『ライル?ふらふらと移動したら疲れる。何の為の休息の地だと思って…こら!人の話を最後までちゃんと聞きなさい!』

『あー、もう!ティエリアは怒ってばっかだなぁ』

『ちょっ…待ちなさい!そっちの森は天然の木が生えているんだ、危ないっ』

『いいからいいから!早く、こっちこっち!』

地上にある基地へと、機体を収納した後、その周りの木々達にライルは興味を示した。
基地や倉庫などの莫大な土地を隠す為に、沢山の木が生えている、その森。
葉を茶色に染めている木は、自然の力で育ったもので、緑色を纏っているものはこの時代ではよく見かける、遺伝子操作により生まれた木だ。
自然の木は珍しいもので、思わず触れたくなってしまうのは仕方ない。
ぴょこぴょこと楽しそうに跳ねて、ライルは森の中へと姿を消す。
ティエリアは呼ばれるがままに後を追った。

わざと険しい道ばかりを選んでいるのか、ティエリアはついて行くのが精一杯。
時より後ろを振り向いては、手招きをして笑顔を見せてくれる。
その笑顔が再び前を向いたのを確認してから、額に手を当て、頬を緩ませ、何とも表しがたいもどかしさを胸に抱くティエリアだった。
緩んだ頬を叱咤し、前を向くと、ライルが立ち止まっていた。
今が追い付くチャンスだとばかりに、ティエリアはらしくないと思いながらも駆け出した。

『捕まえた。何か見付けたか?』

『あ、捕まっちゃった。…ううん、何でもない。呼ばれたような気がしただけ』

『こんな森の中で?』

『だよな。気のせいだ』

不思議とライルが淋しそうな影をおとしていた。
ちょっとからかって、怒らせてみようか、とティエリアはひょいと一枚の葉を拾い上げる。

『森の妖精がライルを呼んだのかもしれない』

ライルは固まっていた。
流石にこれは馬鹿にし過ぎたと思い、訂正しようとすれば、ライルが葉っぱを奪い取った。

『森の妖精!?凄いな!俺を呼んでんの!?ティエリアの方が妖精っぽいけど、俺を妖精が呼んでんのか!』

冗談だ、とライルを止めようとした手が宙を泳ぐ。
そんなの居る訳ないだろう、と誰もが思うかもしれないが、目の前ではしゃぐライルを見ていると、妖精ぐらい沢山居そうな気にさせられる。

『ねぇ、ティエリア…いい匂いする。甘い…優しい匂い…花?』

『匂い?僕にはしないが…』

『こっち!』

ティエリアの手を引き、ライルは走りだす。
太陽の光が差し込む森の中を二人、手を繋いで駆けている光景は、何とも現実味の無いもので、このままならどこまででも行けるような錯覚を起こした。

『…これ?あ!いい匂いっ』

見つけた花は、一つ一つがとても小さかった。
こんなに小さな身体から、人々を酔わせる柔らかい香りが放たれているとは思わず、ライルはまじまじと見つめていた。

『いい匂いするから、凄い派手な花だと思ってたぜ』

『そうだな。僕ももっと大きいものかと…』

『同じ事考えてたのか、えへへ』

『そうかもしれないな、ははっ』

甘い香りに包まれながら二人で笑い合っていると、凛とした第三者の声が耳に届く。

『バカップル、こんな所で何をしている』

『あっ、刹那だ!』

いつの間にか、森を抜けて、別の収納庫まで辿り着いていた。
ライルは呆れ顔の刹那に駆け寄り、あれ何て花?なんて聞いていた。

『ティエリアー!キンモクセイだってー!!』

『キンモクセイ…』

ふわっと風が吹き、鼻腔を擽るその香りに、ティエリアは小さく微笑んだ。

end.
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