「・・・ん・・」


ふと目が覚めて、ゆっくりと瞼をあげる。カーテン越しには光が一つも感じられず辺りがシンと静まりかえっている事から、未だ夜であると知る。何故この時間帯に目が覚めてしまったのか、とはっきりしない意識の中で考えるが思い当たりがない。だがつい先ほどまで夢をみていた気がする。何の夢を見ていたかはもう忘れてしまっていたが、きっとそれの所為なのかもしれないと思うことにした。


静かな部屋には自分の呼吸ともうひとつ、深く静かに息を繰り返す音が聞こえる。頭をそちらの方へ向ければ、自分より一回り大きな身体が呼吸に合わせてゆるやかに上下していた。きっと深い眠りについているのだろう。


こんな時間に起きていても何もすることはない。もう一度目を閉じようとするが、そこでのどの渇きを覚えた。再び眠りに就くまえに、渇いた身体を潤しておこうと私は隣の眠り人を起こさないようにそっとベッドから離れた。




──ぱたん

冷蔵庫に冷やしてあるミネラルウォーターを一口、二口と胃に流し込む。のどを通るそれがやけに冷たく感じた。そう言えば、と薄暗いなか時計を見やると午前2時を過ぎた頃であった。まだ朝までは大分あるなと思い、残りの水を飲み干した。





「あ、」


寝室のドアを開くとさっきまで深い眠りに就いていたはずの彼が、上半身だけを起こしてこちらを見ていた。


「ごめん、起こしちゃったね」


「・・・いや」


ドアを閉めてベッドに近づきまだ自身の体温が残る場所に身体を預ける。


「・・眠れなかったのか」


彼の表情が少し険しくなる。


「ううん違うの・・なんだか目が覚めちゃって」


するとひそめた眉を元に戻し、ほっとした様に目を瞑る彼にわたしは自然と微笑みが漏れた。


「そうか」


「・・なんか起しちゃってごめんね」


あんなにぐっすりと寝ていたのに、些細な物音でも起きてしまう位では熟睡し切ってはいなかったのだろう。会話が途切れてやや沈黙に飲まれた後、彼の細く小さな声が答えた。


「・・・お前がいなくなったから」

ふいに伸びてきた手に引き寄せられる。背中にぎゅっと腕をまわされ、きつく抱きしめられた。心音がはっきりと聞こえる場所に頭を預け、その意味を理解してから自身もそれに応じる様にしてまた彼の身体をぎゅっと抱きしめた。


「大丈夫だよ。・・ちゃんといるから」



どれ位そうしていただろうか。ぎゅっと回した腕と腕の力を抜き、身体を開放された後にわたしはふふ、と笑みをこぼした。



「刹那」


今度はわたしが彼を抱きしめた。


「心臓の音、聞こえる?」


彼の頭を胸に抱き、その柔らかい髪を何度も撫でる。


「・・ああ」


「ちゃんと、ここにいるからね」


胸に抱く彼の耳が薄明かりの元でも赤く染まっているのが分かって嬉しくなる。だが、そんな穏やかな時間もつかの間。下半身に違和感を感じて声をあげた。


「っちょ、刹那?」


「・・お前が悪い」


するりと腕を抜け出した刹那の顔がいつの間にか目の前にあって、キスをされる。それが行為の始まりであるという事を私は理解した。


「・・え、もう朝になるってば」


既に胸元をまさぐる手を止めようとするが、完全にそっちのスイッチが入ってしまったらしい彼の動きは止まることはない。


「・・すぐに終わる」


「もう!」


形勢逆転か、次に頬を染めたのは紛れもなくわたしだった。







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