Side.Lenalee Lee
はぁ…っ、は荒々しい吐息と廊下を駆け巡るハイヒールの音。
「神田は…っ?熱が、ある…てっ」
呼吸を整えながら何とか言葉を、紡ぐ。1時間前に任務へ帰ってきた神田は長旅だったからなのか、急に熱を出して倒れたとアレン君から聞いた。馬鹿は風邪引かないんだけどなあ…なんて言う彼を傍に、私は医務室へ走り出した。
「神田なら自室よ、いう事を全然聞いてくれなくて
自室に戻るの一点張りだったから帰したわ。39℃もあったけど…」
もう、何であーも不器用なのかしら。
「あ、リナリー?神田の自室へ行くつもり?多分開けてくれないわよ」
「大丈夫よ、ありがとう、婦長」
*
ガチャ、ガチャ
あ、やっぱり鍵かけてある。
「神田…?いるんでしょう?開けて」
ねぇ、大丈夫?と呼びかけてみてもしん、となっている自室の前で寝ているのか否かもんもんと色んな想像をしていたら鋭い声が静寂を破った。
「…何で来た、帰れ」
「よかった、起きてたのね、熱なんでしょ?」
「熱だから、帰れっつってんだよ」
ドア越しに話す彼。表情が見えなくても困っている事が声で分かる。
「いいから開けて開けないと兄さんに医務室から自室に戻った事、言いつけるわよ」
早くというあたしの声に促され堪忍したのか、ゆっくりと扉が開けられた。
「薬は飲んだの」
「飲んでねぇよ、薬なんて飲まなくても治る」
「ダメだよ…ちゃんと飲んで」
おぼつかない足取りでベットへ入り込む。少し空いているスペースに、私は彼なりの優しさを素直に受け取った、お前の事を考えてああ言ったのにもう部屋に入ったからどっちでも同じだろう。と、だから口移し。という一つの単語を呟いた彼を横目でみて、医務室で貰った水と薬を口に含みそっと彼の唇に私の唇を重ねた。
「ん…」
薬を飲み込んだのを確認して、唇を離そうとする。その様子を見た彼は、まるで離れるのを許さないように私の頭に手を添えて自分の顔に近付けた。侵入してくる彼の舌。唇が離れた途端には、と息を漏らす。上手く整えれない呼吸と、熱っぽい彼のキスに反射的に目が潤んでしまう。
「ふ、キスで感じたのか」
「ちが…っ!もう…ほんとに風邪移っちゃう」
「だから帰れって言ったのに入ってきたのは誰だ?」
神田を軽く睨むと彼は意地悪そうに笑って見せた。
「まあ、そん時は俺が看病してやるよ。お前の体全部、な」
バシッ
「い……って」
不敵に笑う彼を力任せで叩いて、横で眠りについた。
熱くて甘い貴方の熱
(39℃の彼の熱)
(39℃の私の体温)
あとがき。
風邪のネタ…大好物…!
2010.5.19