中二臭い事後
思い出とは美化されるものらしい。
ならば、いつまでも強烈なまま脳裏に残る、これは思い出にはなれない。
「いまでも夢に見るんだ」
主語を抜いた文は恭弥の悪い癖だ。
首を傾げて恭弥の髪を梳く。汗で毛先が濡れていた。
「何をですか」
「黒曜ランド」
美しく微笑みかけられ、なにも返せず苦笑いする。
「はじめてだった」
「え?」
「あんなに酷い目に遭ったの」
「…今は、悪かったと思ってます」
「別に責めてる訳じゃない」
確かに恭弥の表情はゆるやかで、楽しそう。
だからこそ骸は緊張するのだが。
今でこそこうして距離を詰められたが、いつまでも根に持っていることに変わりはないだろう。
「びっくりしたんだ、はっきり言って立ちくらみなんかじゃ負けない自信はあった」
「…」
「あとちょっと興奮してた」
会話の流れに似つかわしくない単語。
怪訝な顔をすると、恭弥は骸の脚の間に入り、背中を預けた。
「僕を打ちのめせる奴がまだいたんだなって」
「…それは流石に自惚れじゃありません?」
「かもね」
彼はこの十年で、かなり丸くなったように思う。
あの最悪な出会い以来、顔を合わせるだけで殺し合いに発展していた毎日が昨日のようなのに、確かに今、恭弥は骸の腕の中にいた。
存在を確かめるように腕の拘束を強めると、クスクスと笑い声。
「酷い目に遭って興奮するって、そういう趣味だったんですか?」
「そうかも知れない」
「……今日の恭弥、なんだかおかしいですよ」
嫌に素直だ。何かあっただろうか。
大体にして自分からあの日のことを話すこと自体、彼らしくもない。
「忘れないでね、骸」
「…何を?」
「思い出は、美化されるものなんだって」
「は…?」
「僕だけ記憶にしたまま、君はあの日のことを思い出にするなんて許さないから」
言っていることがよく理解できずまた首を傾げると、腕に激痛が走った。
「っくぁ、」
顔を歪めて腕を見ると、恭弥が咬みついていた。
まさに、咬み殺す。
「ほんとに、咬むことないでしょう…!」
「これで美化されないでしょ?」
恭弥は自分が付けた歯形をしげしげと見つめ、そしてぺろぺろと犬のように舐め出した。
本当にらしくなさすぎる行動。咬みついたのはらしいと言えばらしいが。
咬み跡から血がつぅ、と伝ってきた。それすらも綺麗に丁寧に舐めとられる。なんだか骨の髄までしゃぶりつくされそうだ、と思ったら生温い舌は退いていった。
改めて見ると本当に立派な歯型。湿布はまだあっただろうかとため息をついた。
「痛い?」
「…君がつけた傷ですけど」
「痛くないって言ったらどうしようかと思った」
これで忘れないね、とでも言いたげに恭弥がキスをした。自分からのキスも珍しい。ああもうどうでもいい。
なんでこんなに愛しい。
「…もう眠いんだけど」
「興奮させた君が悪い…」
「ふーん、酷い目に遭わされて興奮するんだ?」
「ん…お互いさまと言うことで」
しっかり組み敷いて首筋にキスマーク。先ほど付けたばかりだが、更新速度は頻繁な方が消えにくくなるし。
「あんなに可愛いこと言うからですよ」
「可愛いこと?」
「いつまでも記憶に残っていたいなんて、反則ですよ…」
やっと恭弥は不本意そうな顔をする。いつも通り。
余裕な恭弥も面白かったが、やはりこっちのほうが性に合っている気がする。
「責任とって下さいね?」
「責任なんて、君だって持ってないだろ…んッ、」
どちらにせよ、美化されることなどない。
分かっていてくれないのは、ちょっと悲しかったのだ。
「嫌というほど、刻んで差し上げますよ」
消えることのない、常に鮮やかな傷を刻む。
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分かりにくい自信はある
何故こううちの骸と雲雀はエロ無しに絡めないのか?