裾を引きずらないよう背筋を伸ばして、踏んづけて転ばないよう堂々と歩く。
マダム・マムに言われた心得を思い浮かべながら、私はルーファウスが待っているはずの受付へ向かった。
「あれ? いない……」
しかしそこは無人で、私がマムに振り返ると彼女は首を横に振る。
預けていた荷物から携帯端末を出すと、『外で待っている』というメッセージが入っていた。
「自分勝手な男だね、あの坊ちゃんは」
そう言いながら苦笑するマムに促されて外に出ると、空はすっかり暗くなり街中はネオンの灯りに彩られている。
手揉み屋の門の前に目をやると、こちらに背を向けて立つ人影があった。
「落ち着きがない男はモテないよ!」
その背中にマムが声をかけ、ようやくこちらを振り向いたのは、ネイビーのスリーピーススーツに着替えたルーファウス。
中には黒いシャツを着て、珍しくネクタイはせず胸元を開けている。
普段とは少し違うワイルドな魅力が漂っていて、そんな彼と目が合うと私の鼓動が跳ねた。
ルーファウスはまず私をじっと見つめて、スラックスのポケットに入れていた手を出す。
こちらに歩いてくると片手を出して、差し出した私の手を取った。
「ふむ……やはり似合うな」
片手を顎に当てて私をまじまじと見るルーファウス。
「ルーファウスも着替えていたんですね」
「ああ。近くに洋服店があるからそこに取り置かせていた」
「いつもと雰囲気が違って素敵です、とても」
すると私の後ろにいたマムがパンパンと手を叩いた。
「はいはい、ここは待合場所じゃないんだよ。準備ができたならさっさと行った行った」
しかしその声色は優しくて、私は面倒見の良い彼女に振り向くと頭を下げる。
「マダム・マム、お世話になりました。素敵な私に変身させてくれてありがとうございます」
するとマムは困ったように笑いながら、目の前で手を横に振った。
「やだよ、アタシはただ代金の分だけ働いただけさ。本業じゃないけどこれだけの上客はそういないからね」
彼女は根っからの商売人なのだろう。マムは扇子を口元に当ててからからと笑っている。
ルーファウスは一体この人にいくら支払ったのだろうか。
聞いても教えてはもらえないだろうけど。
別れを告げて、マムは上機嫌で店の中へ戻っていく。
私はルーファウスに手を引かれて歩き出した。
「少しだけ歩く」
そう言ったルーファウスは横目で私を見て口の端を上げる。
「こんな素敵なドレスまで用意してくれて、本当にありがとうございます」
いくらかかっているかはこの際とりあえず置いておいて、ここは素直に感謝しておこうと思う。誰だってせっかく用意したプレゼントは喜んでもらえた方が嬉しいだろうから。
「いや……マダムはあんなことを言っていたが俺からしたら安いくらいだ。お前に俺好みのドレスを着せるなどなかなかない機会だからな。作ろうと思えば作れるがこうでもしないと尻込みするだろう?」
確かにルーファウスの言うことは一理ある。
初めからドレスを買ってやるから出掛けるぞなんて言われても、そんな勿体無いと押し問答になったことだろうから。
「よく分かってらっしゃる」
「ああ。もうお前のことなら隅々まで知っているぞ」
私の頭のから爪先までを眺めてそんな事を言い出す彼のせいで赤面してしまう。
「もう……意地悪」
ルーファウスは心底愉快そうにくつくつと喉の奥で笑うと、ようやく目的地に辿り着いたらしく歩みを止めた。
『蜜蜂の館』
ネオンサインで大きくそう書かれた看板は、見上げると目がチカチカする。
確かこの辺りは娯楽地区と呼ばる場所だったはずだが、マダム・マムの店があった商業地区と比べると随分と猥雑な雰囲気だと思った。
建物の周りには沢山の人が列を形成していたけれど、ルーファウスは入口に立っていた男性に顔を近づけただけで入館を許可された。
ここが一体何の場所なのか分からないまま、私はルーファウスにエスコートされて中に入る。
豪華な受付の横には、際どい水着のような格好に網タイツを履いて触手と羽をつけた綺麗なお姉さん達が立っていて、辺りは甘い蜂蜜の香りが充満していた。
「いらっしゃいませ〜」
語尾にハートマークがついていそうな甘い声でお姉さん達が私達に挨拶してくれる。
「お待ちしておりました。今宵は当店をご予約いただき誠にありがとうございます」
受付の男性はルーファウスの姿を確認するなり隣に置いてあったポールをどかす。どうやらここからさらに奥へ入れということらしい。
相変わらずサングラスはかけているものの、さっきからルーファウスの正体はこの店の人にはバレバレらしい。予約をしているみたいなので、そのせいかもしれないけれど。
私達は階段を登ってすぐの個室に案内される。どうやらここはホールの二階席らしく、眼下には煌びやかなステージが備えられていた。
ルーファウスは真っ赤な革張りのソファに腰を下ろすと、隣を叩いて私にも座るよう促す。
目の前のテーブルを挟んだ向こう柄は手すりになっていて、その下はホールになっているという作りだ。
一階部分には既に沢山のお客さんが入っているけれど、10人くらいは収容できそうなこの部屋には私達二人だけ。
もしかしなくともこれはVIPルームというやつではないだろうか。
「ここ、何かのショーをやるところですか?」
「ああ。ミッドガルで一番洗練されたダンスショーが観られる」
「ダンス! わぁー、楽しみ!」
ボーイ曰くショーの開幕まではあと少しあるらしい。
黙っていても飲み物や軽食が運ばれてきて、私たちはシャンパンで乾杯した。
「こんな場所初めてです」
「だろうな。ジュノンには縁遠い」
「素敵な格好にもしていただいて……忘れられない夜になりそうです」
シャンパングラスを口につけたルーファウスは優雅な仕草で香りを楽しんでいる。
グラスを置いた彼は、隣に座る私の手を取ると手の甲に唇を寄せた。
「夜はまだまだこれからだ」
青い瞳が上目遣いに私を見つめる。すっかり射抜かれてしまった私は、顔に集まる熱を冷ましたくて頬に手を当てた。
ちょうどその時華やかな音楽が流れて客席の照明が落とされる。
対照的に一段と明るくなったステージに目をやると、沢山のダンサー達が躍り出てきた。
蜂の格好をした女性ダンサーとシルクハットにゴールドのベスト姿の男性ダンサーがペアを組んで踊っている。
息の揃ったダンスに、私はあっという間に釘付けになった。
ルーファウスは見慣れているのか、ソファにゆったりと背中をあずけて足を組む。上機嫌の彼は片手を私の肩に回して、空いた手でシャンパンを楽しんでいた。
身体に響く重低音に合わせて私もついリズムに乗ってしまう。アルコールのせいもあってかとても気分が良い。
ルーファウスはそんな私の頬や肩に時々キスをしたりして、彼なりに楽しんでいる様子だ。
音楽の雰囲気が変わり、ルーファウス以外の観客は私も含めて皆曲に合わせて手拍子をしだす。
ステージの真ん中に出てきたのは短い髪と髭を整えた男性ダンサーで、群を抜いてキレのあるダンスを披露しだした。
「オーナーのアニヤン・クーニャンだ」
大きな音楽にかき消されないように、ルーファウスは私の耳元に近付いてそう教えてくれる。
アニヤンと呼ばれたその男の人は露出が高い衣装を身に纏い、煌びやかなステージの上をあっちへこっちへと舞っている。
その姿は、まるで蜜蜂達が飛び交う花畑に現れた美しい蝶のよう。
アニヤンさんのダンスに観客の熱気は最高潮となる。
私もすっかり夢中になってしまって、ステージを食い入るように見つめていた。
そのうちにルーファウスの手が私の肩から腰に降りてきて、ぎゅっと抱き寄せられる。
彼は剥き出しになっている私の鎖骨に口付けると、意地の悪い顔で笑った。
「妬けるな」
響き渡る音楽で声は聞き取れないけれど、彼の唇の動きははっきりとそう伝える。
「もう……ルーファウスは見ないんですか?」
そう文句を言うため彼の耳元に近づけた私の唇は、間髪入れずに降ってきたルーファウスのそれに塞がれてしまった。
いつもよりアルコールの匂いが強い。
もしかして、あのルーファウス神羅が酔っている?
そう思ったら途端に彼が可愛く思えて、ルーファウスの顔が離れると私は彼に向かって微笑んだ。
形の良い唇を親指で拭ってあげると、私が塗っていたピンクレッドのルージュがつく。
突然触れられて驚いたらしいルーファウスは目を丸くして、やがて肩を振るわせて笑い出した。
「クックック……こんなに頭を空にして楽しめる夜はない」
見つめてくる薄青の瞳はどこか挑戦的で、悪戯を考えている少年のよう。
今日はルーファウスのいろいろな一面を見ることができて私は幸せだ。
そう思って、目の前の彼に今度は私からキスをしてみる。するとルーファウスの手が私の後頭部に這わされて押さえられてしまった。
何度か深く口付けていると、音楽が止んで観客達が拍手喝采する。
「……終わってしまったぞ」
残念だな、なんて心にもない事を言いながらルーファウスはソファに深く座り直した。
「責任とって、また連れてきてくださいね」
グラスに残ったシャンパンを飲みながら私がそう言うと、彼はフンと鼻を鳴らした。
私もだんだん逞しくなってきたような気が、しなくもない。
「失礼します。ルーファウス様、オーナーのアニヤンがご挨拶にと」
後ろから声をかけてきたボーイの肩越しに、さっきまで下のステージで踊っていたアニヤンさんの姿が見える。
彼は私たちの席まで来ると恭しくお辞儀をした。その所作の優雅なこと。
「ルーファウス様、本日はお越しいただきまことにありがとうございました」
「相変わらず極上のエンターテインメントを提供してくれるな」
「恐れ多い……お楽しみいただけたなら光栄です」
ルーファウスからの称賛にも驕ることなく、アニヤンさんは再び礼儀正しくお辞儀をすると私を見た。
「美しいお連れ様にも、お喜びいただけたでしょうか」
「美しいなんてとんでもないです……でも、とても素晴らしかったです!」
「これがあまりにお前に夢中になっているから少し妬けたぞ」
「これはこれは。私もまだ命は惜しいのですが」
そう言ってアニヤンさんは上品に微笑んだ。
近くで見ると引き締まった身体には強靭な筋肉がついていて、ダンサーという職業の過酷さが分かった気がする。
「さて、我々は帰るとするか」
アニヤンさんがここに来たということはもう今夜のショーは終わりだということだ。
ルーファウスは立ち上がると私の手を取って引き起こしてくれる。
「アニヤン、私の迎えは来ているか?」
「ええ。屋上のヘリポートでお待ちいただいていますよ」
「分かった。行こう、ナマエ」
ルーファウスに手を引かれて私は部屋を後にする。
案内されるままに真っ赤な絨毯が敷かれた階段を登ると蜜蜂の館の屋上に出た。
目の前には黒いヘリが一台停まっている。
「お疲れ様です、社長!」
中から出てきたのは黒いスーツに映える金髪の、小柄な女性だった。
「ナマエ、タークスのイリーナだ」
「ナマエさんですねっ! 初めまして、イリーナです。先輩達からお話は聞いてます!」
タークスの先輩ということはレノやルードさんのことだろう。
ツォンさんのことは、ルーファウスに考えがあってまだ彼らには知らせていないようだ。
状態がまだあまり良くないからとか、そういう理由らしいけれど。
私もイリーナさんの姿に見覚えがあって、それはレノから送られてきたウータイ旅行の写真に写っていたのが彼女だったからだ。
「初めましてイリーナさん。お迎え、ありがとうございます」
私が手を差し出すと、イリーナさんは両手で握って握手してくれる。
「社長! めちゃくちゃ綺麗な人じゃないですかー!?」
「フッ、レノから何を聞いたか知らんがこれは元々こういう女だ」
「いやいや……今日は特別ですって! 何ギルかけたんですか一体」
私を余所にルーファウスとイリーナさんが話し合っている。ルーファウスとマダム・マムのお陰でここまで別人にしてもらえたのだから、それはちゃんと分かってもらわないと後で幻滅されてしまうのに。
「普段は作業着だし鉄臭いし油っぽいんですよ私!」
「あー、鉄壁の武器オタクでしたっけ? 信じられませんねー」
「レノの奴……!」
「ククク……少しずつ変わっているところがなんとも可笑しい」
ルーファウスは口元を押さえて肩を震わせているし、イリーナさんは私を見てぽかんと口を開けていた。
こんなドレスが不釣り合いなのは分かっている。
私は武器兵器馬鹿、鉄壁の武器オタク。
それしか取り柄がないけれど、それが何よりの強みなのだと自負しているし。
タークスのように身体を張ってルーファウスを守ることはできないけれど、裏方として役に立つことは十分できる可能性を持っているのだと、胸を張って言うことができるようになった。
「気にするな。作業着を脱いだお前は美しい俺の恋人だ」
「美しい、は今だけですけど」
「なに。見てくれの美醜だけの話ではないし、今夜はこういうお前が見たかっただけで作業着を纏った普段のナマエも……」
「あのー……お話し中すみませんが、帰らないんですか?」
私たちの様子を伺っていたイリーナさんが、心底申し訳なさそうに口を開く。
彼女は上司とはいえ休暇中のルーファウスの送迎というほとんど私的な用件に使われてしまっているのに、待ちぼうけさせては立つ瀬が無い。
「行きますよ、ルーファウス」
「ああ。強引なのも悪く無いな」
「やっぱりあなた、少し酔ってますね?」
いつも以上に饒舌なのは飲みすぎたシャンパンのせいなのだろう。
イリーナさんはやれやれと苦笑いしながらヘリのドアを開けてくれた。
「ごめんなさい、イリーナさん」
「いえ! というかイリーナで良いですからね。レノ先輩みたいに仲良くしてください!」
「レノには今敵意しかないんだけど……」
私はルーファウスに続いてヘリに乗り込みながら、ドアを押さえてくれているイリーナと言葉を交わす。
彼女の溌剌とした雰囲気は、かつて亡くした同じ女タークスの友人を少し思い起こさせた。
イリーナが操縦してくれるヘリの中で、私は遠ざかるウォールマーケットの景色を眺めていた。
アニヤンさんは最後まで腰を曲げて私達を見送ってくれている。この雑多な街に似合わないほど優雅な人だと思うけれど、娯楽地区の権力者なのだからきっとそれだけの人ではないのだろう。
ルーファウスと一緒にいると、元々の生活では出会うことのなかった人にたくさん出会うことができる。
ルーファウスはいつだって私を喜ばせようと、楽しませようとしてくれた。
こんなに甘やかしてくれて良いのかと思うくらい、彼は私に甘い。だから彼にも私に甘えて欲しいのだけど。
願わくばこの先も彼と共にありたいと思う。
そのためにはやはり、夜空に煌々と光る赤い星をなんとかしなくては。
ヘリの高度がだいぶ上がって、遠くに見えてきたのは八番街の大通り。
そこに組み立て中の足場を見つけて、私は胸の奥で一つの決断をした。
「ルーファウスにお願いがあります」
「どうした? 改まって」
自分を奮い立たせるために胸に手を当てて彼を見上げると、ルーファウスの真剣な眼差しが注がれる。
私は一呼吸すると先程胸に抱いた決心を口にした。
「今度の作戦、私にやらせて下さい」
上機嫌だったルーファウスの顔はみるみるうちに険しいものになっていく。
「準備だけじゃなくて、発射の方も担当させて欲しいんです」
「駄目だ、その頼みは聞いてやらん。何があるか分からない」
「だからです。私なら対処できます」
駄目だと言われるのは予想済みだった。でもここで簡単に引き下がるわけにはいかない。
「サファイアウェポンの時、ギリギリで対処できたのは誰がいたからかご存知ですよね?」
自惚れるなと怒られたらそれまでだけど、この人を相手にするなら強気でいかないとすぐに言いくるめられてしまうから。
「今回はもっと難しい作戦です。ミッドガル中の魔晄エネルギーを集めてあんなに遠くまで発射するんですよ? 事前の調整は私が責任を持って行いますけど、その後は知らないなんて出来るはずありません」
「わざわざナマエがこれ以上恐怖を味わうこともないだろう!」
ルーファウスが声を荒げるなんて滅多にあることではないから、私は一瞬その気迫に言葉が詰まりそうになる。
でもここで折れてしまったらいけない。私の覚悟はこんなものじゃないと分かってもらわないといけないのだから。
私は固く握り締められているルーファウスの拳に手を重ねた。
彼は私の真意を探ろうと、訝しげな顔でこちらを凝視している。
「ルーファウスが心配なんです。今回の作戦はあなたが総指揮を取ると聞きました……」
「失敗が許されない、ミッドガル全体に関わる重要な作戦だからな。何か起きたときに逃げ出すようなハイデッカーになど任せられるか」
「私を信頼してくれているなら、そんな重要な作戦から外そうなんて思わないで下さい」
鋭い眼差しを負けじと見つめ返す。ルーファウスは怒っているわけではないけれど、なんでそんな我儘を言い出すのかと言いたげだった。
確かに、これまで私は彼に反抗したことはない。そもそもルーファウスは私に甘いから、反抗する必要もなかったのだけども。
今回の件は、ヒュージマテリア回収時の出来事が尾を引いているのだろうことは私にも想像できた。
「お前はいつも俺の役に立ちたいと言うが、ただ居てくれるだけで十分役に立ってくれている」
私が目を逸らさないので根負けしたらしいルーファウスは、小さなため息をつくとぽつぽつと話し始めた。
「俺のためにと無理をして傷つくナマエは見たくない。いつの間にか、お前の笑顔が無ければ冷静な自分でいられない俺になってしまった」
そう言って、ルーファウスは拳を開くと上に乗っていた私の手を包む。
懇願するような彼の声に心が痛んだ。彼も不安になるようなことがあるのだと、この時初めて知ったから。
それでも。
「もし何かあったとして、その時に自分がその場にいなかったらきっと後悔すると思います。 私は私の出来ることをしたい。出来ること全てし尽くした上で、胸を張ってあなたの隣に立ちたいんです」
ルーファウスは黙ったまま目を瞑る。
長い沈黙の後、ようやく彼はゆっくりと目を開いて、青い瞳に私を映した。
「……おそらくキャノンには破損箇所がでるだろうから、作戦の後も責任を持って直すんだぞ」
「……はい! ありがとうございます!」
「作戦が終わったら本社に異動させるからな。これからは俺の側でその力を尽くせ。そうだな……シスター・レイにも劣らない新型兵器の考案などどうだ」
ルーファウスはやれやれと言いながら苦笑いしている。
結局のところ彼は私に甘くて、自分でもそう自覚しているのだろう。
「ルーファウス、大好きですっ!」
大役を任せてもらえる高揚感と、これからはもっと彼の為に好きな兵器に関わっていくことができるという喜びで、私は思わずルーファウスに抱きついた。
ルーファウスは私の背中に手を回しながら、喉の奥で笑っている。
「ククク……現金な奴だな。仕事が関わると途端に頑固者になる」
「……それくらい真剣なんですよ!」
一度力強く抱き締めてから、ルーファウスは私の身体を少し離した。
「良いか。もうジュノンには返してやらないから離れるなよ。開発課長の小言くらい安いものだ」
私は彼の柔らかい瞳を見つめてくすりと笑う。
「はい。それに、離れていたのはルーファウスの方ですよ」
すると彼は目を瞬かせてからニヤリと口角を上げた。
「違いない。あれはもう、こりごりだ」
ヘリはミッドガルの中心地に差し掛かり、すぐそこには神羅ビルのプレジデントフロアが見えた。
ルーファウスは私の肩を抱いて窓の外に目を向ける。
私も彼に顔を寄せると夜景を見下ろして、最愛の人が守ろうとしているこの街を一望した。