空が泣いているね。 隣に立った君が「空が泣いているね」と笑った。 あまりにうっすら笑うので、それが笑顔であると認識するのにだいぶ時間を要した。 「今日は、晴れだよ?」 僕が言えば、君はそうだねとまた笑う。 今度は、音を立てて、肩を揺らして、笑った。 何がおかしいのか、君はとてもたのしそうだ。 薄い皮膚の下で、草花が芽吹いているみたいにざわざわと咲う。 一頻り笑って、君はまた空を見た。 「空が、泣いているよ。もうすぐ、雨だ」 空は雲ひとつない晴天で、今日も澄み切っている。 それでも、君は泣いているという。 「もうすぐ、雨なんだよ」 もう一度、君は笑った。 今度は、静かな、冬の海岸みたいに寂しい笑顔だった。 それを見ていると、僕の中から何かが湧き上がってくる。 君の名を叫んで、僕の中へ閉じ込めてしまいたいような。 君の視界を覆って、世界から切り離したいような。 そんなわけのわからない何か。 泣いているのは、空じゃなかった。 僕の心、それから君。 君の手が僕に伸びて、頭を引き寄せられる。 額と額が小さくぶつかって、君の息が僕のと混ざる。 「空が泣いているね」 君が最後に呟いて、地面にポタポタと雫が落ちた。 このとき、僕は世界に僕独りきりじゃなくって本当によかったと、そんなくだらない、当たり前のことを思った。 君がいてくれて、本当によかったと、心からそう思った。 ← * → |