切なめ?
「あれは、アンドロメダ。隣の星座、ケフェウスのお姫さま」
そう指さして眩しそうに目を細める彼を、プラネタリウムなのに、と少し不思議に思ったものだ。
彼はとても星空に詳しかった。
そしてそれに関する神話もお手の物で、貸切のプラネタリウムではいつも彼がナレーターだった。
その日のプログラムは、秋の夜空。
映写機を動かす前に、彼が言った言葉が今も耳から離れない。特にこうして秋の夜になると。
『秋の夜空はね、ぼんやりとしてて、少し物悲しいんだ。これからくる冬のために準備してるのかも』
いま、窓の外を見つめながら、確かにそうだと思う。
「アンドロメダ姫は、ほんとは海の怪物への生贄にされるところだったんだけど」
彼の指が虚空を指す。
「あの、曲線。見えるかな?あれがペルセウス。あの王子さまが怪物を倒して、アンドロメダ姫を救ったんだ」
「神話も童話と変わりませんね」
「考えることはみんなおんなじだね」
ふふ、と笑った気配が近くてくすぐったかった。
「骸クン、手、繋いでもいーい?」
返事は返さず、彼の手に自分の手を重ねた。
彼の手は冷たくて、前に冷え症だと言っていたことを思い出した。
照れていたのだと思う、そんなときにそんなことを考えるなんて。
「絡めていい?」
「………わざわざ聞くな」
暗くて表情は見えないが、きっとニヤニヤしているのだろう。
急に恥ずかしさがこみあげた。
「それでね、あれが」
確かに幸せな時間だった。
煌々と輝く月を見上げて泣きそうになる。
なぜ隣に君がいないのだろう。
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