さんざめいて春 |
ひとりでに祈りのような顔をするハンドクリームの君の指先 連れ去ってくれるものなら 根の国のわたしもいつか花の紅になる 空振り土砂降りにわか雨 泥で汚した背中が痛い つま先を月でぬらしてなんでもないなんにもなれないまんまるの夜 墜ちるより死ぬのがいいか冬雀 何を殺してわたしはわたし わけもなく誰に会いたい心地して落ちる椿のあざやかな色 「もうぴったりくっついてしまう」うすぎりのきゅうりをつまむ指先で言う 夏のひかり熱も匂いもなにもかも連れていくから秋はさみしい 冷えてゆくものは指先だけでなくとけないきみの真白き目蓋 春だから優しくなれるはずなんだ 思うあなたの喉元に 花 |