×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -



「名前、僕達は付き合ってるんだよね?」


出し抜けにされた確認に私は目を瞬かせた。
だって今、私と雲雀は日曜の公園でベンチに腰掛けて、ひとつの缶コーヒーを分け合って飲んでいるという、実に恋人らしい事をしている最中で。
だから雲雀の言葉がすぐに理解出来なかった。



僕を自由にしないで



「い、いきなり何?」

「だって君、いつも傍にはいるけど僕に何も要求しないじゃない」

「…要求?」

「手を繋いで欲しいとか、他の娘と話さないでとか、トンファー振り回すのやめてとか」


そう言う雲雀の綺麗な瞳は、腕を組んで談笑しながら通り過ぎるカップルをつまらなそうに追っていた。
別れ話…ではなさそうだけど、隣の彼氏が私に不満を感じているのは間違いなさそうだ。
でも何が言いたいのかピンと来ない。
手を繋ごうが繋ぐまいが一緒に居られたら嬉しいし、生きている以上私以外の女の子と話さないで過ごすなんて無理だし、最後のなんてそれこそ雲雀が我慢出来るはずがない。
私は残り少ない缶コーヒーをゴクリと一口飲んで答えた。


「……もしかして雲雀、Sの振りして実はM?」

「咬み殺されたいの?」

「…スミマセンでした」


冗談をバッサリ冷たい言葉で斬られ、私は肩を竦める。
雲雀は益々不機嫌顔になった。


「好きなら相手を束縛したいって思うもんじゃないの?」

「私は別に…」


そんな事しなくても雲雀一緒に居てくれるし。
何より雲雀の方が束縛される事を好まないじゃない。
深い意味で言ったのではなかったけど、雲雀は私の答えが気に入らなかったようで。
彼は半眼で睨むと、私の手からひょいと缶コーヒーを取り上げて飲み干した。
そしてスクッと立ち上がり、腹立ち紛れに近くのゴミ箱に空き缶を投げ捨てる。
穏やかな休日の公園には似つかわしくない物悲しい金属音が響き、近くで地面を突付いていた鳩がそれに驚いて飛び立つ。
怒っているようにも照れているようにも、寂しがっているようにも取れる複雑な表情で私を見下ろし、雲雀はぽつりと呟く。


「僕を自由にしないで」


瞬間、心臓がトクンと鳴った。
それって…私になら束縛されてもいいって事?
もしかして雲雀、私が放任し過ぎて不安なの?
きゅっと唇を引き結んで背を向け歩き出した雲雀を、私は慌てて追いかける。


「待ってよ、雲雀」


そう言ったところで雲雀が怒っているのは明白だし、こういう時に待ってくれた例は無い。
いつもよりも速い彼の歩調に、自然と私も早歩きになる。
確実にさっきの雲雀の台詞で動転したあたしの胸は、ドキドキと煩く鼓動を刻んでいた。
嬉しいけど、参ったなぁ…。
ドライな関係で満足しているものだと思い込んでいたから、まさか雲雀が束縛云々でヘソを曲げるとは思わなかった。
急にそんな事言われても、雲雀を宥める良い方法が思い浮かばない。
どうしよう…。


―――――あ、そうだ。


私はふと思いついて雲雀の前に回り込んだ。
そしてその胸に飛び込み、腕ごと彼をぎゅぅっと抱き締める。
予想外の行動だったのか、抱きつかれた雲雀はいつも自然体でいるその身を強張らせた。
意外と攻められるのは苦手な彼の反応が可笑しくて頬が緩む。
見上げると想像通り頬をちょっぴり赤くした雲雀と目が合った。


「これも一応束縛だよね?」

「!!…そういう意味で言ったんじゃないよ。バカ」


雲雀は一瞬切れ長の瞳を見開いて驚いたみたいだった。
けれど、すぐにプイッと横を向いていつもの口調で悪態を吐く。
長めの前髪のせいで表情が隠れているけれど、耳が真っ赤だ。
照れてるのバレバレなんですけど。
怒って突き放すでもなく抱きつかれたままでいるってことは、悪い気はしてないのよね?


自分が雲雀に好かれていると感じる今この瞬間が、凄く幸せ。


雲雀が言いたいのはもっと精神的な事なんだと思う。
多分私も相手が雲雀じゃなかったら、束縛したかったと思うんだ。
でも私、束縛されても、したくない。


―――――自由な雲雀が好き。


全くしたくないかって言ったら嘘になるけど。
好きだから、一度束縛したらどこまでもしたくなってしまう。
それを雲雀が窮屈に感じて離れていってしまうのは耐えられない。
だから、自分から束縛はしない。
たまに後ろを振り返って、あたしが居ると確認してくれさえすれば、それでいい。


それにね、雲雀。
恋に落ちた瞬間からもう相手に束縛されてるんだよ。


知らず知らずのうちに相手の事ばかり考えて。
いつの間にか自分よりも大切になって。
気持ちが見えないと不安で。
今怒ったのだってそういう事でしょ?

―――…雲雀もきっと同じだと思うから。

目の前の白いシャツに擦り寄って、私は大好きな雲雀を抱き締める腕に力を込めた。


「雲雀の望む形とは違うかもしれないけど…たまにこうして束縛してもいい?」

「……いいに決まってるでしょ」


ちょっとだけ嬉しさを滲ませた声でそう答えて、雲雀は私の腰にそっと腕を回した。



2010.4.9
麗様、素敵な台詞をありがとうございました^^
『君になら束縛されてもいいよ』という感じでとの事でしたが、如何でしたでしょうか?
棗のスキル不足で雲雀さんが構ってちゃんになってしまいましたが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです><



|list|