僕の世界は君でまわる


たいせつな人にあげるプレゼントほど、何をあげたらいいか分からなくなるってほんとだったんだなあ。

「どうしよう…?」

流行りの雑貨屋さん、お洒落な洋服屋さん、新しくできたばっかりで評判のいいケーキ屋さん。水谷が好きそうなものを探していろんなお店に行ってみた。でも、それでも。しあわせそうにわらう、とびっきりのえがおがみたいと思ったら、何がいちばんいいのか分からなくなった。いっそ気になったのをぜんぶ買えたらいいんだろうけど、まだ高校生の俺には到底そんなことができるはずないわけで。結局もう12月も終わりそうなのにまだ何一つプレゼントを選べてない、なんてことになってしまった。

「よし!」

薄暗くなってきちゃったけど、あとちょっと探してみよう。やっぱり、ちゃんとよろこんでもらえるものをあげたいし。

「…あれっ、さかえぐち?」

元来た道を引き返そうとしたところで、ちょうど思い浮かべていた声が聞こえて振り返るとすぐそばにふわふわやさしいえがおがあった。

「ん、どしたの?なんか、つかれてんね」

「えっ、そ、そう?」

「うん、何してたのー?」

「あー…まぁ、ちょっとぶらぶらしてただけかなあ」

こんな時期になって水谷の誕生日プレゼントを選んでましたなんて言えるわけもなく、曖昧に誤魔化したら、気温に似合わないあったかい手がそーっと俺のつめたい指先を包んだ。

「じゃあちょっと俺の買い物付き合ってくれない?」

「うん、いいけど」

「やったあ!」

水谷がデートみたいだー、ってきらきらした目で言うからなんだか俺までたのしくてうれしい気持ちになった。いつも以上に賑わっているアーケード街を並んで歩く。

「どこ行くの?」

「んーとねー、もうちょっとで着くよ。あ、はい、ここでーす」

そう言われて着いたのは大人っぽい装いのジュエリーショップだった。ガラス戸越しの高級感溢れる店内に見とれていたら、そのまま手を引かれておずおず着いていく。水谷はこんなお店で何を買うんだろう?

「さかえぐち、見てみてっ」

水谷が一直線に向かったのは指輪のコーナー。ショーウインドウに飾られてるいくつかの中からシンプルだけど可愛らしいデザインの1つを指差している。

「わぁ…かわいいね、これ。」

「でしょでしょ?これ、ずっと欲しくてお年玉とかお小遣いいっぱい貯めてたんだ。あとこっそりバイトしたりもしたし」

「そうなんだ…」

値札を見て納得。これは…高校生がなかなかぽんと買えるような値段じゃないもんね。それにしても部活だけでもめちゃめちゃ忙しいのにバイトまでしてたなんてすごい。しかも、水谷の疲れた顔を見た記憶がぜんぜんない。

「へへっ、やっと買えるー!実はこれペアリングなんだよね。デザインがすごい気に入って、しかも栄口とお揃いに出来ると思ったらもっとほしくなって、だから頑張ったんだー」

「へぇー…って、えっ!?そうだったの?」

さりげなくいつもと変わらない風に言われた言葉に驚いて大きな声を出してしまった。慌てて口許を手のひらでおさえる。だからこんなに高いのか。きっと自分のだけだったら、バイトなんてしなくてもお年玉だけですぐ買えただろうに。

「うん、これが自分への誕生日プレゼント。あと、栄口にもプレゼントってことになるね」

「水谷…」

水谷の言葉にぽかぽかあたたかい気持ちになる。しあわせだなあ、俺は。こんなにたいせつに想ってもらえて。でも、俺だって同じくらいたいせつに想ってるんだよ。言葉にするのが下手くそなだけで。

「あのさ、これ俺が水谷の分買っちゃだめ…?」

「えっ」

「だって、水谷がいちばん欲しいものは…俺が買ってプレゼントしたいんだもん。」

本心から言った言葉だけど、なんだか恥ずかしくなってちょっぴり目が泳いだかもしれない。何にせよ誕生日プレゼントをまだ買ってなくて、ほんとに良かった。まーるくなった淡い色の瞳がしばらくしてから細くなってゆっくり細められる。

「わかった、へへ…ちょううれしいっ!自分で買っても栄口とお揃いだしすごいうれしいけど、栄口がくれたら…俺にとってもっともっと特別な宝物になるよ」

「…大げさなんだから」

「ほんとだもん!」

「はいはい」

二人がそれぞれお互いのリングをショーウインドウから出してもらって、プレゼント用の綺麗なラッピングもしてもらった。店員さんに見送られて外に出るともうすっかり暗くなっていたけど、その黒にイルミネーションのやわらかい明かりが映えている。

「はい、じゃあ俺からね?えっと…さかえぐちゆーとさん、俺と結婚してください」

「…えー、それはちょっと…」

「えぇ!?ひどいっ、そこは、はい一生ついていきますじゃないの?」

「しょーがないなあ…」

「わーいっ、やったあ」

甘ったるい声とちぐはぐな大人びた男らしいえがおにどくんと体温が上がった。水谷はずるい。何気ないふりで誤魔化したつもりだけど、ばれてないよね?たぶん、だいじょうぶ。

「はい、じゃあ俺からも。ちょっと早いけど、誕生日おめでとう」

「もーほんとうれしいっ!ありがとね。……でも、それだけ?」

「……だいすきだから、これからもずっといっしょな」

「……わああっ、さかえぐちーっ、だいすきー!」

届くか届かないかくらい小さな声で言ったのに、水谷にはばっちり聞こえてたみたいで思いっきり抱き締められた。いつものくせで慌てて周りを確認したけど、そんなことよりも抱き締められるほんの数秒前の水谷のかおが、ほんとにしあわせそうなとびっきりのえがおだったから、今日だけは許してあげよう。


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みずたにの誕生日を祝うWebアンソロ企画 はぴばふみき 様に参加させて頂いて、書いたみずさかです◎♪

素敵な企画に参加出来てしあわせでした!本当にありがとうございました。

タイトルは AK 様からお借りしました。


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