手に取った。
手のひらの上で、星のように光るものがある。
貝殻のようにも見えるミルク色のキチンを背負い、そこが星のように発光しているのだ。
名を、星貝という。
このマーケットにしかいない羽虫で、貝のような形をして光っていることから星貝だなんて名前がついたとか。
全部、兄さんの受け売りだ。
「コリデール、いいランプは見つかった?」

ロムニーの手から星貝が逃げる。
列を成して飛ぶ仲間のもとへ、やがて混ざった。僕はそれを横目で追いながら答える。

「今使っているやつが一番のお気に入りだから、なかなか難しいよ」

僕らのランプは一定期間で交換しなければならない。
星貝が生まれ、光を宿し、その光で体内を焼かれるのと同じだ。
僕らの使う月光ランプも、光で内部が駄目になる。
いくら気に入りの物でも、時期が来たら交換しなければならない。

「僕が一緒に選んであげようか」

ロムニーが飲み干した曹達水の瓶を川へと放り投げた。
青硝子が、緩やかな川の流れに飲まれ、泡となって溶ける。

「ありがとう、でも大丈夫。自分で探すよ」

ロムニーは残念そうな顔をして、「そっか」とだけ呟いた。
悪いことをしてしまったかな。
でも、これだけは自分で選びたい。

「じゃあ、僕もシロフォン探しを再開しようかな。今度ビキューナが来るんだ。コリデールもチェリオットと一緒においでよ」

「ありがとう。行かせてもらおうかな」

僕らは、そこでさようならをして別れた。
星貝が僕らのあとを追う。
彼らは人について回る習性があるのだ。

「あ、そうだ!コリデール!」

橋の向こう側で、ロムニーが僕の名を呼ぶ。

「スズノも来るよ!アメを連れてくるって!」

懐かしい友人の名に、僕の顔が自然とほころぶ。
ロムニーが大きく手を振って、今度こそ僕らは背中を向けて歩き出した。





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