チョコの海で溺れたい。うっとりした顔でそんなこと言うもんだから即座に押し倒した。
「…綱吉、何ですかこれは」
「チョコプレイしたいってことだよね!!分かるよ骸オレもしたいと思ってたんだ!!」
「どういう捉え方をしたらそうなるんです!退けなさい!!」
「どろっどろに溺死させたげる」
「ばか、ばか、やだっ」
拒否ばかり紡ぐ口を近くにあったチョコクッキーで塞ぐ。骸が学校でもらってきたものだ。
やはり整った顔立ちのこいつは学校でも相当な人気のようで、両腕いっぱいにチョコの山を抱えて家に来た。
最初は幸せそうでしかし腑に落ちないという顔をしていて、日本でのバレンタインデーの意味を教えてやるとぱああ、と更に顔が輝いた。単純。可愛い。
そしてどれから食べようか吟味している内に呟いた言葉が冒頭のもの。んで、今に至る。
「恋人がいるのにチョコを断らなかったお仕置きも含めてね」
「っそれは、知らなかったし…」
「知らなかったからって許されるもんじゃないの。そういうもんなの。」
「…腐れマフィアが!!」
骸の右目の文字がひゅん、と四の字に変わった。あ、まずい、超直感なんてはたらかなくても分かる。
ばっと飛び退くと鼻の先を三叉槍がかすった。かすったくらいだから契約はされていないだろう。…多分。
なおも骸は槍の先をこちらに向け身構えている。オレは両手をあげ降参のポーズを取った。
「チッ、死に損ないが…」
「分かった分かったしないから、それしまえって!」
「誓え!」
「誓う!!」
悲鳴混じりに叫べば、三叉槍は霧になって溶けた。ていうか死に損ないって。
目がマジで怖かった。鬼嫁ってまさにこういうこと?
「…骸を嫁にしたら毎日が修羅場だろうな」
「何故僕が嫁なんです」
「白無垢似合うと思うよ」
自分で言ってからふと違和感を覚える。
先程の言動をなぞりああ、と納得がいった。
「骸が白無垢だって!ぷぷ」
「つまらないですよ…」
「ウエディングケーキはチョコケーキだね!」
「…君、何考えてるんですか」
「ボンゴレの経済力を持ってすれば、何メートルものチョコケーキが可能だし?」
骸は呆れた風に何かを言いかけて、はっとした。
何メートルものチョコケーキを想像したらしい。口元が緩んでいる。
そんな可愛いところを見てこっちもにやにやしてしまうのは、しょうがないことだと思う。
ね?と骸の綺麗な、白い左手をとった。
「悪くないでしょ?」
「…ま、まあ考えてやらないこともないです、けど」
「よかったあ、じゃ、これ、受け取ってね」
薬指に狙いを定め、何か言われる前に、とそれを指に通した。すっと入っていったことから、サイズに見誤りはなかったらしい。
そして丁度良くおさまったそれにちゅっとキスを落とした。
「…綱吉…?」
「バレンタインってあっちじゃ、贈り物はチョコレートに限らないんだろ?」
骸は自身の薬指に嵌ったシルバーリングを唖然と見つめ、目を何度も瞬かせた。
その反応が面白可愛くて、ぎゅうっと抱きしめた。ああ今日オレ、骸のこと可愛いって言ってばっかりだな。
「…」
「…」
「…骸?」
あまりにも無反応過ぎて、顔を覗き込んだ。
その瞬間骸も顔をあげたので、至近距離で視線が交わる。
男のくせに嫌に綺麗な目元だ。まあ睫毛とか瞳とか。
「…クハッベタですねぇ!!面白味もない」
「……は?」
馬鹿にしたように鼻を上に向け、高らかに笑う骸。いや、ようにっていうか明らかに馬鹿にしてる。
むかっときて言い返してやろうと睨んだら、いつもより骸の頬が赤いことに気付いた。
ああなんだ、そういうことか。
にやつきが止まらない。
「ちなみに、オレもおそろいの買ったんだ」
「これはこれは、もう臭さを極めると来ましたか!とんだ童貞ですね!!」
「いや童貞じゃねーし」
そこは否定しておく。大体童貞奪ったの誰だよ。
オレの冷めた突っ込みに骸はさらにヒートアップしていって、ついに俯いて両腕で顔を隠してしまった。
余裕のない骸ほど愛しいものはないから、両腕を退けようとすると強く叩かれた。余程恥ずかしいらしい。
ますます愛しさが増す。
困った。
「じゃ、チョコ食べよっか、オレ紅茶淹れてくるよ」
「…どうも」
色々含まれたどうも、にこみ上げた笑いをぐっと我慢し、軽い足取りで階下へと降りていった。
(…沢田綱吉のくせに…沢田綱吉のくせに………………指、輪……)
(お待たせーダージリンでよかったよね?)
(なななななななに言ってるんですか僕が指輪如きで喜ぶわけないでしょう!?)
(…骸さんそれ墓穴)