夜が過ぎれば日が昇り、朝日が輝く。そんなこと、久しく忘れていた。
時間の流れというものの感覚を希薄にするのだ、宇宙という場所は。

"グリニッジ標準時、午後10時をお知らせいたします"

ニュース番組が終わる、ふとその前に放送されていた陳腐なドラマのチープなヒロインの笑顔を思い出す。
ニュースなんて見てしまうと作り物の笑顔が更に作り物めいて見える、なんて思ってしまう私は随分人間として渇ききっているかもしれない。

液晶の向こうに混在するイデアルとリアル、まるで私達のようだと思う。
アナウンサーが時刻を告げた途端、電源を切ってしまった。

普段リアルと向き合い理想を追い求めすぎている分、こういう時こそ逃避が必要なのだ。
「もう寝るのか」
「そんなまさか。いくらなんでも早すぎるでしょう?」

読みかけの本を手にしようとローテーブルに手を伸ばす。
読書は嫌いじゃない。少なくともリアルよりはマシな世界に入った気分になる。


けれど、困ったことになった。

先ほどから全く読み進めることができないのだ。
いつものことなのに、いつもと変わらない距離なのに

「……刹那、」
「どうした?」
「読んでるの見てるだけで、つまらなくない?」

多分、これは私の口実に過ぎないのだろう。
「ナマエが楽しそうだからつまらなくはない」
「……なにそれ」

思わず笑い出しそうになった。
そんなに楽しそうな顔してる覚えは全くと言っていいほどないのに。

「でも、なんだか勿体無い気がするの。読書は一人でもできるけど、折角刹那と二人だけでゆっくりできる日なんてほとんどないから。だからお話でもしましょう?」
「気にしなくてもいい」
「私がそうしたいの。……ダメ?」
「ナマエがそうしたいなら、」

間違ってはいないけど、実際はいつもと変わらない刹那の隣が、妙に気恥ずかしかったのだ。
きっと、滅多にない穏やかな時間のせいで二人の距離感を改めて意識してしまったから。


(あなたの隣じゃ読書も身に入らない)


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祝!映画公開!
素敵な企画に参加させていただきありがとうございました

朔緋
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