「ばかじゃないの?」
「ばかだよやめときな。」
「――え?」
只今、私、ひなのは友人に罵られている。
それは数分前、私が友人に三井のことを話したことから始まる。
「それで、三井は部活に来なくなって、不良になったみたい。」
そう伝えると、彼女たちは頭を抱える。
「……ひなのさ、なんで中学のしかも仲良かった人のこと知らなかったわけ?」
「え、だって校内で会わなかったし。」
「普通仲良いなら、見かけなくって心配になるはずだけど。」
「そうそう、心配で様子見に行くよね。二年間も…しかも私たちに聞いて初めて知ったとか、意味わかんないよ。」
「え、だって。」
「だってじゃない。それに赤木くんと木暮くんがバスケ部って知らないのも驚きだけどね。」
「え。」
「だって、“全国制覇だ”って前から燃えてるよ。青田くんと張り合いながら。」
「え、知らなかった。」
「…そんなんだからひなのは他人に興味はないとか冷たいとか言われるんだよ。」
「え、ちょっと待って。そんなこと言うのあなたたちくらいなんだけど。てゆうか私冷たくないし!ふ、普通より人に対しての興味はうすいけど!」
「三井くんが気の毒だ。」
「話聞いてる!?」
ため息をついてこちらをみてくる友人にこっちが驚く。
やめて、そんな目で見ないでくれ。
そのばかだな、という表情で見ないでほしい。
目から涙が溢れるぜ。
「ま、まぁ、百歩譲って私が他人に興味ないとして、」
「ないけどね。」
「うん、ないけど。」
「ねえ泣いてもいい?」
真顔でそういえば、彼女たちはぽんと肩を叩いてくる。
そしてもう認めたでしょ、とため息まで吐かれた。
なにそれ、すごいやな感じ。
で、でもこれ以上話をそらすと違う話題に移りそうだ。
その前に自分の決意を話さなければ。
「確かに二年間、三井のこと忘れてたけど、だから三井に会って話してこよーと思うんだ。」
そう言えば、友人たちは互いに目を合わせる。
な、なんですか一体。
そして彼女たちから放たれたのは辛辣な言葉。
「ばかじゃないの。」
「ばかだな、やめときなよ。」
「――え?」
突然罵られ、ひなのは目を丸くさせる。
「だって、いくら友だちだったからって言っても二年間ほかって話すらしてなかった。」
「それでその間に三井くんは不良になっちゃってるし。この前会ったとき、冷たい態度とられたんでしょ?」
「…うん、」
「それに、睨まれて怖かったとか言ってたし。」
「うん?」
友人の言いたいことがよく分からない。
すると彼女は口を開いた。
「二年、…二年って大きいよ。人が変わるには十分な時間がたってる。」
「なにされるか、分かんないよ。ひなの。」
二人の真剣な表情にひなのはしどろもどろになる。
「――え、いや、なにされるかって、だって、三井は、友だ…。」
ぷるぷると頭を振りながらそう言うが、ふとこの前出会った時のことを思い出す。
三井に睨まれた瞬間、体が固まったのは確かなこと。
そして、恐怖も少なからず感じた。
――二年は、人が変わるには十分な時間。
ひなのはごくりと息をのむ。
それでも、それでも私は。
「でも私さ、三井の友だちなんだよ。」
友人たちに笑顔を向け、そして続けて言う。
「私がやめよーって思ったら、びびったら、もう三井と話できないもん。だから、やっぱり話してくる。」
へらりと笑ってそう言えば、二人の表情は変わる。
そしてため息をついた。
「やっぱりなー、そうくると思ったよ。」
「だね。まぁとりあえず危そうなことはやめなよ?ひなのは周りをよく見ないんだから。注意力も足りないし。」
「ぷふ、二人ともありがとう。分かってるよ。」
注意を促す友人に頷き、ひなのは微笑む。
「でも大丈夫だよ。不良になっても三井は三井だもん、バスケばかの心は変わってないはずだよ。」
だって、バスケばかだもん。
(ほんとひなのは謎だよね。)
(ひなのが言うとまぁ大丈夫かって思っちゃうんだよね。)
(えへへ。)
(えへへじゃねーよ。その不用心さが心配なんだって。)
(間違いない。三井くんは大丈夫だとして、他の人にも気をつけなよ。)
(ほーい。)
130310執筆