disagio | ナノ


骸クンの独り言






寝顔が美しかった。

もともと美しい顔立ちをしているのだが、寝ている時はそれがさらに引き立っている様な気がする。
造形美とでもいうのだろうか。とても精密に作られた白磁の人形だと錯覚しそうだ。


「…」


起きている時は常にうるさいくせに、寝ている時は静かなことこの上ない。
死んでいるのではないかと思う。


「…白蘭」


小さな声で呼ぶ。眠りは深く、静かな部屋に声は吸いこまれ消える。
そんな時は大抵彼の胸元にすり寄り、耳を澄ませて口元に寄せるのだった。
そして温もりと同時に僅かな息遣いを感じ、起こさない程度に嘆息する。依存の事実がちらちらと頭をよぎり、不快になる。耳元のくすぐったい吐息が心地よいことも然り。

考えを振り払うようにまた眠ろうと目を閉じるが、なんだか落ち着かない。
結局また薄眼を開けて、目の前の整いが過ぎた顔を見つめる。

美しいものは妬ましいが、好きだった。

白い頬に手をあてると滑らかで冷たい。また生きているかどうか心配になり、口元に指を滑らせ寝息を確認する。
唇も色素が薄い。下手すると病人や死人と認識されそうな顔だが、それよりも純白というイメージが強いのはなぜだろう。案外ウエディングドレスなんて着せたら似合うのかもしれない。
しかしそれでは、新郎が可哀そうか。

唇をそのままもてあそぶ。柔らかく触り心地がよいその感覚は何かに似ているとずっと感じていたが、やっと彼が好む白い砂糖菓子と変わらないのだと気付いた。弾力だとかしっとりした感じだとか、よく再現されているような気がする。
だから食べすぎだと言っているのに。おかしくなってクスリと笑いが漏れた。


「…んぁ、むくろく…?」

「おや白蘭、起きましたか」

「……起きてたの?」

「眠いんならまだ寝てたらどうです、今日は休みなんでしょう」


半目でぼんやりとこちらを見つめる白蘭はまるで子供のようで、ふつふつと胸に愛しさがこみあげてきて寝ぐせのついた髪を手で梳いた。
目をぎゅっとつむり僕の手の心地を確かめる彼。


「骸クンの手きもちいー」

「…」

「露骨に嫌そうな顔しないでよ…てかやめないでよ!」


静まり返っていた部屋は徐々に白蘭の声によって静寂を破り捨てていく。
それがひどく安心を誘うものだから、やっと落ち着いて瞼が重くなってきた。
目の前の彼は反比例するように、めをぱっちりとさせてきたが。


「ん…また寝るの?」

「まだ眠いんです…」

「じゃー僕も二度寝しよっかなー」

「そう…」


耐え切れなくなって視界を完全に閉ざすと、鼻先にあたたかいなにかが当たる。布。やわらかいそれは、恐らく白蘭の着ている服。
それから優しい力で、両腕で包まれた。


「おやすみ」


彼の鼓動の音が近い。

死んでなどいないと、確かめるまでもない。


「…おやすみなさい」



結局のところ、僕は不安だったのだと気付いたのは夢の中だった。











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