うちゅう







父さんがルーペを使って必死に何かを見ていた。
手には、黒い物体。
ここからじゃ見えないけれど、今度は何を持ち出してきたのやら。

「父さん、夜食。ここに置いておくから」

父さんが人形みたいに跳ねる。
僕がいたことに気がつかなかったのだろう。一応、ノックしたのに。

「やあ、いいところに来たね。これを見てごらん」

黒い物体が手のひらに乗っている。
そいつは貝の形をしていて、ぴくりとも動かない。
いったい、こういうものをどこで見つけてくるというのか。

「これは、宇宙だよ、イオ。覗いてごらん。今ちょうどビックバンを起こしているところさ」

僕はルーペを借りて、貝を覗き込む。
ルーペの丸を通して見えたのは、驚くべき光景だった。
光が渦巻いて、互いがぶつかりあっている。
今、油膜のような薄い何かが、濃霧のようなもやもやにぶつかったところだ。
最初こそ、それこそまるでベーゴマのようにぶつかりあってははじけとび、ぶつかりあってははじけとびと、忙しかったが、見ているうちに油膜と濃霧は相殺されてしまった。
今はもう跡形もない。
そうかと思えば、銀でできた軍団が上から下ってきて、突然大きく広がって散ってしまった。
今度は木馬だ。
羽の生えた木馬が黒い闇をただひたすらさまよい、突然できた大きな口に食べられてしまった。
とにかく忙しない。
宇宙の中で、色々な光が交錯し、殺し合い、または慈しみあっている。

「どうだい、イオ。すごいだろう?」

「これは、なんなの?」

「見たままさ」

僕が父さんを見れば、彼は僕の手のひらから貝を取り上げてそれをさっさと箱にしまってしまった。

「もっと見たいよ」

「ダメだよ。あまり眺めていると、目が潰れてしまうからね」

また、明日だ。
そういって、僕じゃ手が届かない棚の上へと乗っけてしまった。

「さあ、イオ。夜食を食べようじゃないか。今日はなんだい?」

「……じゃこと梅のお茶漬けと高野豆腐の煮たやつ」

僕が拗ねたように口を尖らせれば、父さんは笑いながら僕の頭を撫でる。

「大丈夫。宇宙はどこにも逃げないから。僕らがここにいるかぎりね」








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