分かってる。
「それじゃユニちゃん、明日は早く行くからね♪……え?いーよいーよ、気にしないで、…うん、じゃあね」
ピ、と携帯の電源ボタンを押して白蘭が通話を終了したのを確認してから、背中に抱きついた。
案の定彼は驚いた顔で振り向く。
「わ!骸クン、来てたの?」
「ええ」
「ごめんね、気づかなくて」
いいんですよ、と彼に笑ってみせる。
白蘭は僕の頭をくしゃくしゃと撫でた。暖かい手が心地よい。
「もう、夕飯は済ませました?」
「ううん、骸クンと食べようと思ってたから」
「クフ、よかったです」
「…あのさ、それでさぁ…」
彼の眉が申し訳なさそうに垂れる。
大体会話の内容から推測はできている。僕は目を閉じて首を左右に振り、白蘭の頬に右手をあてた。
髪から手が離れていき、僕の右手と彼の手が重なった。
「仕事、入ったんですね」
「っ、本当にごめん!明日のデート、行きたかったよね…?」
馬鹿なことを聞くものだ。
しかし表情には出さずに、むしろ微笑んで答える。
「いえ、僕は今度でもいいんですよ。…でも、ユニは忙しいですから」
「ごめんね…」
「いいんですってば。何でそんな顔するんです」
下がった口角を指でなぞれば、更に辛そうな表情になる。ああもう、いいと言ったのだから騙されて欲しいのに。
迷惑な所でこいつは鋭い。
それより、と白蘭の気をそらすために手を引いてキッチンに向かう。
「夕飯!作りましょう」
「そうだね…何がいいかな」
「パスタなら、丁度買ってきましたけど」
「あ、いいね。じゃあ何味にしよっか?」
笑顔が彼に戻ったのを見て安心するのと同時に、どす黒い感情が湧き上がるのを感じた。
必死で押さえ込み、茹でるための鍋に水を張る。
分かってる。
今の彼にとって一番大事なのは僕じゃない。
彼を助けた、彼女なのだ。
「冷凍のミートソースだけどいいよね?」
「賛成です」
こうして彼が鼻歌交じりに料理が出来るのも、彼女のお陰なのだからだ。
分かってる。
…だけど、
「お皿、これでいいですか」
「うん」
何度自分に言い聞かせたってきっとこの感情がもう収まることはないのだと思う。
唇が切れるほど強く噛むのも、彼に此方を向いて欲しくて抱きつくのも、ふたり一緒のところを見て胸を抑えるのも、全てが全て黒さを増幅させて、叶わないのだと思い知らせるだけで。
「もうちょっと茹でようかな、どうしよ」
それなのに、
それなのに一緒にいたいと思うのはどうして。
もしかしたらまだ心が戻ってくれるかも知れないと、希望を持っているのだろうか。
違う、きっともっと単純。
「白蘭」
「ん?」
「…」
きゅ、と握った手。
料理をするのには邪魔だろうに白蘭は拒まずに握り返してくれる。
きっとこの温もりから離れられないだけ。
「…ごめんね」
「…気にしてません」
「言わせて…?」
目頭が熱くなるのを感じる。
咄嗟に目を固く瞑った。
心地よい手の力が増す。
「ごめん、」
ああ、なんて酷いひと。
(いっそ突き放してくれたらなんて、)
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γユニ←白←骸に萌え尽くした結果
たぶん前は普通に両想い白骸だったんだろうけど