ギャリー、ねえギャリー…ギャリーギャリーギャリーギャリー。どうしてどうしてどうして、お人形さんと話してるの?それに、そんなに気味が悪い人形…好きになれないって、言ってた意味を今更理解した。ウサギさんなんていない。見間違えていたんだ。
ギャリー、おかしいよ。さっきから、私のこと全然見てくれないじゃない。どこを見てるの?その綺麗な目には今、何が見えているの?頭は、はてなマークが沢山だよ。
「あはは……やっぱりアナタとアタシは気が合うわね…もっと私の話を聞いてちょうだい…」
ダメ。嫌……足が動かない。膝が震える。どうしてだろう。ギャリーと出会うまではずっと一人だったのに。平気なはずなのに。それに今、私にはメアリーがいる。すぐ隣にメアリーがいて…それなのに。怖くて悲しくて不安で、涙が沢山出てくるの。
「ぎゃ、りー」
「ダメね…アナタと話していると時間を忘れちゃう…ふふ…」
私に気付いていないの?無視してるの?見えていないの?でも分かったの。ギャリーの目は、今まで私と一緒にいた時とは違う。どこも見てない……海みたいな藍色。綺麗だけど…胸の辺りがぎゅうって、なるんだ。
「三人で…ここから出よう?」
私の声を聞いて…聞いて…聞いて聞いて聞いて…だんだん、視界が暗くなってくる。このまま眠れたら、楽になれるかな…あの時の、私の好きなギャリーに…優しいギャリーに戻ってくれる?そう願わずにいられないんだよ。
「未美!大丈夫?」
メアリーに肩を掴まれて…やっと正気に戻れた気がした。メアリーは冷静だった。羨ましくて、メアリーの目をじっと見つめ返した。メアリーは、大丈夫だよ、大丈夫、なんて言いながら私をあやしてくる。
「ん……なんだか…眠くなってきちゃった……ずっと歩いてて…話して…疲れちゃったかしらね」
眠くなってきた…?何かおかしいって思ったから、私はギャリーの傍に駆け寄ってコートのポケットを弄った。反射的に動いていた。一番最悪な私の予想がどうか当たっていませんようにと、心の片隅で祈っていた。でも予想は見事に当たって…ギャリーの薔薇…青い薔薇が、無い。
「ギャリーの、薔薇が…!嘘だ…どうして!」
「………………………」
メアリーに助けを求めるように目を向けると、メアリーは私から目を逸らした。辺りを見ると、青い花弁はあちらこちら無差別に散らばっていて…なんで気付かなかったんだろうと、酷い罪悪感が生まれた。急いで周りを探す。ない、ないどこにもない。なんで!
「…あ……!あった!」
薔薇の花は、ギャリーの正面にあった人形の口に咥えられていた。花弁は…残り、二枚。まだ大丈夫!どうにかしてギャリーを元に戻さなくちゃ…。僅かな希望を見つけた私は、ギャリーを力強く揺さぶった。……でも、反応はない。微かな吐息だけが、私の頬を掠めた。お願い、戻って…戻ってギャリー!
「……もう、いいじゃない」
「よくない!何言ってるのメアリー!」
メアリーの呆れたような声に何の不信感も抱かずにギャリーを揺さぶり続ける。メアリーは後ろで溜め息をついて、部屋を出て行ってしまった。何度も何度も繰り返し揺さぶった。でもダメだった。こんなことでは絶対に目覚めないことくらい私にだって分かっていたはずだった。けれど、何かをしていないと…私の中で何かが崩れてしまいそうで。けれどそんな私に段々腹が立って、助けられないのが辛くて、情けなくて…ギャリーのことを力いっぱい抱きしめた。
「…………ん…………な、に………」
「…え」
「……あれ……未美……?ふふ…なんで泣いてんのよ」
ギャリーが…目を開けた。もう諦めかけてた。でも諦められなかった。この優柔不断でどうしようもなく情けない馬鹿な私に、ギャリーは…答えてくれた。ギャリーは今、私の名前を呼んで…それで…笑ってる。
「可愛い顔が台無しよ……目、真っ赤」
「ギャリー…ギャリー、ギャリー!ギャリーなのね!」
ギャリーの暖かくて大きな手が私の頬を撫でる。心地よくて、それだけで幸せになれた。ギャリーは何も記憶に残っていないみたいで、あっけらかんとしてる。心のどこかに希望を秘めているような瞳。私の大好きなギャリーが…今目の前にいる。
「ていうか…未美、なんでアタシに抱きついてるの?」
「あ…!ご、ごめんなさ…」
「んーん、いいの!ほら、怖かったんでしょう?ならもっとアタシを頼っていいのよ!」
そう言って私を抱きしめる。力は強くて、押し潰されてしまいそうなほどだったけれど、離してほしくないって…そう、思った。今だけでいいから、ギャリーの温もりを感じていたいと。ギャリーは今何を考えているのだろうか。私のこと、泣き虫だって思ってるのかな。……今はそれでもいい。でもいつか絶対、私はギャリーに見合うような優しい人間になるって…決めてるんだ。

ギャリーのコートに顔を埋めて、私は目を閉じた。

0510 ギャリイヴが好きすぎて執筆 0518 修正