「ギャリーは煙草は吸わないの?」
「…何よ突然に」
そもそもギャリーって何歳なのだろう。聞いたことなかった。私の歳は聞いたくせにこれじゃ不公平だよ。殆ど口実だけど…これなら教えてくれるかな。
「何歳だと思う〜?当ててみなさい」
はぐらかしてる。確実にはぐらかしてるよこの人は。…実はまだ未成年だったり?いや、もしかしたら言えないほどおじさんだったりして…。でも肌綺麗だし、全然歳をとっているようには見えない。かといって背も凄く高いから、十代って言われても納得はできないかも。…分からない。でも格好いい。…それは、独断と偏見かな。
「に、にじゅっさい?」
「へえ、そう思うの。煙草は?吸うと思う?」
ちょ、ぴんぽーんとかぶっぶーとか言わないの?え?曖昧にしてそうで話大きく逸らしてるよね。…それくらい私にだって分かる。舐めるな。…でもまあ、いいや。本題はそれだったし…とりあえずそれさえ聞ければ。
「吸っていてほしい!」
「………は?」
願望でした。ただの願望でした。でも格好良いでしょ?ギャリーが煙草吸ってる所絶対格好良い。スモーカーギャリー!似合ってる。
「煙草ね…じゃあ、この美術館から脱出したら吸ってあげなくもないわよ」
ギャリーはため息をついて、苦笑した。でも困ってはないみたい。やっぱり吸っているのかな…見てみたいなあ。肺に良くないことくらい知ってるよ?でも一本くらいなら…いや吸わなくてもエア煙草とかね!もう何を考えているんだ自分。
「ねえ、未美。マカロンを食べに行く約束、したじゃない?」
ギャリーが急に真剣な面持ちになって私に問いかける。どうしたんだろう。何を言われるのか少し不安。
「うん、したよ!食べに行くよ!」
明るく元気に答えた。私行きたいよ、ギャリーと食べに行きたいよっていう雰囲気を全面に伝えたつもり。だって、やっぱりやめましょうかとか言われたら嫌だし。
「マカロン食べた後…アタシの家でミルクパズルでもやる?」
「……ミルクパズルって……あ!白いパズルだ!」
美術館を探検してて見た、何も書いてない真っ白なパズル。ギャリーは、好きなものがパズルになっていた方が楽しいし分かりやすくていいわーなんて言ってた。私もそう思った…けど、どうしてそんなこと。
「そうねー…ミルクパズルを初めて知ったアンタとさ、記念に、ね?」
よく分からない返答が返ってきたんだけど…私もギャリーといれる時間が欲しくない訳ではない。寧ろ行きたい!ギャリーの家!ワクワクしてきた。
「………もし…が……ても…すれ……っと………思うのよ」
「え?」
浮かれ過ぎてたらよく聞き取れなかった、ギャリーもう一回!
「男に二言は無いわよ!」
そう言ってにこりと笑うギャリーにもう真剣さの欠片もなくて。私もつられて笑顔になった。この時間が今の私の一番楽しい時間。もう少しすればここから出られる。ギャリーとマカロンを食べに行ける。そう思うことが私の原動力になる。ギャリーがいなかったら私は永遠にこの暗くて怖い美術館に取り残されていたかもしれない。そう思うだけでゾッとする。
「ほら、そんなしんみりしないのー!下らないことなんだから、気にしないで!」
そのことじゃないよ、って言う代わりに頷いた。今はとりあえず先に進まなきゃ。本当のお日様を見て…青空の下、ギャリーとデート!
「ギャリー、ずっと一緒にいてね、これも約束だよ」
「約束多いわね…。当り前じゃない、絶対離れないわよ!」
ギャリーは小指を私の小指に絡めて、ウインクした。


( もし記憶がなくなっても、約束すればきっと思い出せると思うのよ )

0512 執筆 0518 修正