「」



目が覚めて最初に見たのは真っ白い天井。次に泣いてる女の人と女の人を慰めてる男の人。天井と同じ真っ白い服を着た男の人や女の人も何人かいた。寝起きだからか頭が働かなくてただ周りをただ見ていた。『名前は?』『年齢は?』『住所は?』『私たちのことわかる?』『何があったか覚えてる?』次から次へと質問をされた。何も答えられなかった。何も分からなかった。何も頭に存在しなかった。僕は何も記憶にない。
喋ることまでも忘れてしまったかのように一言も喋らずただ過ぎていく時間を見ていた。
病室にいるらしい僕は外の景色が見られなかった。周りを囲むのは真っ白ばかりで、意識した途端に苦しくなった。窮屈だ。そっと誰にも見えないように外に飛び出す。風が僕の頬を掠めた。
太陽が眩しかった。空が真っ青でとても綺麗だった。行き交う人々。望んだ景色のはずなのにどこか足りない。人の波に乗って歩いてみる。行く宛なんてないけど、ひたすら歩く。答えは出てくる気がしない。そっと見上げると見たことのあるビル。あれ?胸に引っかかるナニカ。でも、ナニ?
分からなくて、分からないことが苦しくなって、息も上手く吸えない。息の仕方さえも忘れてしまいたい。このまま溶けてなくなりたい。
ズキズキと痛む頭の中に女の子が僕に微笑む。何を言ってるの?ねぇ、ナニ?アスファルトに染みが出来る。



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