「いるならいるって言いなさいよ!心配するじゃない!」
「…あ、ごめんギャリー」
少し心配させたかったんだ、なんて言えないなあと思いながら頬を掻いた私を見て、深い溜め息をついたギャリー。ほんと、心臓に悪いわ…とか言ってるけど、そんなにだったのか…ちょっと反省。でもなんか嬉しいとか、不謹慎か。
「未美、もしアタシが突然アンタの前から居なくなったらどうする?」
ギャリーは眉を顰めて私に言った。そりゃ、不安になるよ?当り前じゃない。今までこうして二人で来たのに。
「そうでしょ?アンタのしたことは、それと殆ど同じなのよ?全く…」
「…う、すいませーん…気をつけます…」
ちょっとした冗談なのに、ギャリーは相当心配したようで、なんかだんだん申し訳なくなってきちゃった。いじけているようにも見えるギャリーがなんだか可愛くて、無意識に手を伸ばしてギャリーの頭を撫で……あ、届かない。背伸びして、なんとか届いた。
「え…何してんのよ」
「なでなでだよ、なでなで。ほら、屈んで」
「お馬鹿!アタシはそこまで弱くないわよ!別に一人でだってやっていけ…」
いきなりギャリーの口が動かなくなった。目の前で手をひらひらさせてみたけど、全く反応しない。大丈夫かな生きてるかな?
「…ない、わね。アタシ、アンタに助けてもらったんだものね」
「え?なんのことなんのこと?」
ギャリーが自嘲気味に笑って、俯いた。私には何がなんだかさっぱり分からなかったけど、落ち込んでるのは察した。励ましたいなって思ったけど、今は何もしない方が良いみたい。
「なんでもないわよ、未美。…ありがとね」
「え?何?さっきまであんなに怒ってたのに…熱でもあるの?」
「ありがとうくらい言うわよアタシだって!そこまで鬼だったワケ!?」
そうかもよーってからかうように笑って見せたら、もう…なんて言いながらも笑うギャリー。優しいし格好良いし、もう完璧なギャリーは私の大好きな人だ。
「そういえば、無個性とかいうあの動くマネキン!何なのよ!追いかけ回して来ると思ったらピクリとも動かないで邪魔してくるし、本当に面倒な奴ね!」
「……首が無いと、怖いよね」
確かに無個性三種類は、無個性とは言い難いほど個性的だと思う。顔が無いから無個性って訳じゃないだろ!って言いたい。ゲルテナに。…ゲルテナさんに。ああ、呼び捨てにしたこと、どうかお許し下さい。
「首が欲しいならあの首だけのマネキンと接着剤で固定させちゃえばいいじゃない!その方が面白くて逃げ甲斐があるってもんよ」
「そ、そういう問題なの…?」
ギャリーの考えがたまに分からない時がある。逆に固定させることによって怖さが倍増するんじゃと思うのは私だけなのかな。異様にビビる割には考えが謎だ。そのうちに分かってくるかな。
「未美の薔薇、食べられそうになった時はヒヤっとしたのよ。アンタ、簡単に渡すなんて言うんだもの」
「だって見るだけって言うから…。少し覚悟はしてたけどね」
「アンタ、アタシの事残して死ぬつもりだったワケ!?ちょっと、それは酷いわよ!」
「えええ…何それ…いや、でも死ななかった訳だし…感謝はしてるんだよ?」
私の言葉に不服そうに頬を膨らませるところがまた可愛いというか微笑ましい。怒ることないのに、多分今、ギャリーは場を和ませようとしてくれてるんだって思ったら余計愛しくなった。
「とりあえず急に化け物が出てくるところは何とかしてほしいわね。訴えようかしらゲルテナに」
うん、と頷くギャリーが私のほうを向いて、ね!と同意を求めてくるから、ああ…うん、私もそう思うみたく曖昧に返した。ギャリーはそんな私を見て、少し心配したようだ。
「未美、滅入ってきてる?元気無いわよ」
顔を覗きこんでくるもんだから驚いて顔を背けると、ギャリーはそうよね、とか言って笑った。なんで笑うんだと思ってギャリーの方を向くと、それは苦笑で。
「あ……ご、めん」
つい謝ってた。ギャリーはあんなに私を励まそうと頑張ってくれてたのに。私ほんと情けないよなあって思って、それがギャリーにばれないようにニヒルに笑って見せた。
「何よ」
「そんなギャリーも好きだなあって」
「意味分かんないわ」
あ、また頬膨らませた。今のギャリーは怒ってるのかいじけてるのか拗ねてるのか楽しんでるのか、私には全く分からないけど…無性に抱きしめたいなあって思った。
「むぎゅーん」
「…は!?」
抱きついてギャリーの顔を見上げると、目を見開いてる。で見開かせたまま泳がせてる。なんだ、やっぱり可愛いじゃん。私より女の子だなあ。お肌つるつるだしすべすべ。悔しいけど気持ちいいぞ。
「……何かあったならすぐに言いなさいよ」
ギャリーは小さくそう呟いた。心に深く突き刺さる言葉。そんなに悲しそうな顔してたのかな。顔に出るタイプじゃないのに。抱きしめたのも本当は口に出したくなくて。心配させたくなくて、笑ったのもそれを気付かれないようにしていたことだった筈なのに…ギャリーはそれをも見抜いていたの?

「…………ご、め…なさ」
気付いたら涙が溢れてた。拭おうと思って咄嗟に抱きしめていた手を離そうと……したけど、ギャリーに押さえつけられて、どうしようもなくなっていて。余計に煽られたのか分からないけどぼろぼろ止め処なく零れる涙に虚無感を憶えた。
「気付いてあげられなかったわね、未美、ごめんなさい」
「…いや、謝らないで…私が悪かったの、う」
それから私が落ち着くまで、ギャリーは私を抱きしめ、よしよしと背中を擦ってくれた。なんだか赤ん坊を宥めるようにしてて恥ずかしくなったけど、こればっかりはもう恥ずかしがっても仕方ない。私はギャリーに身を任せた。
「落ちついた?」
「…あ、うん……ありがとう」
「可愛かったから特別に許したげる!」
うふっとか笑って、私もつられて笑って。それだけで心が軽くなった。
「ねえ、ギャリー?」
「なーに、未美」
「ここを出たら、ギャリーに伝えたいことがあるの」
本当は今すぐに伝えたいけれど、勿体ぶってみた。するとギャリーは一瞬きょとんとした後微笑して、私の頭を撫でて頷いた。


( 貴方を愛しています )

0518 投げやりとか分かってたんだよごめんなさ