ティアードロップス | ナノ

Side.Lenalee Lee




物心ついた頃にはもう教団にいた。私と兄さんは両親をアクマに殺された孤児だった。そして私が「黒い靴」の適合者だと分かると1人教団に連れていかれた。唯一の肉親だった兄さんとも引き離されて、自由に外にも出してもらえなくて…初めはあそこが牢獄のようだった。

「気が触れてしまったか…」
「縛りつけておかないと何をするか分からない」
「絶対に死なせるな、外にも出すなよ。大事なエクソシストなんだから」

意識がはっきりとしないまま聞こえてくる声。襲いかかる体中の痛み。自分の中に何かいるようで、身体が裂けそうな感覚を覚えた時、ドアを閉める音が響いた。

「も…、やだ…誰か助けて……」
痛い、苦しい。誰か…助けてよ。兄さんがいる、家に早く帰して今にも消えそうな声で誰も居ない密室で、でも自分では力いっぱいそう吠えた。私の声に応えてくれる人など―……1人としていないけれど。











…リ、ナ、…ナ、…ナっ

それから時が経ち、兄さんが来てくれたあの日、もう逃げることをやめた。私の為に全て捨てさせてしまった未来も自由も狂わせてしまった。だからエクソシストになったの―――――……。か細い声が私を呼んでいるような気がして。ふっ、と無色透明の滴が流れたと同時に目が覚めた。荒々しい呼吸を何とか整えて心配そうに覗き込む彼の顔は、涙で滲んで見えない。

「大丈夫か?うなされてた」

ああ、長く重い昔の夢を見た気がする。時計を見ると短い針は2を指していて。問いに返事はせずきゅうっと胸板に顔を疼くめると安堵の息をついた。瞬間、心配する彼に顎を掴まれて視線が合う。彼の瞳は深い暗い静かな、漆黒。私と同じ色してる。部屋の中に僅かながら入ってくる満月の光で睫毛に影をつくる。やっぱり綺麗だなあ…なんて見とれていると目尻に溜まっていた雫を舐めとってくれて、優しい口付けが交わされた。心地いい感触にゆっくりと舌を出すとそれに応えるように彼は私の口内を侵して深い口付けに変えて。長いキスが終わると艶っぽい表情の彼と視線がぶつかった。

「ねぇ、あなたはあの人の為にエクソシストになることを、生きることを選んだのでしょう?みんな、誰かの為に」

あの人は神田の想い人で、彼の生きる理由の全てで。彼を愛してしまった時から、何もかも捨てて生きたいと思ってしまった私は。一緒に生きることを選ばせてしまった、優しい兄さんへの罪悪感。急にどうしたんだと大きな手で顔を包まれる。心はくれないのに、身体だけは満たしてくれる。不干渉が私たちを守っているのに、こんな感情あってはだめね。どちらかがこの均衡を崩してしまえば、きっと全てが終わってしまう。

「きて」

一言だけ告げるとすぐに応えてくれる彼の腕は、あまりにも優しくてとめどなく涙が流れるけれど何も聞いてはくれなくて。けれど、今抱かれているのは他の誰でもない私自身だと確信すると、部屋に響く自分の声に優越感に似た感覚を覚えた。


―――――……愛してしまったの、あなたを。



ティアードロップス

(あの人が現れたら、)
(あなたは離れていってしまうのだろう)
(でもそれまでは私のもので)


あとがき。

シリアスにしようと意気込んで
書いたんですけど全体的の雰囲気が
不思議な感じになってしまった…

捉え方はご想像にお任せします(^^)

2010.5.23