「ヒュージマテリア、ですか?」
初めて聞く単語に、私はそれをただ復唱することしかできない。
「そう。なんでも、ビックでラージでヒュージなマテリアらしいよ」
課長から渡されたのは、スカーレット統括の名前で出された指令書だった。
一番上には『ニブル魔晄炉におけるヒュージマテリア回収作戦』と書かれている。
サファイアウェポン撃破からこの数日間、私は魔晄キャノンやウェポンに破壊された兵器の修理を行なっていた。
しかし今朝、課長がやってくると私宛だという指令書を差し出してきたのだ。
スカーレット統括は、どうやら私を"気に入って"下さったらしい。喜ぶべきところなのだろうけれど、統括の性格を考えると正直言うと嬉しくない。
私はとりあえず指令書の概要を流し読みする。
そこには、ニブルヘイム魔晄炉の魔晄だまりに生成されたヒュージマテリアを回収し、ロケット村に運ぶという作戦について書かれていた。
ヒュージマテリアというのは先程課長が言った通りビックでラージでヒュージなマテリアのことらしい。
課長曰くそれは普通のマテリアの330倍超もあるパワーを秘めた代物で、高濃度の魔晄が長い月日をかけて圧縮されると出来るものだという。
高濃度の魔晄が長い間たまる場所と言えば、まさに魔晄炉最深部のこと。
ミッドガルのものを除く魔晄炉の管理は我々兵器開発部門の管轄なので、私も魔晄炉内部の作りや機器の操作について研修くらいは受けている。
取り扱うものがマテリアの一種だから過去にマテリア開発もしていたこともある、何より先日の出張に同行した私が、また安直にも指名されたのだろう。
私はその指令書の中に肝心の任務開始日を見つけて目を丸くする。
「え、今日出発ですか!?」
そう。今日付けで出された指令書には、今日の午後ジュノンから空軍のゲルニカを使ってニブルヘイムまで向かうという日程が書かれていたのだ。
いくらなんでも無茶苦茶な指令だが出したのがあのスカーレット統括なら有り得ると思えてしまうのが恐ろしい。
突然の思いつきなのか、指示を出すのを忘れていたのか、そのどちらかは分からないけれど。
「すまないね、ナマエくん……君のやりかけの作業は僕が引き継ぐよ。もう寮に戻って良いから支度をしておいで」
相変わらず社宅に帰れていないらしい課長は、やれやれ困ったねと言いながら苦笑した。
寮に帰ってニブルヘイム行きの準備をしていると、私の電話端末が着信を告げる。
パネルに表示されているのは、ルーファウス神羅という名前。
私は慌てて通話ボタンを押すと、息を整えて端末を耳に当てた。
「はい、ナマエです」
『ニブル魔晄炉に向かうと聞いたが本当か?』
電話口の向こう側で、開口一番社長は普段よりも少し早口気味にそう言った。
「そうなんです。今支度をしているところで」
『俺も同行する』
「え……? 社長がですか?」
予想外の反応に私がつい聞き返すと、社長はどうやら近くの誰かと話し始めたようだ。
『……そうだ、至急連絡しておけ……私と……いい、そっちは放っておけ。すまないナマエ、そういう事だから安心しろ』
「へ? は、はい。分かりました」
『では後ほど。ジュノンに着いたら迎えを寄越す』
「……ありがとうございます? あの、お気をつけて」
電話が切れる前、社長はフッと笑っていた。
何から何までがいきなりすぎて頭がついていかないのだけれど、社長が一緒なら統括からの無茶な指令も頑張れる。
指先でそっと自分の額に触れる。
あの時確かに微かな熱を持ったそこは、まだあの感触を忘れていない。
私は彼の期待に応えようと、昔研修でもらったはずの魔晄炉の資料を探し始めた。
「お疲れ様です、社長」
迎えに来てくれた警備兵に連れられて、私は初めて空軍のゲルニカ飛空艇に乗ることができた。
移動することに重きを捉えたハイウィンド号とは違ってこちらはまさに空飛ぶ軍艦で、これがまた重厚な艦体に搭載された最新鋭の兵器など魅力的なところがたくさんある。
私は周りを見回しながら、席に座って書類に目を通していた社長に挨拶した。
「ごくろう。スカーレットもお前を随分と酷使するものだな」
「統括から聞いたんですか?」
「いや、スカーレットとハイデッカーが勝手に事を進めようとしていたんだが、ナマエに出た通達についてお前の上司から俺に連絡がきて知った。それであいつらに問いただしたら企んでいることを全部吐いたというわけだ。全く、勝手な奴らだ」
「えっ……勝手に?」
「どうせ手柄が欲しかったのだろう。しかし開発課長は有能な男だな。現場からお前が抜ける穴が大きいからそれだけの価値がある作戦なのかと問い合わせてきたんだぞ。そう装って、俺に知らせるために」
課長がそんなことをしていたなんて知らなかった。
前に二人で話していた時に社長の機嫌がとても良かったから、気が合うのかもしれないとは思ったけれど。
しかし課長は本当に有能な上に良い人だから、私を心配してくれてのことだったのだろう。
社長は書類を置くと片手で隣の空席を叩く。私はそこに座らせてもらうと、鼻に届く社長の香りに一人顔を赤くした。
どうしたって、彼を前にするとこの前の夜のことを思い出してしまうから。
ゲルニカは轟音を響かせながら離陸し、ニブルヘイムの方角に向けて旋回した。
お世辞にもハイウィンド号程の乗り心地とは言えないけれど、あれは憎きクラウド一味に奪われてしまったのだから仕方ない。
本当に、彼等は世界をめちゃくちゃにしてまで何故こんなに私達の邪魔をするのだろうか。
「社長、私頑張りますから」
どんな邪魔があっても負けたくない。
私達は誇り高き神羅カンパニー。
誰よりも慕っている、彼の名を冠したこの会社が私は好きだから。
「頼もしいな。だが、無理はするなよ」
社長はそう言ってこちらに顔を向けると、青い目を細めて穏やかに微笑んだ。
ニブルヘイムに着くまでの間、今回のヒュージマテリア回収作戦の詳細について社長が直々に説明してくれた。
どうやらスカーレット統括はアバランチのティファとやりあった……ビンタを張り合ったらしいのだけれど、そのせいで負傷したらしい。
社長曰くただ顔が腫れたくらいとのことだが、美意識の高い統括にとっては死活問題なのだろう。
全く、スカーレット統括の機嫌を損ねるようなことはしないでもらいたいのに。
ヒュージマテリアについては、とてつもない力を秘めた塊という認識で良いらしい。あの北の大空洞でウェポン達が眠っていたマテリアの結晶も、ヒュージマテリアと考えて良いだろうと社長は言う。
なんとそのヒュージマテリアを各地の魔晄炉から集めて、宇宙ロケットに搭載して飛ばすというのが最終的な目的らしい。
それは勿論、セフィロスが呼び寄せたメテオにぶつけて破壊するため。
なんとも壮大な作戦だけれどもそれ以外の方法が今のところ無いため、なんとしてもヒュージマテリアを回収しなくてはならないという。
「ニブルヘイム以外ではコンドルフォート、コレル、あとはジュノンの海底魔晄炉が候補に上がっている。そっちはまだマテリアの生成があるか調査させているんだが、準備が整い次第回収作業に入ることになっている」
「では今まさにこれがこの作戦の初動なんですね」
「だからこそお前が選ばれて、俺もこうして足を伸ばしたわけだ」
「ありがとうございます……社長がいて下さると心強いです」
そう言って社長を見上げてみると、真剣な表情の彼と目が合う。
「あの魔晄炉には色々と謎も多いから、この目で確かめなければとずっと思っていた」
「ニブルヘイムの魔晄炉って、確か一番最初に造られたんですよね」
「ああ。昔はあそこに……ジェノバが置かれていたらしい」
社長は手元の資料に視線を落とすとそう呟いた。
「そんなところに、お前を一人で行かせるわけにはいかない」
当然元から私一人ではなく警備兵も同行することにはなっていたけれど、社長はそれだけでは心配だと言ってくれた。
「タークスを呼ぶ事も考えたのだがあいつらは他の任務に向かわせた。警備も増やしたし、いざとなれば俺が守ってやる」
そう言うと、社長は私が修理した新しいショットガンを取り出す。相変わらず綺麗に磨かれていて、黒いボディが艶々と光った。
「ありがとうございます、頼もしいです」
「任せておけ」
ショットガンをホルスターにしまうと、社長はまた表情を緩めた。
この人が隣にいるだけで私はこんなにも安心できる。
"先払い"してもらった分まで頑張らないと……と、あの時の意図を教えてほしくて、早く目の問題を解決しようと私は心に誓ったのだった。
ニブルヘイムというのは、ミッドガルから離れた山間にある田舎の村のこと。
その割に神羅の息がかかった場所らしいのは、ここに一番最初に建てられた魔晄炉が有るかららしい。
魔晄炉の関係者なのか、住人も神羅に関わる人がほとんどだと聞いたことがある。
村の近くにゲルニカを停めた私達が、ニブルヘイムの村に入ったのは夕方に差し掛かる頃だった。
陰鬱な雰囲気の活気が無い集落というのが私がこの村に抱いた第一印象で、とにかく静かな、静かすぎる場所だと思う。
私達一行は護衛の兵達に先導され、村の裏手からニブル山を経由して魔晄炉へ向かった。
一行と言っても兵士達と社長、私の他には、ヒュージマテリアの取り出し作業に使うアームのついた機械を載せた台車が一台だけ。
海底魔晄炉用に造ったキャリーアーマーを持ってこられればよかったのだけれど、テストが後もう少し終わっていなくて、泣く泣く後輩達に続きを任せてきた。
道なりに進んでいくと山の頂上に古い魔晄炉が見えてくる。
よくこんな場所に造ったなと思うけれど、昔まだ魔晄の有用性が知られていなかった頃に建てられたものだから、こんな辺鄙なところしか候補地がなかったのかもしれない。
「疲れたか?」
そびえ立つ魔晄炉を見上げながら歩いていると、さっきまで兵士達と話していた社長が近付いてくる。
「連日息をつく暇もないだろう。徒歩が長くて悪いことをしたな」
「こんなところ車もヘリも入れないですから仕方ないですよ。それに、こんな大役を任されて誇りに思ってますから!」
社長に心配をかけたくないからそう言って私は大袈裟に胸を叩いてみせた。
確かにろくに休まずここまで来たから疲労は感じているし、重大な任務を与えられて緊張もしている。けど、社長の目の前で大役を果たせると思えばそんなこと苦にもならなかった。
「ナマエ、くれぐれも無理はするなよ」
さっきからやけに心配そうに見てくる社長を安心させたくて、私は彼を見上げてにいっと笑ってみせた。
ミッドガルの魔晄炉はあれでいてよくメンテナンスされていたのだなと、海底魔晄炉以外の地方魔晄炉に初めて足を踏み入れて気付かされた。
海底魔晄炉は私達兵器開発部門のお膝元にあるだけあってきちんとメンテナンスしているし、ミッドガルの魔晄炉は生真面目と言う噂のリーブ統括の管轄なのできっときちんと管理されているのだろう。
ガードスコーピオンを投入する際に見学させてもらった壱番魔晄炉を思い出す。今は、爆破事件の後からずっと修理中らしいけれど。
「村と同じく陰鬱な場所だな」
社長も私と似た感想を抱いたらしく、険しい表情で魔晄炉内を見回している。
それでも入り口付近はまだ良い方だった。
私達は進んでいくほどに、そう感じざるを得なくなる。
中央部分に差し掛かると、そこには卵型のポッドがいくつも並べられていた。
遠巻きに見る限り中は何かの液体で満たされているようだ。
社長は足早に近付くとポッドの中を覗いて、険しい顔で首を横に振る。
「ナマエ、お前は近づくな」
「分かりました……あの、中身は……?」
「知らなくて良い。宝条かガストか……こんなくだらんものを。旧時代の遺物は早く処理しないとならんな」
社長は舌打ちすると、早く魔晄だまりに向かうぞと言って歩き始める。
ポッドが並べられた向こうには扉が壊された部屋が続いているようだったけれど、社長はそこには立ち寄ろうとしなかった。
最深部の魔晄だまりに近付くに連れて、空気中に気化された魔晄――正式にはライフストリームと呼ぶ――の濃度も高くなってくる。
この空気にすら長時間触れていると人によっては魔晄中毒になってしまうくらいなので、作業は手早く行わなければいけなかった。
「社長はここでお待ちいただけますか? これより作業を開始します」
ようやく魔晄炉の一番奥に辿り着いた私達。私は兵士達に頼んで運んできてもらった機器をセッティングし始める。
さすがに社長には離れていてもらわないと危険なので、梯子の上から見ていていただくよう頼んで私は下に降りた。
ミッドガルの魔晄炉と比べると最下層のスペースは本当に狭くて、まさかそんなところに私と機材と一緒に社長を詰め込むわけにはいかない。
魔晄だまりに近づくと、とぷりとぷりと音を立てて緑色の魔晄がうねっている。
これが生きとし生けるものが死んだ後に残される精神エネルギーの塊だと言われてもピンとこない。でもただの水とは違う、不思議な雰囲気がする液体だ。
「これよりヒュージマテリア取り出し作業を開始します。初めに、対象の位置を確認します」
私は上を向いて社長にそう告げる。社長はうんと頷くと、気を付けろよ、と声を出さずに口を動かした。
持ち込んだ機械で魔晄だまりの中の数値を読み取りはじめると、深いところに異常な程高い反応がある。
これこそ、ビッグでラージでヒュージなマテリアの在り処に違いない。
「ヒュージマテリアの場所を特定しました! これよりアームにて取り出しをします」
私は再び社長に向けてそう宣言すると、機械のコントローラーを持ち上げた。これで機械を遠隔操作し、長いアームを下ろしてマテリアを掴むのだ。
これはかなり集中力のいる作業で、目に見えない場所に沈んでいるマテリアに届くようモニターの数値を見ながら、機械のアームを伸ばす操作をしないといけない。
ヒュージマテリアを取り出すのはこれが初めてだから、実際にはどんなものなのかもよく分かっていないので、うっかりアームをぶつけでもしたらマテリアを破損させてしまう可能性もある。
「もう少し、右……あとちょっと、かな?」
ゆっくりと慎重にアームを操作しながらモニターを確認していると、いつの間にか額に浮かんでいたらしい汗が顔を伝ってきた。
気にするな、集中して目を凝らせと自分に言い聞かせていると、ふと背後に気配を感じる。
それも、背筋が寒くなるような、何か嫌な気配だった。
アームが遂にヒュージマテリアを掴んだ次の瞬間、天井に張り付いていたのか、気持ちの悪いモンスターが降ってくる。
「迎撃態勢っ!!」
警備兵達がモンスターに向けて一斉に銃を構える。
「気を付けろ! ナマエさんに当てるなよ!」
けどモンスターは私のいる狭いスペースに飛び乗ってきたので、皆なかなか撃つことができないらしい。
それに私のそばにある作業機器に銃弾が当たったりしたら、それこそ掴んだヒュージマテリアが魔晄の底に落ちてしまう。
私が今この手を離せば、この作戦は失敗に終わってしまうかもしれない。そうなれば、最悪あのメテオを破壊することもできなくなる。
機械のコントローラーから手を離すこともできず、じりじりと近づいてくる気味の悪いモンスターを前に私は立ち尽くすしかなかった。
さっきまでとは違う種類の冷や汗が背中を伝う。
目を瞑るわけにもいかず、迫りくる恐怖に震える手。なんとか力を込めて、ヒュージマテリアを落とさないように必死でコントローラーを握り締めた。
「助けて……っ」
その時、魔晄炉の中に銃声が響き渡ると共にモンスター達は次々と崩れ落ちる。
そして白いジャケットをはためかせて私の横に降り立ったのは、他でもない社長その人だった。
社長はショットガンをくるくると回してから弾を装填し、未だに私達を取り囲むモンスターを睨みつけた。
「ナマエには指一本触れさせない」
社長はショットガンを二丁に分けると、モンスターと睨み合いながら少しずつ移動して私を背中に庇う。
彼の突然の行動や身のこなしに警備兵達は暫く呆けていた様子だったものの、我に返った部隊長が再度部下達に檄を飛ばした。
「モンスターを社長達から遠ざけろ! 注意を引くんだ!」
兵士達はモンスターに向かって銃撃しはじめる。
社長のおかげでさっきまでよりは私や作業機器とモンスターの距離が離れ、彼らもようやく弾を放てるようになったのだ。
形勢が逆転したことで私も僅かに平常心を取り戻す。深呼吸をひとつして、ヒュージマテリアの取り出し作業を再開することにした。
「すまないが、頼むぞ」
「……はいっ!」
後ろに温もりを感じるのは、二丁の銃を構えたまま私の後ろに立つ社長の背中が触れたから。
こんな時なのに落ち着いた彼の声色のお陰か、私はなんとか勇気を奮い立たせることができた。
(このまま真っ直ぐ引き上げれば……)
既にヒュージマテリアはアームでしっかりと掴んでいたので、あとは落とさないようにゆっくりと持ち上げれば良い。
モンスターはだいぶその数を減らし、あと数匹だけになっていた。それでもしぶとい残党は、おぞましい雄叫びを上げて次々と浴びせられる銃弾をかわしているようだ。
(集中して……慌てちゃだめ……!)
身の毛もよだつモンスターの咆哮が響くたび背筋が凍る。
社長の背中が触れているお陰でなんとか気持ちを保つことは出来ているけれど、モニターに集中しなければいけないので今モンスターが何匹残っていて自分との距離がどれくらいあるのかすら確認することができない。
しかもヒュージマテリアは相当な大きさで重量もあるので、アームを揺らさないよう気を付けていく内に神経がすり減っていく。
疲労もピークを超えているし、ライフストリームの近くに居続けているのもあまり良いことではない。
だんだんと目眩がしてくる。
でも、あともう少しでヒュージマテリアが取り出せるはず。
(きた……!)
遂に、ゆっくりとヒュージマテリアの先端が魔晄だまりから顔を覗かせる。青く輝くそれは、予想通り普通のマテリアの数百倍はあろうかという大きさだった。
それと同時に、飛びかかってきたモンスターに社長がコインを投げたかと思うと、それを撃ち抜きレーザーを浴びせる。
長い断末魔を響かせながら、一番身体の大きかったその最後の一匹はようやく星に還っていった。
「ヒュージマテリア……回収、完了……です」
その全貌を表した巨大なマテリアを地面に下ろすと、私は社長に報告するため振り返ろうとした。なんとか頑張れたから、きっと喜んでくれるはず。
それに、守ってくれたことにお礼を言わないと。
それなのに、足に力が入らないと思った瞬間私の視界はぐらりと歪んで暗転する。
「ナマエ、おいっ、ナマエ……!」
社長が珍しく慌てる声と慌ただしく駆け寄ってくる足音が、やたらと遠くに聞こえた。
まるでミッドガルの雑踏の中にいるように、頭の中がざわざわと煩い。