昔、弟のライルが寄宿舎に行く前で、妹のエイミーがまだまだ赤ん坊の頃、母親に読んでもらった本がある。

ただ、幼心とゆうか、子供ながらに、少し怖い絵本だった。


「………どんな内容だったんだ?」


今はほとんど、紙媒体ではなく電子媒体な為に、本はあまり売られていない。

ちょっとした娯楽誌程度だ。

たぶん、その読んでもらっていた本もある意味、希少価値があっただろう。

「どんな…だったかな…。今でも、少し薄気味悪い気はするわな」

「薄気味悪い本、を何故読んでいたんだ…」

「さあ…わかんねーよ。昔の話だ」

「………………」


母親達のことを思い出すと、あの自爆テロ事件が蘇る。

(KPSA…刹那の所属していた…組織)

もう、無人島で決心つけたハズだろ!と心の中でロックオンは自身を叱咤した。

「…ロックオン……」

「刹那………」

「…絵本の内容は?」

「へ…?」

「まだ言われてない」

「ああ…ごめん!」


ロックオンは思いだし、手をぽん、と打つ。

そして、刹那からの見えない優しさに目を細めた。

(刹那…気付いてるだろ?あの日、俺が大人げなくも銃をお前に向けた日のこと。それを俺が思い返していること…)

気付いてるって知っていても、あえて触れない。

ただ、それだけの優しさに救われたんだろう。


「…ロックオン…」

「はいはい…なんだっけなー」


ちょっとしつこくなってきた刹那にロックオンは苦笑する。

そうさせたのは、ロックオン自身なのだが。


「えっとなあ。…あるところに動物が好きな女の子がいたんだ」

「…ありきたり……」

「いやいや。刹っちゃん。まだ始まったばかりだから」

「…………」

「そして、その女の子の誕生日にうさぎをプレゼントされるんだ。白くて、目が真っ赤のうさぎをな」

「………」


お?ちゃんと聞いてくれてるのか?よしよし。とロックオンは満足気に続きを話す。


「だけど、そのうさぎをプレゼントした婆さんが、『満月の夜はうさぎを外に出すな。うさぎに満月を見せるな』って言うんだ」

「………婆さんが命令口調」

「……いや。刹っちゃん、そんなところ突っ込まれても…」


刹那のものすごく真面目な顔のツッコミに、ロックオンは苦笑を通りすぎて、呆れてきた。


「…まあ。いいか。…そして、女の子は満月の夜、不安になって、うさぎと一緒に寝る。だが、うさぎは満月にとらわれて、窓から逃げるんだ。
女の子は一目散に、うさぎを走り回るさ。大事なうさぎだからな。

すると、住宅街だったはずの場所が一面、月見草の花畑になっていた。

そのことを不思議に思いながらでも、うさぎを捜す。捜し回った。

だが、うさぎは見つからず、女の子も泣きそうになった。
そしてとうとう、泣いてしまった女の子の涙が月見草にぽつぽつ当たる。

すると、月見草が喋り出した。

『どうしたの。そんなに泣いてしまって』

女の子は言った。

『うさぎが逃げてしまったの。満月の夜は逃がしてはダメ、と言われていたのに』

と。月見草は突然ハンカチを持っているか尋ねた。女の子は、持っていないはずだったが、何故か女の子はパジャマのポケットから白い白いハンカチを取り出した。

それを見た月見草は歓喜した。

『きみ、月見草(ぼくたち)をそのハンカチの中に包んで揉むんだ!早く!』

女の子はいわれるがまま、月見草を包み、揉んだ。

すると真っ白のハンカチがどんどん黄色に染められて、数秒も経たない内に、完全な黄色に染め上がっていた。

染め上がった瞬間、他の月見草が満月のところまで早く走れと言う。

続けて、うさぎが満月に連れていかれる。

自分のうさぎを見つけたら染めたハンカチをうさぎの顔に巻きつけるんだ、と言われ、女の子は走った」


ロックオンの語り口があまりにリアルな感じがして、刹那は聞き入り、ボーッとしていた思考もストップさせた。

そんなことなど知らず、ロックオンはそのまま語り続ける。

「女の子が走り着いた時、大きな、…俺たちがいつもいる、この宇宙の月が目の前に現れていた。

その月からは、綺麗な月明かりに照らされた、銀色の光の梯子が風に揺らされながら延びていた。

そして女の子の足元には、女の子が飼っていたうさぎとおんなじうさぎがいっぱい、いた。

そのうさぎ達は、操られているように、機械的にその梯子を上っていく。

女の子は、そのスピードに驚きはしたが、月に連れていかれる!と必死にうさぎを探した。

だが、足元に自分のうさぎはいなくて、梯子のうさぎを目で追いかけると、月に一番近い、梯子のてっぺんにそいつはいた。

女の子は、梯子を駆け上がって、…もちろん。その間にうさぎ達を梯子から降ろす。…自分のうさぎに辿り着いた。

うさぎは、もう少しで月に前足を伸ばすところで、間一髪だった。

女の子は、うさぎに黄色のハンカチを巻くのを忘れず、梯子をゆっくり降りていった。

それからはずっと、女の子は満月の夜。
うさぎを大事に月から守っている。

………こんな感じだな」

「……うろ覚えにしては、はっきり覚えているな」

「…まあ、印象的だったからな」


刹那からのあまりないコメントに返しつつ、脳裏に絵本の挿し絵を思い出す。

月見草も女の子も大きな月の絵も、なにもかもはっきり覚えている。

話の内容は、箇条で割愛をしたが、紙媒体の絵本というのにも、印象的だったのだろう。


「……だが」

「うん?」

「その絵本の内容の主旨がよく分からないな」

「………そうか?」


刹那のズバッとした物言いに、ロックオンは、困惑する。

いろいろ考える末、ロックオンは言った。


「絆の深さを試す…ことが主旨な感じはしたがな」

「…絆の…深さ…」

「ああ。俺たちマイスターにも絆の深さがなけりゃあ、今までの戦いは越えてねえハズだ。そして、その戦いは、深さを試す。…わかるか?」

「……………ああ」


刹那は間を置くが、しっかりとうなずいた。

ロックオンは、嬉しそうに顔を綻ばせて、刹那の頭をわしゃわしゃと撫で回した。


「……やめろっ」

「いいじゃねえか!あー!もー!可愛いなあ刹っちゃんは!」

「…っ刹っちゃんと呼ぶな!」


なお抵抗する刹那に、ムッとロックオンは一瞬頬を膨らますが、刹那の顎に手を添える。


「……ろ…」

「刹那……」


刹那の顔に自分の顔を近づけ、小さな唇に自分の唇を合わせた。


「ん……っ」


身動ぎする刹那をそのまま抱き締めて、違う角度から再度、キスを交わす。

そのまま戯れていると、ロックオンの携帯端末がバイブレータが鳴り震えた。


「はーい…っと。ミス・スメラギ?」

『二人とも。お幸せそーで何よりだけど』

「ああ、ありがとう」

『…(別に褒めてないんだけど)…オープン回線区域でラブラブするのはどうかしら?』

「なっ…!」

「あちゃー…忘れてた」


スメラギの言葉に、刹那は顔を真っ赤にし、ロックオンは溜め息を漏らした。


『見せつけてくれるじゃない!ロックオン!』

「え…見せつけてって、オープン回線ならともかく、姿なんて」

『ハロよ!!』


クリスティナにそう叫ばれて、ロックオンと刹那は、一気にハロを見やる。

ぱたぱたと羽根(?)を動かし、小さな二点の目を光らせていた。


『この前、ビーチに行った時に撮ってくれた画像送るって言ったの、ロックオンでしょ?!なのに、画像をくれない上に、近況ビデオデータ送信のままにして!』

「あー…本当にごめん、クリス…」


合掌して、宙力で浮く端末に映るクリスティナに謝るロックオン。

クリスティナは、一つ溜め息を吐くと、言った。

『……私達のことは、別に地上の時にいろいろ驕ってくれたら、許してあげるけどね』

「……え…ああ」

『…謝る相手、間違ってると思うなー…?』

「へっ?」


すっ頓狂な声をあげ、ロックオンは隣を見ると、刹那がこれ以上ないくらいに眉間にシワを寄せていた。


「あっ、刹那?あの注意が散漫しててさ。いや、ほんとに………」

「…注意が散漫してる奴に…絆がどうこう、言うものではないな」

「……はい…仰る通りで……」

「………」


刹那は、そのまま部屋を出た。

整備中のエクシアの元に行くため。


『あーあー。謝りなさいよ?全身全霊かけて』

「……わかってるよ」


ロックオンは溜め息を深く深く吐いて、端末に向き直る。


『……ロックオン』

「ん?どうした、ミス・スメラギ」

『絆の深さよりも、手放したくない、執着心の話に聞こえたわ』


あなたは、美化しすぎね。と言ったスメラギに、ロックオンは苦笑した。


「…無茶苦茶する小僧だからな。…戦いになる度々、怖くて仕方ねえ…」

『………』


ロックオンの本音に、スメラギは聞き入る。


「すぐに、どこかに行っちまう。それが、不安でな。…マイスター年長者にしては情けねえ…」

『………そう……』


スメラギは、相づちだけ打って、続けた。


『…悪いけど、ミッションが入ってるのよ。いいかしら?』

「はいよ。そうだと思ってたんだがな」

『じゃあ、1130(イチイチサンマル)には開始するわ。準備、お願いね?』

「了ー解!」


端末の連絡を切ると、部屋を出る。


すると、そこに刹那が立っていた。


「うお、びっくりした!!…刹那、エクシアの元に行ってたんじゃなかったのか?」


そう、言い切るか言い切れないかの前に、刹那はロックオンに抱きついた。

ロックオンに抱きつく、刹那の肩は、ふるふると小さく震えている。


「…どうした?刹那」

「……………」


ロックオンが、刹那の耳元に呟くように話し掛けると、刹那は顔をゆっくり上げた。


「…俺は…」

「うん?」

「俺は、お前の前からきえたりしないっどこかにもいかないっ」

「…刹那…」


聞いてたのか、とロックオンは呆然とする。

だが、その伝えようとする必死な姿と、涙の膜が張り、泣かないようにしている姿。

そんな刹那が愛しくて、いとしくて。

ロックオンは、ぎゅう、と刹那に抱きついた。


「ありがとう…刹那」

「……ん………」


今度は誰にも見られない回線抜きで、ロックオンと刹那は、ゆっくりと唇を重ねた。


うさぎは月を目指し、飛ぶ
(月みたいなあんたの元になら行きたい)(それは口説き文句かい?刹那)(…そういうつもりだが?)(おっとこ前だなー、大好きだよ、刹那)(……あいしてる)



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企画サイト様『舞い降りた天使』様に参加させて頂きました
お題に添えているか
どうかわかりませんが…
企画者様、ほかの参加者様、ありがとうございました!

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