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side:海賊ACE
目を覚ませば、知らないところにいて。自分が目を覚ましたという事実に時間差で驚愕する。確かにあの時意識は途絶えたはずで。
それなのに体は無傷。腹を撫でる。
地獄とかいうやつなのだろうか。想像する地獄とはどうも違う。空は濁り雨が降ってきた。冷たい雨に濡れたままオレは座りこんだ。
どうするか。……死んじまったのにどうするもねェか。自嘲する。
ため息をついたとき、気配を感じて顔を上げた。傘を差した金髪の少年は、ルフィと同い年くらいに見える。
明るい金髪と丸い瞳に、ふと思う。どうせ、死んだんならサボに会えないだろうか。でもここが地獄だとしたら会うのは嫌だ。でもオレが天国に行くとは思えないしなぁ。
「エース!?」
酷く驚いた顔。呼ばれたのはオレの名前で。知り合いでもないのに、何故だと目を瞬く。
……もしかして。いや、都合がよすぎるだろうか。
先ほど考えていたことに引きずられ気づけば口に出していた。
「……サボ?」
そうだったらいいなくらいのつぶやきは、不思議そうに肯定された。まさか、本当に?
少なくともオレの知っているサボは一人なのだから……。本当なのか。
再度確かめるように聞けば、やはり肯定された。
……サボ、なのか。何故成長しているのかは、ここが死んだ後に来るところなら理屈に合わなくても不思議はないのかもしれない。この状況で疑うのも馬鹿らしい。
こんなところで会うなんて、今一つ喜べないけど。それに。
「……悪ィなあ、ルフィを守る約束守れねェで」
手紙に託された思いを、結局オレは無にしてしまったのだから。ルフィには仲間がいるから大丈夫だろうが、それでも言うべきことには違いなかった。
戸惑った顔のサボは、まだオレがエースだと思えないらしい。敬語なのもオレが年上になるからか。まあ、あれから大分経ったから、記憶の中とは違うだろう。そう説明すれば、サボは言う。
「あの、オレは死んでないですよ。目の前に生きてるでしょ」
は?
……いや、あの時オレは……。
「とりあえず、家来ます?」
戸惑ったままのオレはその言葉に従った。
「で、言うべきことはないのか」
「最初はともかく、話を聞いたら本当に別世界のエースだぞ?エースくらいしかわからないことも知ってるし。多少別世界だから違うけど。住んでたところとかさ」
いろいろ昔のことを話してみればサボは完全に信じてくれた。思い出はだいたい被っているらしい。……別世界なのに。世界が違うから齟齬はあるみたいだけど。
そして。
目の前にいるのは、紛れもないオレで。不機嫌そうにサボを睨んでいる。
本当に、オレだ。オレより若いけど。ルフィと同い年だった時のオレ、そのまま。
なんだか自分でない自分を見るのは妙な状況で、若干気味が悪い。たぶんこっちのオレもそう思っているのだろう。不機嫌そうな顔は変わらない。
「いいだろ?どうせ、オレらで住んでるんだし。それともエースは自分を雨の中放り出すわけ?」
「……なんだよ。やけにそっちのオレの肩を持つな。やっぱり許してなんかないんだろ、あのこと。そっちのオレの方がいいってことか?」
唇を尖らせたこちらのオレは、刺々しく言う。喧嘩でもしていたのだろうか?
なんだか、あの時から喧嘩することすらできなくなった身からすると、それすら羨ましいんだが。
こちらのオレの気持ちは、オレ自身だからか、よくわかる。サボを取られたくないんだろう。それはわかる。それは、わかるが……。オレってあんなに子供っぽかったか?
脳裏にマルコが「エースも子供だろい」と言って消えた。……いや、確かにそう言われてため息つかれた覚えはあるけど!
やっぱり年の問題なんだろうか。
「別にどっちのエースがいいだなんて話してないだろ!」
「まあまあ、喧嘩すんなよ。オレは別に泊めて貰わなくてもなんとかできるから気にすんな」
二人の肩に手を当てて、苦笑いする。
「……いい」
「ん?」
「泊まれよ。お前もオレなんだろ?自分で自分を追い出すなんて馬鹿みてェだし。……サボが言うから仕方なくだ」
サボが笑う。何笑ってんだよと文句を言うこっちのオレ。
なんだかな……。
自分で数年前の自分を見ることがこんなに恥ずかしいことだとは思わなかった。
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