自分の愛機であるガンダムから降りると、そこは一面のコスモス畑だった。
赤、白、ピンクなどの様々な色のコスモスが、辺り一面を覆っていた。
懸命に咲くコスモスたちを踏みつけないように、足下に注意しながら歩く。

「ここに、こんな所があったなんて思いもしなかった。」

ナマエの後ろから、静かな足音が聞こえた。
思い当たる人物は一人しかいない。
ダブルオーガンダムから降りた刹那だった。

「綺麗だね。」

「あぁ。」

風がサワサワと軽い音を立てて流れていく。
時節強い風が吹いて、コスモスの花びらが宙を待った。


刹那はナマエの隣に立って、コスモスを眺めている。
そこで、一面のコスモスの中に一本の道を見つけた。
大きさがバラバラの石が、点々と並んでいる。
コスモスはその道を避けるようにして生えていた。

「ナマエ、おいで。」

「刹那?」

刹那はナマエの手を取って、小さな一本の道を歩き始めた。
コスモスの花がサワサワと揺れている。
道自体がコスモスに囲まれているので、二人は必然的にコスモスに囲まれた。
道が途中で無くなってしまった。
刹那が立ち止まると、ナマエは勢い余って刹那の背中に顔をぶつけてしまった。

「大丈夫か?」

「ご、ごめん!刹那、何か書いてあるよ。」

ナマエは道の終わりのところで、コスモスに埋まっている状態の碑文みたいなものを見つけた。
丁寧に花を掻き分けて碑文を見る。
随分昔の物のように思えるが、綺麗に残っている。



《I planted cosmoses for you.》
《In fall,they will be in full bloom.》
《I've been waiting for you here.》

《DEAR My Lover.》



「《貴方のためにコスモスを植えました。秋になれば、満開になるでしょう。私はここで貴方を待っています。》」

ナマエが碑文を読み上げた。
何かの誓いにも聞こえるその文は、恐らく恋人に向けての物なのだろう。
文字が掠れて読めなくなっているが、この地の歴史を考えると、これは紛争中に書かれたものだというのが分かった。
きっと、ここにあるコスモスは長い間に種子が飛んでここまで見事になったのだ。
碑文の人物の恋人は、このコスモスを見たのだろうか。ふいに、ナマエは刹那の手を握り返した。
強くギュッと握って、刹那が自分の隣にいることを確認するためだ。

「貴方はここにいるよね?」

刹那はナマエの肩に少しだけ力を入れた。
ナマエは足下のバランスを崩して、コスモスの花の中へ倒れ込んでしまった。
刹那は咄嗟にナマエの体を抱き寄せて、彼女を倒れた衝撃から守った。

二人の顔が近い位置にある。
ナマエは少しだけ頬を赤らめて、顔を背けてしまった。

「ナマエ」

名前を呼んで、刹那はナマエの額に優しいキスを落とした。
目線が合えば、今度は唇に唇を押し付けた。
口づけが終わって、刹那がナマエの髪を撫でながら彼女を見ると真っ赤になっている。
ナマエはキスに慣れていなかった。

「ナマエ、すごい真っ赤。」

「だ、だって、キスってまだ慣れてなくて・・・!」

露骨に言われて更に恥ずかしくなって、ナマエは刹那の肩を押した。
でも青年である刹那の力に敵うはずもなく、肩を押した手を引き寄せられて、彼の胸の中に納まってしまった。
腕の温もりが伝わってきて、ナマエは刹那の胸に頬を寄せた。


すると、急に刹那に体を起こされた。
どうなったのかよく分からないでいると、刹那がナマエの髪の毛に手を伸ばした。

「すごく綺麗だ。」

刹那は手元にあった、鮮やかな色のコスモスをナマエの髪の毛に飾る。
微笑む刹那に、ナマエの鼓動は早くなった。

ナマエは今度は自分から、刹那を抱き締めた。
そこにあることを確認する。


「刹那、」

「何だ?」

「私、幸せに触れているみたい。凄く穏やかで、嬉しいの。」


どこか切なそうに聞こえる声は、刹那を同じ気持ちにさせた。
刹那は何も言わず、抱き締める手に力を込めた。


揺れ動いている世界の中で、同じままでいるのは不可能だろう。
しかし、人はそれを望まないときもあるのだ。

今ここで、
コスモスに包まれている恋人達のように。





fin
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