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「でも……オレ、男だよ」
サボが躊躇いがちに言う。
「そうなのか?」
「いや、見たらわからない?」
「人間の雄雌はよくわかんねェ。でも……サボには欲情したから」
じわじわとサボの顔の火照りがひどくなっていく。終いには茹で蛸のようになった。どこに照れる要素があるのかが、やはりよくわからない。
「……ああ、そうか。人間は交尾の前に言うんだったな。……好きだ」
「え……」
目が見開かれた。オレが狐の血をひいてるってことを聞いてもそれほど動揺はしなかったのに、変な話だ。でも人間はそういうものを大事にするのかもしれない。獣からして見れば、欲情も愛情も似たようなものだけど。
「……オレはサボが欲しい」
思えば初めて会った時から、オレはサボが欲しかったのだ。これが人間の言う一目惚れというものと等しいのかは一概に言えないが。
サボが目を伏せた。じっとそれを見つめていれば、頷く。
「……オレも、好きだよ」
顔をあげた。目が合う。瞳には人ならざるオレが映っていた。赤い頬も、恥じらうような小さな声も、何もかもが自分の支配欲みたいなものを疼かせる。自分が自分でなくなったみたいだ。ただ獣のように欲するだけ。
愛とは恐ろしいものなのだ、と、顔も思い出せない母を脳裏によぎらせた。人でありながら狐を愛した母。
オレは今、人であるサボが欲しくて欲しくてたまらなくて。
ああ、……もう引き返せはしないのだ。
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