あの日見た花の名前を僕達は知りたい。 | ナノ


継承式編と代理戦争編の間の綱骸


「ボンゴレーっ!!はやくはやく!!!」

「はいはい、ちょっと待ってねー…はあ」


ちょっと先の方で骸が一生懸命に俺を呼びながら手招きしている。
遠くから見てもはしゃいでいるのが一目でわかる。
なんで俺たちは近所の土手に来ているんだろうか。久しぶりに逢えたんだからもっとロマンチックなところでデートくらいしたかったのに。

俺は柿本千種のとの会話を思い出す。




『…骸様がボンゴレに逢いたいと言ってきかなかった、から連れてきた』

―――いきなり!?なんなんだよ、

『…しばらく、骸様を預かっていてくれないか』

―――何かあるのか?

『もうすぐ海外に行く。俺たちは…その準備で忙しい…はあ、めんどい』

―――そういうことならいいけど…

『あともう一つ頼みがある…預かってる間、毎日散歩とトレーニングをさせておいてくれ』

―――……トレーニングならリボーンが喜んでやってくれると思うけど、なんで散歩?じじくさいよ?!

『骸様は…水牢から出たばかりで疲れてる。
 基礎体力を…戻さなきゃいけない、そのためには少しずつ戻す方がいい』

―――そんなに準備って忙しいのか…?

『…………散歩、ってめんどい』

―――本音出した!!

『骸様がお前と一緒の方がいいって言った』

―――うわ逃げらんねえ!!!なんの罠だこれ!!




「俺と一緒の方がいいって言ったってのは嬉しかったけど…」

「うぎゃあああボンゴレぇ!!虫!!虫がああ!」

「お前女子かよ!!」


とは口で言ってもほっとく訳にはいかないので急いで駆けていって虫を追い払う。
骸は頭を抱えてびくびく震えていた。


「でかいハチだなぁ…骸大丈夫か?」

「ボンゴレぇ…」

「ってかボンゴレって呼ぶなよ」

「じゃあなんて呼べばいいですか?」


小首を傾げ、目をぱちくりとさせ骸が聞いてきた。
俺よりかなりでかい奴なのに、なんでこんなに可愛いんだろうか。


「なんでもいいよ、好きなようにどうぞ」

「じゃあ、沢田綱吉」

「恋人を呼ぶ呼び方じゃないだろそれ」


突然骸が顔をほころばせ、あの特徴的なクフフ、という笑い方をこぼした。


「な、なんだよ」

「今、恋人って言ってくれましたね」

「悪い?」


余程嬉しかったのか、骸は俺の首筋に手を回して抱きついてきた。この身長差じゃ抱きしめている、の方が正しい。
骸の藍色の髪を撫でると、俺のと同じシャンプーの香りがした。


「じゃあ、綱吉くんって呼んでいいですか?」

「ん、いいんじゃない」

「クフ、綱吉くん、手、繋いでもいいですか?」

「てかもう掴んでんじゃん」

「違います、繋いでるんです」


唇を尖らせ、拗ねたように言う骸が可愛く見えるのは俺だけではないはず。でも、この顔を見れるのは、俺だけ。
優越感はんぱない。
隣を歩く骸には気づかれないように口角をあげた。


「並盛川って、意外と綺麗なんですね」

「雲雀さんが取り締まってるからかな」

「彼ならポイ捨てを完全に阻止できそうですね間違いなく」


リボーンがいなくてよかった。
そう思った。
どんな場所でも下らない会話でも、ふたりでいるだけでこんなに満たされる。

繋いだ手はあったかいし。
骸は可愛いし。


「あっ!」


…とぼーっとしてたら温もりが消えた。
呆然と空になった手の中を見つめていると、遠くの方で骸が手を振っている。

…ってか速っ!!既に遠い!!


「つーなよーしくーん!!これ!!見てーっ!!!」

「見ーえねーえよー!!!」

「じゃあ来てー!!」


はいはい、と愚痴のように呟きを洩らし走り出そうとした時、視界の端にオレンジ色のなにかが映った。
足を止め、見てみると花だった。もっとちゃんと見たいと思いかがむ。
6枚の花弁が、ぎゅっと詰められたような小さな花だ。葉の黄緑ととてもよく似合っている。
可愛いな。


「つなよしくーん!」

「待てよ骸ー!!こっち来てみろよー!!」

「いいから来てくださーいっ!!この花すごくきれいですよっ」


骸も花を見つけたのか。
その花も気になるが、どうしてもこの花を骸に見せたいと思った。雑草のごとく土手に沢山咲いている割にひとつひとつが輝いている。

…待てよ。
沢山あるんだったらひとつぐらい摘んでもいいよな?

最初に視界に入った花の茎の根の方をなるべく優しくつかみ、ゆっくりと折った。


「今行くっ!!」


叫んで、今度こそ走り出した。

骸のところに着くと、骸はかがんでいた。
俺が来たのを確認して、嬉しそうに指をさす。


「これ、見てください、可愛いでしょう」

「あ」


思わず声が漏れた。本当に予期していなかったから。
握っていた左手を開き、中に包んでいた花を骸の眼前に持っていく。少し萎えていたが、まだ花の形は保っていた。

え、と骸の喉から疑問符のような声が出る。
無理もない、俺だってびっくりした。


「…これ、」

「骸に見せたくって持ってきたんだけど…
 その必要はなかったみたいだな」

「…ありがとう、ございます」


骸はもう一度視線を目の前の花々に戻す。
そこで咲き乱れていたのは、オレンジ色の六枚花弁。


「綱吉くん」

「なに?」

「帰ったらこの花の名前、調べてみましょうね」

「…うん」


そう言って俺に笑いかけた骸は、今日一番の破壊力を持っていた。





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あの花好きな人全力でごめんなさい


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