side榛名




榛名は今、すこぶる機嫌が悪かった。
ぐいぐいと背中を押され無理やり足を進めさせられていたからである。


「おい!押すなよ!」

「え?押せってこと?」


押している張本人、優樹こてんと首を傾げいかにも意味がわかりませんという様子を見せて目をぱちぱちさせた。
明らかに分かっているだろう反応に榛名はピキ、と口端を引きつらせる。


「ちっげーよ!!」

「いいじゃん!どーせヒマでしょ!」


分からないフリをやめて微笑む彼女にイラッとし、更に横で素知らぬ顔をしてこちらを見ている秋丸の「どうせ榛名も気になってんだろ?」という一言で更にイラつく。
と、そんなやり取りをしてから数分後、榛名達は押しに押されてカフェまでやって来ると、席についていた。
くそ、何なんだよ、だとか、テスト勉強しなきゃなんねーんだよ、だとか榛名がぶつくさ言うのをハイハイと流して「だからヒマでしょ。」という言う優樹と「分かってる分かってる、気になるんだよね。どうせ勉強なんて身が入らないって。」と言う秋丸にカッとする。


「だからヒマじゃねぇし気になってなんかねぇ!!誰があんな…、」

「「しーっ!!!!」」


叫びだした榛名の口を押さえる秋丸と優樹。
勢いよく口元に手を伸ばされたせいでグキッと首が変な風に鳴る。
それにチッと舌打ちをし、投手の首が変になったらどうしてくれんだよとブツブツ言うも無視である。
それにまたイラつく榛名はストローを回しカランと氷の音を鳴らすとずずずと飲み物を飲んだ。


「くっそ、」


今3人はカフェでこそこそととある席を見ていた。
何故こそこそしているのかと言うと、全ては優樹がうるさいからであり、秋丸が面倒だからである。
詳細を言うためには時間は少し前に戻る。
















授業がおわり、テスト前という事で部活が休みの放課後のことである。
そのノートを出さなければマイナス10点、出せば10点が確約されるという歴史のノート。
全くノートを取っていないわけではないが、所々寝落ちした部分の空きを埋めるため、秋丸にノートを借りて写していた。
ちょっとトイレ行って来るから早く写せよな、と教室を出て行った秋丸が慌てた様子で教室に駆け込んで来た。


「大変だ!榛名!!」


ばたばたとやって来た秋丸に一瞬目を向け、すぐにノートへ戻す。
秋丸の大変なんてどうせしょうもないことだろ。
そんな思いが頭に浮かび、フ、と笑う。
榛名のそんな態度に気づいたのか気づかなかったのかは分からないが、秋丸はむっとした表情を見せると「…聞かなくてもいいんだ?」と意味深に問いかけて来る。
「何をだよ。」と返事をしながらもノートから目を離さない。
早くノートを写して帰りたいんだよ。
カリカリノートに記入する音が聞こえる中、秋丸がじれったそうに口を開く。


「優樹からのすごい情報、聞きたいだろ。」

「だからなんの情報なんだっての!オレは今ノート写したんだよ!!あっ、くそ間違えたじゃねーか!」


話しながら書いているせいで記入ミスをしてしまい、イライラしながら消しゴムを手に取る。
その横では秋丸が「怒鳴るなよ!」と言い返した。
そして再び「気になるだろ?」と今度はにやにやした顔をオプションにしてきた。
その顔が腹立つし、内容がまるでわからないこのやり取りも面倒だ。
榛名は秋丸を見て表情も変えずに返答する。


「もったいぶるならいい。」


冷めた目でそう言えば秋丸はえー?本当にいいのー?と気持ち悪い声で言うとこちらを見た。
その声色にゾッとして腕をさすっていれば秋丸の言葉に腕をさする手が止まってしまった。


「岩槻さんが男の人とカフェに入って行ったんだってさ。」

「………。」

「ほらほら、気になるだろ?」


にやにやする秋丸を見てハッとし、つい止まってしまった手をシャーペンに戻す。


「別に、気にならねえし。」


その返答に「素直じゃないな。今手が完全に止まってただろ。」と何かごちゃごちゃ言っているが聞こえないフリをする。
オレは別に気になってなんかない。
と、その時教室のドアが勢いよく開いたと共に大きな声が教室に響いた。


「榛名!さぁ行くよ!!咲音の様子を探る!あの子が男と一緒にいるなんて!聞いたことないし!ほら、ね!!」


勢いよく教室に入ってきたと思いきや目を爛々と輝かせ、友人のスキャンダルにワクワクしてやまない様子の優樹。
「やーちょっとほんと気になるわー!」とか「咲音が男とカフェ、男とカフェ!」とやけに盛り上がっていて引いてしまう。


「いやオレは行かねぇ。」

「え、なんで?」

「「……。」」


心からのなんで?に榛名は何も言うことができず、秋丸も優樹の勢いに遠い目をしていた。
結果反論するのも面倒になり、いつの間にか荷物を纏められ、抵抗を試みるも優樹の勢いと、秋丸のにやにやに押しに押されてそのままカフェへと来るハメになってしまったのだ。

一言言っておきたいのは、オレは別にここに来たかったわけではない、ということだ。












されるがままではあるが、今このカフェにいるのは間違いなく自分であり、にやにやしながら岩槻のいる方を眺めている秋丸と優樹とずずっと飲み物をすする自分にため息を吐く。
榛名もつい岩槻のいる方へと視線を向ける。
岩槻と共にいる男は見るからに高校生ではない。
その大学生、または社会人であろう人物と彼女は親しげに会話している。


「…咲音、楽しそうだね。あ、ケーキ食べてる。」

「…ほんとだね、仲よさそう。お、コーヒーまで。」

「…………んだよ!」

「「なんでも?」」


榛名をちらちら見ながら状況説明をする秋丸と優樹。
榛名は彼らの様子にイライラしながらも、横目で見てしまっていた。
いや、視界に入ってしまうだけだ。
そう言い訳をしながらも見える咲音の表情は普段あまり見ない笑顔で榛名は何故かもやもやする。
普段ケンカ越しであることには違いないし、お互い笑顔で会話する間柄ではない、が。
あんな顔、優樹と話をしている時ですら見たことない気がする。
なのに、自分の知らない男にはそれを見せている。
それに舌打ちをしながらまた飲み物をすすった。
そんな榛名の様子に秋丸はまたにやにやと気味の悪い笑みを浮かべている。
それに腹が立ち足を踏みつけてやった。
隠れている立場であるからして声を上げれず、秋丸は涙目で震えながら榛名を睨みつけてくるが腹が立つ顔をしている方が悪いと素知らぬフリをする。
そんなやり取りを優樹はまるで気にした様子もなくうーん、と首を傾げた。


「…なんだっけ。あの男の人、どっかで見たような気がしないでもないんだよねー。」


先ほどから静かだと思っていれば何か考え事をしていたらしい。
榛名も涙目の秋丸も優樹に視線を向ける。
しかし数秒後あははと笑う。


「わっかんないわ!まぁいっか!っていうかあの人かっこいいよね。」


悩んでいたはずの優樹は一瞬で話を変えてくる。
逆に話を聞いていた榛名と秋丸の方が気になってしまう。


「いいのかよ!つかそこはどうでもいいだろが!」

「確かにかっこいいけど、優樹、オレの方が気になるんだけど。誰?知り合い?」


考えていたはずの優樹はもはやさっきの疑問は気にならないらしく、「え、もう思い出せないしいいよいいよ!」と笑う。
逆に秋丸はまだ気になるらしく「いや、ほんとそういうのモヤモヤするんだけど。」と返すがまるでやはり当の本人はもうどうでもいいらしい。
あ、と口を開くと「2人がもう出てくよ!」と小声で榛名と秋丸の視線を観察対象に戻す。
視線をそちらに戻せば、確かに咲音と男はレジに向かっていた。
先ほどまで優樹の言ったことが気になっていた秋丸はこちらに意識を戻し「本当だ。おい、榛名いいのかよ。」とこちらに話を振ってくる。
とりあえず話を振ってくる意味が分からない。


「何がだよ。」


面倒でしょうがないと思いながら返せば「何が、じゃないだろ!ほら行くぞ!」とここへ来た時と同様グイグイと榛名を引っ張っる。
優樹もいつの間にか荷物を纏め、うきうきしながらレジへ向かっていた。
こいつら本当に何がしたいんだ。
今日何度したか分からない冷めた目で見てやれば秋丸は真顔でこちらを見てくる。
その真顔を部活でやれよと榛名は思う。
そしてその真顔で秋丸は「岩槻さん、行っちゃったよ。」と言った。
…本当にその顔部活でやれよ。
チッと舌打ちをして(何の舌打ちだよ、と秋丸に言われるがそれは無視した。)店を出て行った2人の後ろ姿を窓から確認する。
窓から見えた彼女はやはり見たことのない笑顔をで男と話していた。
そして息を吐いてどうでもよさそうに一言返す。


「オレには関係ねー。」


すると秋丸と優樹は「えええ!」と咲音がもう店内にいないことから大声で叫ぶ。
そして何故か演技がかった様子で口を開いた。


「最近仲よかったのに……。この薄情者!」

「そうだぞ、榛名お前いつも迷惑かけてるのにその態度はひどい!」


酷いとはなんだ。
しかし実際の所、そういった相手にこうしてこそこそ覗いて見ていた方が酷いのではないのだろうか。
そう思うもまた面倒なことを言われる気がしてならず、思いとどまりしかし言いたいことはしっかり返す。


「…ただの知り合いだろ。それにオレが責められる理由がわかんねぇ。」


そう返せば優樹は榛名を睨みつける。


「もういいよっ!あの人に咲音取られても知らないからね!」

会計を終えて咲音の後を追うように歩き出す優樹。
それを見て「取られるの意味が分かんねぇ。」とそっぽを向く榛名見て秋丸はため息を吐く。


「……オレも行くからな。知らないからな。後悔するのはきっと榛名だ。」


だからその顔は部活でしやがれ、そう悪態を吐く。
そして「もう行くから」と言いながらもこちらをチラチラ振り返り見てくる秋丸と優樹にいらいらはピークに達した。


「だー!!うっせぇな!行きゃいんだろっ!」


くそっ、と舌打ちをしてずんずん歩き、優樹も追い越す。
前を歩く榛名を見て、優樹と秋丸はにやりと笑うのだった。














ちょろいな。














(気になって気になってしょうがないくせに。)
(ねー。)
(気になってねぇよ!お前らがうるせえからだ!!)
((へー。ふーん。))
(うっっぜぇ!!)





200131加筆修正





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