ワルツ |
「ずっと昔から貴方とこんな風に踊っていたような気がするの」 途切れることなく流れ続けるワルツ。大理石の、豪華で、空虚なホールで踊り続ける二人。 「既視感というやつかしら」 その人は穏やかに微笑む。私も微笑み返す。くるくるとステップを踏んで回りながら、私達は柱時計の方へ近づいていく。 私達は知っている。あの柱時計の足元がもう随分前からぐらついていることを。私達があと三歩近づいたとき、柱時計が倒れてくることを。 私達は踊りながら一歩前に踏み出す。柱時計が僅かに揺らぐ。私達は踊り続ける。二歩、三歩。 柱時計が、轟音をたてて私達の上に倒れる。 「ずっと昔から貴方とこんな風に踊っていたような気がするの」 途切れることなく流れ続けるワルツ。大理石の、豪華で、空虚なホールで踊り続ける二人。 「既視感というやつかしら」 その人は穏やかに微笑む。私も微笑み返す。くるくるとステップを踏んで回りながら、私達は柱時計の方へ近づいていく。 私達は踊りながら柱時計の横を通り過ぎる。そのまま数歩先の階段に向かう。 私達は知っている。あの階段が崩れ落ちる寸前であることを。私達が階段に辿りついたとき、それが崩れることを。 私達は踊りながら階段に近づく。階段が、不穏に振動する。私達は進み続ける。 階段が、私達の上に崩れ落ちる。 時間は連続していない。繰り返し、戻り、くるくると回り続ける。いくつもの終わり。いくつもの始まり。 「ずっと昔から貴方とこんな風に踊っていたような気がするの」 途切れることなく流れ続けるワルツ。大理石の、豪華で、空虚なホールで踊り続ける二人。 「既視感というやつかしら」 その人は穏やかに微笑む。私も微笑み返す。 私達は何度も生まれては死んでゆく。繰り返し、繰り返し、いくつもの生と死を回り続ける。永遠に踊り続けながら。 「また、次の時も会えるといいわね」 くるくると、私達はステップを踏み続ける。柱時計を通り過ぎ、階段を超え、銅像の下に通りかかる。 私達は知っている。あの銅像の足場が壊れていることを。あと少しで、それが私達の上に落ちてくることを。そして、私達はまたこの場所で出会うだろうということも。 「じゃあ、またいつか」 「そうだね」 私達は必ずまた廻り会う。生きるために。死ぬために。繰り返す時の中で。 銅像が、私達の上に落下する。 |