Je t'aime à croquer


裏庭へようこそ。ここは気まぐれにあらわれます。そんなときは門番が合言葉で「ひゅあきんとぅす」なんて呟くかもしれません。常連さまだけにそっと差し出す秘密の鍵。ぽたりぽたりの想いの雨音。そっと廻してみてください。




シンジ、ちょっと聞いてよ。

午前9時過ぎ、駅ビル『ネルフ』前にあの渚カヲルが立ってたわけ。初号機像の前だから待ち合わせかしらと思って素通りして後でまた通りかかるとまだあいつがいた。そうね、2度目の時は9時45分くらいだったかしら。よほどの暇人ねと思って声をかけてみたの。

「何してんのよ」

あいつ、こっちを見てあからさまに残念そうな顔をしたのよ。

「はあ、何って別に」
「別にって何よ」
「関係ないだろ」

なにその態度。ムカついたからちょっとからかってやったの。

「デートでしょ」
「それも君には関係ない」
「待ちぼうけね。もう来ないわよ」

1本とったと思ったのに。

「ハア?待ち合わせの時間はまだだよ」
「ムリしちゃって。ご苦労さま」
「本当に、もうすぐ来るかもしれないから早くどっか行ってよ」
「あんたに言われなくてもさっさと行くわよ!」

そこで私は考えたの。あいつの相手を明かしてみんなにバラしてやろうって。それで10分後にあんたが現れたってわけ。



そこまでひと思いに説明して、アスカは息継ぎをした。

「それで……僕に報告してどうしたいの?」
「あんたあいつに似てきたわね。どうもしないわよ」

よかったバレてない、シンジは密かに胸をなでおろした。

「でも妙なことに気づいちゃって」
「はあ」
「あいつ待ち合わせの時間はまだって言いながらもうすぐ来るかもしれないって言って」
「適当に言ったんじゃない?」
「で、あんたが来たのはちょうど10分後」
「うん」
「あんたはあいつとちょっと立ち話したらすぐに別れて駅に消えてった」
「へ?」
「待ち人はあんたじゃないのよ。誰を待ってたのかしらね」

シンジは待ち合わせ時間より早めに着いた。渚は先に待っていた。けれどその後はふたりで遊んで元気にチョメチョメして、帰ったのだ。ふたりはずっと一緒にいた。

「そんなはずないだろ。僕は渚と遊んだんだから」
「いーえ。あんたは手を振ってたし、その後あいつは同じ場所でまたぼーっと心ここに在らずだったもの」

なにがなんだかさっぱりわからない。シンジは財布からレシートを抜き取って渡して見せた。

「ほらふたり分だろ。渚と一緒にいた証明にはならないけど、僕たちは確かにボーリングしたんだ。こっちのレッドベルベットフラペチーノは渚が飲んで」
「ちょっと待って」
「なに」
「違う」
「なにが」
「日付。5月23日」
「え」
「これは24日のでしょ。私が言ってるのは23日の話」

アスカが自室に戻ってからシンジは呆然とした。心臓が冷たくドクドク弾けている。

デートの前日、シンジは渚に偶然会った。渚は「ちょうど用事があったから」と言った。シンジはそれを鵜呑みにして「また明日」と手を振った。

『24日に渚が誰かを待ってたって証言があるんだけど、何してたの?』

送るのをためらった。けれどこの疑問を抱えたままで次彼に会ったら何かが爆発してしまいそうだ。

返信を待つ5分間、シンジは絶命してしまいそうだった。ひょんなことから彼氏の浮気が発覚してしまうのかもしれない。

スマホがふるえた。何度もふるえた。深呼吸をして、からっぽの心地になって、シンジは運命と向き合った。

こんな返事が返ってきていた。


ーーーーー

< バレちゃった?セカンドって口軽いね


< あの日はシンジ君に会いに行った。5分でも君に会いたかったから


< 次の日のデートで舞い上がってたし


< ちょうど待ち合わせ場所だったから君とじゃあねしてからシミュレーションしてたんだよ


< 彼氏としていいところ見せたいじゃん?


< おいしいお店見つけたかったし君になに言おうかなとか空見ながら考えてた


< つまり僕はデートの1日前からデートの待ち合わせ場所にいたマヌケな彼氏だったわけ

ーーーーー


シンジは悶絶しながらベッドにダイブした。なんてことだ。

「ねえ、シンジ」

突然のアスカの奇襲にシンジはなんでもないという顔でスマホを見ているフリをした。

「なに」
「やっぱり思ったんだけど」

アスカはひと息置いてから、

「あいつ、あんたのこと好きなんじゃない?」

視線を液晶画面から上にあげると、

「だってあんたと喋ってる時だけよ、あんな顔するの」
「どんな顔」

アスカは無邪気な子供を笑うような、そんな顔をしていた。

「うれしーって舞い上がった顔!」


僕は彼氏に愛されすぎてる




渚とシンジでポッキーゲーム


弁当を食べ終わったとたんに渚が賢くなった。

「三本の矢って知ってる?一本だとすぐ折れちゃうけど三本だとなかなか折れないって昔のエライ人の名言」

知ってたけど興味ない風を装ってみた。

「へー」

初耳だった。

「だからポッキーは何本だと折れないかシンジ君と確かめようと思ってさ」

そして渚はお菓子を取り出した。ジャジャーンと。

「急に頭いいこと言い出すと思ったらこれだよ」
「今日はポッキーのお祭りでしょ」
「お祭りじゃないし君が持ってるのはじゃがりこ」
「だってポッキーもプリッツも売り切れてたんだもん」

そこはせめてフランとかにしないと意味ない、と言おうとした。

「おーい渚」

そこで現れたクラスメイトの男子の声。渚は振り向かずに

「ん」

とだけ答えた。

「俺たちポッキーゲーム10人抜きの動画撮るんだけどお前も参加しろよ」
「なにそれ」
「投稿用。お前カメラ映りいーじゃん、やれよ」
「やんない」
「やれって」
「やんない」
「じゃ碇がや」「やっぱやる」

渚はため息ひとつ、クラスメイトと教室の後ろへ去った。

11月11日。毎年この日になると男子中高生はノリでポッキー食べながらキスをする。ポッキーなくてもキスするし、とにかくキスする。女子にもウケるしドキドキするし盛り上がる。SNSでつかの間の人気者になれる。

シンジは女子にもウケたくないしそんなので人気者にもなりたくないから教室から抜け出した。昼休みの非常階段。トッポの袋が捨てられ踏みつけられていた。

「みんなバカみたいだ」

僕だけは違うと独り言で弁明。今頃渚はそのバカのひとりになって別に仲良くもない男子とキスしたりしているんだ。それからまたキスしたり、キスしたり。10人抜きって10回くらい?

無邪気で楽しそうなその顔を思うとシンジは嫌な気分になった。階段を上履きでコツンと蹴ってみる。この全然うらやましくないのにうらやましくて、迷子の途方もなさを足したような気持ちはどこから来るんだろう。手すりのない壁に寄りかかって空を見上げた。

青空。遠く群れの喧騒。そして駆けてくる足音。

「ポッキー強奪成功〜!」

真横のドアから渚が勢いよく飛び出してきたからシンジは驚いて声も出ない。

「あは、やっぱここだね」
「…ゲームは?」
「やるわけないじゃん。コレもらうためだよ」

振るとサクサクッと鳴る四角い箱。

「もらうんじゃなくてどーせどさくさで盗んだんだろ」
「違うよ物々交換」
「まさかじゃがりこと?」
「そ。そっちのほうがウケるって言ったらイッパツ」
「あはは、なにそれ」

笑ってしまう。安心したような気の抜けた声になっててシンジはドキッと驚いた。
でも更に驚いたのは、

「これめっちゃ硬いんだけど!」

渚が普通にポッキーを束ねて手で折っていること。

「なんの実験だよ」
「うっ…くそっなんで…」
「楽しい?」
「これ全然折れないんだけど!」

強っ!と叫びながら50本折りに挑戦中の渚を冷ややかに見つめるシンジ。

「シンジ君やってみなよ」
「折ってどうするのさ」

渚が片眉を上げた。

「知りたい?」

すると小指くらい短くなったポッキーをシンジの口に挿してーーチュッーーそのまま唇まで一緒に食む。ポリポリ。短いポッキーぜんぶ食べる。

「超高速ポッキーゲーム」
「…へえ」
「短くした方が折れないでしょ」
「ふーん」
「しかも折ったら2倍に増える!」
「あっそ」
「僕たちこれで何回このゲームできるかわかる?」
「知らないよ!」

チラッと渚の手の中を確認した。あと何回キスするんだ?
キスするんだってなに。

「気にしてないフリしてめちゃくちゃ気にしてるシンジ君って可愛い」

顔が熱くならないように空を見る。なんで僕はこんなにカジュアルに渚とこんなことしてるんだ?シンジは思った。思ったけど、全然嫌じゃない。だってシンジは日本の普通の男子中高生。今日はポッキーの日。

「…つまり三本の矢って折って増やすってことなの?」
「ううん、協力しようって教訓」
「へー」

今日の渚はなんだか賢いのだった。

「じゃ、次はシンジ君の番ね」

だからなんだか悔しいから、

「ん」

シンジは短くくわえた渚のポッキーをひょいっとつまんで唇にキスしてポッキーをそのまま食べた。予想外のことに思わず渚が両手で顔を覆ってしまう。

「僕の方が賢い♪」

してやったとおちゃらけながらも耳まで真っ赤なシンジだった。


おしまい




カヲえもん シンジと白い恋人が…


今年の夏は暑い。シンジは床に思わず寝そべり効きの悪いエアコンに辟易としながら足下のフローリングにしがみついた。

「あ〜あ暑い〜…なにか甘いもの食べたいな」

そこに不敵な笑みを浮かべる白い恋人の影。

「シンジ君、ちょっと待ってね」

カヲルはおもむろにカッターシャツを脱ぎ出した。そこでシンジはまたお約束の破廉恥なイチャつきだと思いカヲルをたしなめようとしたのだが、ちょっとした変化に気づく。カヲルのインナーシャツが青いのだ。そして…

「わ、え、ちょ、ソレ…なに!?」
「ドラえもんのコスプレさ。君があんまりにもドラえもんが欲しい欲しいって毎日言うもんだからね。ちょっと妬いていたのさ」

カヲルはベルトを外してズボンを下ろした。下まで真っ青。スカイブルーのタイツに真っ白な靴下。そして…

「あの、えっと…それは?」
「シンジ君のパンツさ!これだけはなかなか見つけられなくてね」

カヲルの腹にはシンジの真っ白なブリーフが貼り付けられていた。シンジは「青いタイツは見つけたくせにどうしてブリーフが見つけられないのさ!」と激しく突っ込もうとしたが、目を逸らすだけ。シンジの前にはカヲルのイチモツが薄い生地の中でもっこりと、妙な膨らみを増して存在を知らしめていた。彼はノーパンだったのだ。その破壊力たるや、皆さんご想像いただけるだろうか。素っ裸の方がまだ、マシである。

「もうやめてよ!早く服着て!」
「シンジ君は困っているんだろう?なら僕は君の力になりたいんだ」

そう言ってカヲルはシンジの願いを叶える為、純白のブリーフに手を突っ込んだ。シンジはブリーフがもぞもぞと蠢き出すのをとても直視出来ずに膝を抱えてうつむいてしまう。もういやだ、困っているのを助けたいなら今すぐそれをやめてくれ…

「はい!チョコレートだよ!…ん?」

カヲルの疑問符。シンジが顔を上げると、カヲルは手についた茶色をキョトンと眺めている。それはメルティ…溶けていた。

「固形だったのに…」
「体温で溶けたんだよ!いつからそれ入れてたの?」
「今朝からだよ。この時をずっと待っていたんだ」

今は学校帰りのカヲルの家。カヲルはそれを着て授業を受けていたのかと思うとシンジはなんだかいろいろ泣きたい気分になった。

「わかったよ。ありがとう、受け取るから…もう着替えてね」

そうしてカヲルの手から溶けたチョコレートを受け取ろうとした時、シンジは恐ろしい光景を目の当たりにするのだった。

「ねえ、そのブリーフさ…」
「ん?」
「なんか変じゃない?」
「え?」

シンジがカヲルの腹にくっついているブリーフを引っ張るとマジックテープがビリっと音を立てて剥がれた。ポロポロ転がる中の秘密道具たち。アメにバームクーヘンせんべいエトセトラ。そしてその空っぽの四次元ブリーフを覗き込むと、ちょうどお尻の当たる部分に茶色い染みが…

「うわあああああああ!!」

カヲルはそんな茶色いシミのついたブリーフを持つシンジを恍惚と眺めている。

「あは。これじゃまるでシンジ君がお漏らしをしーー」
「嬉しそうに言うな!」
「お漏らしする君もまた愛いらしーー」
「コラッ!」
「僕がお尻を拭いてあげるよ、さあーー」
「これ以上僕を怒らせたらカヲル君にはタイムマシンで未来に帰ってもらうから」

それからカヲルは一週間、シンジに口を聞いてもらえなかった。


一週間後ーー

「シンジ君、本当にごめんね。悪気は無かったんだ。お詫びに今日はうちにおいでよ。僕はシャワーを浴びて待ってるから、覗きにおいで」

そこでシンジは「君はしずかちゃんかよ!」ってツッコミも忘れて、この一方的な喧嘩に終止符を打ったのだった。

「うん、わかった…覗きに行くよ」

だって覗き見って一度でいいからしてみたかったんだ…シンジは少し、のび太の心情を理解した。
それにやっぱりカヲル君と一緒じゃなきゃ、寂しい。


放課後・カヲルの家にてーー

ガラッ。風呂場のドアが開く。

「きゃ、シンジ君のエッチ!」
「……いつまでその悪ノリ続ける気?」
「キューピッドの矢〜!え〜い!」
「ヒラリマント〜」 パシッ
「どこでもドア〜!」 ガラッ
「通り抜けフープ〜」 ススッ

カヲルは全裸のままリビングまで逃げてゆくシンジを追った。

「…シンジ君」

カヲルの真剣なトーンにシンジが振り向く。

「なに?」
「僕はドラえもんのように毎日欲しいって言われる存在になりたかったんだ」
「…カヲル君。僕はドラえもんよりカヲル君の方が好きだよ。毎日一緒にいる相手に毎日欲しいなんて言わないよ」
「シンジ君」
「カヲル君」
「僕はたとえ君がお漏らしをしてしまっても君のことが大好きだよ。いやむしろお漏らししてしまって羞恥に耐えきれず真っ赤になる君を想像するとそれだけで僕は勃ーー」

パキッ

エンディングに武田◯矢が歌いだした。


〜おまけ〜

「わあ!こんなにスペアポケットがいっぱい!」
「僕の下着入れ勝手に開けないでよ!」


つづ…かない。


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