帰った時には必ずキスを | ナノ

Side.Lenalee Lee




「神田遅くない…?」

食堂で居合わせたせわしなく手と口を動かしているアレンくんに、ふと、私は問いかけた。

「遠出の任務ですからね。明日までには多分、帰ってきますよ」

そんなアレンくんの言葉を軽く聞き流して、心の中の不安は消えないまま。自室へ戻ってぼんやりと窓の外を眺めた。ふう、と一息ついて赤く、ほんのりオレンジに色づいた夕焼けが水平線の彼方に吸い込まれて消えていく。

「夕陽、沈んじゃう」

今日は帰ってこないのかなと思ったその時、門番の目の前に人の影が見えて。―――…紛れもなくあれは。自室を飛び出して、急いで階段を降りた。距離はたいしてないはずなのに向かう場所はとても遠く感じて。











溢れ出しそうな思いが巡り巡って先に口を開いたのは彼。

「リナ…」
「おかえり…!大丈夫だっ…、わ…っ」

力強く抱き締められた腕は微かに震えているようで、ゆっくりと私も腕を回す。動悸は激しいのに、身体中に張り巡らされた血管に血が通ってないのではないかというくらい冷たい温度の彼に驚いた。どくん、どくんと聞こえる心臓の音は何を意味するのか。1週間ぶりに触れる頬や腕には軽い傷が見えた。本人は大丈夫だと言うが、やはり完治はしていないようで今回は治りが遅いだけと言い張る。

「…ただいま」

彼らしくない、震えた声ではっきり聞こえた言葉。やはりいつもと様子が違うようで自分の最期が近付いていることを彼は知っている。

「おかえり…大丈夫よ、帰ってきたんだから」
「…ああ」
「キス、して?」



帰った時には必ずキス

(唇が触れたかどうかわからないくらいの、)
(そんなキスで十分だから)
(貴方を私に確かめさせて)



あとがき。

切ない、原作のハピエン早く。

2010.6.2