雪に沈む。君は僕の希望。 駅舎から見える景色は、真っ白だった。 二重にされたサッシュはありがたいことに風を通さなかったが、たまにガタガタ鳴いて、外の寒さを僕らに伝える。 それでも、風というやつは狡猾で、この狭くてボロい駅舎のそこかしこにある穴から、その体を滑り込ませてくる。 僕らを守ってくれるのはだるまストーブだ。 小さな小窓から覗く火が、床を、僕の手を、そして小瑠璃の白い肌を橙に染めた。 僕と小瑠璃は、汽車に乗って遠くの町に行く予定だった。 けれども、昨晩から降り続いている雪は、しんしんと静かに地へたまり、やがて汽車の足を止めてしまったようだ。 おかげで、僕と小瑠璃はもう長いことここで足止めを食っている。 遠くの町、と言ったが僕らに行く宛はなかった。 遠くへ行けるならどこでもいい。 小瑠璃を連れてゆけるのならば、どこでもいい。 僕は、外を見た。 雪が止む気配はない。 汽車の来る気配もない。 聞こえるのは、がたがたと窓を鳴らす風の声。 コークスを燃やす火の吐息。 それから、小瑠璃の形のいい唇から漏れる呼吸。 それらの音を聞いていたら、僕は急に不安になった。 このまま汽車は来ないのではないだろうか。 もしかしたら、雪はもう止まない気なのではないだろうか。 僕と小瑠璃は、このままここで静かに死んでしまうのではないだろうか。 不安は、僕の足元から這うようにして迫り上がる。 僕はそんな正体不明の不安から顔を背けるように、小瑠璃の手をぎゅっとつかんだ。 小瑠璃の睫毛が震える。 短い呼気を吐いて、小瑠璃の目蓋が開いた。 目が虚ろに辺りを彷徨い、そっと声を出す。 「汽車は、まだなの?」 たった一言だったけれど、小瑠璃の声はこの閉鎖的な空間で、僕に安堵と希望を与えてくれた。 それから、 「汽車はもうすぐ来るよ」 雪の向こうに汽車の汽笛を聞いた気がした。 ← * → |