冬の音 |
雪の上にピアノを置いた 緑色のピアノ Aのおんさでピアノをたたくと ダイヤがばらばらと地面にこぼれ落ちた 夏 ダイヤは流れ星になって空をすべる 電話ボックスの中でトランペットを吹いていた少女が それを見つけて外へと飛び出す 空に向かってAの音を吹きならすと 流れ星はトランペットの中に吸い込まれる 少女は満足気にトランペットをひとつなでる 林檎の木の下で レコードを何枚も何枚も割りながら Aの音で兄は泣く ラ ラ ラ ラ ラ その隣でわたしは Aの音で子守り唄をうたう ラ ラ ラ ラ ラ 春 ダイヤは花になって空にあふれる Aのおんさはタクトになって その動きにあわせて花たちはワルツを踊る 雲雀が一羽 花から花へととびあるきながら Cの音でうたをうたう たくさんの兵隊たちが 黙ったまま静かに行進してゆく ざくざくと雪を踏みながら そのあしあとはレールになり その上を汽車が走ってゆく 父と母を乗せた汽車を 月が大きな口をあけて飲みこむ わたしはAのおんさでレールをたたく 兄は線路に耳をつけて Aの音に耳をすます 子守り唄は潮の音になった ひとりきりで歩きながら わたしはAの音で世界をつくる 線路の音 子守り唄の音 兵隊の歩く音 その音でわたしは世界をつくる Aの音から何もかもが生まれる 冬 雪の上にピアノを置いた 緑色のピアノ Aのおんさでピアノをたたくと すべての鍵盤が すべての弦が ぶるぶると身震いして涙をこぼした はやく 夏よこい そうして 春が 夏が 秋が いくつも巡ったら わたしはまた雪の上にピアノを置く inspired by 「四季・ユートピアノ」 |