今日は水面が遠い。
 昨日は雨が降った。晴れて空の綺麗な日だった。空いっぱいの雨は、青い水面を叩いて視界を揺らした。
 狐の嫁入り。空の上のその結婚式は、どんな風だったろうか。
 家々の間をすり抜けて、何かの魚が泳いでいく。壁についた細かな空気の泡が、水が揺れるたびに、ぷつぷつと剥がれて浮かび上がる。その遠い水面に、陽の光が映っている。水面が揺れるのに合わせて、木漏れ日のようにその光もちらちらと揺れた。
 きっと忘れてしまう。忘れられないように思えることも、少しずつ思い出せなくなって、また新しい日常の中に溶け込んでいく。早く忘れてしまえればいい。そうやって、幸せになってくれるといい。
 木漏れ日が静かに水底に沈む。遠い夏が水面で揺れている。誰かの落としたらしい麦わら帽子が、小さく影を落として流れていく。



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