夢見が悪かったせいか、あのあとぼーっとしてしまい、学校に遅刻してしまった。
当たり前だけど先生はもういるし、嫌み言われるし、ほんと全部三井のせいだ。
あいつ今日体育館にいたら殴ってやる。
そう意気込んで暖かい日差しを受けながら、体育館に向かう。
ドリブルする音や、バッシュのキュッという音が聞こえてきて懐かしさがいっぱいになる。
ああ、やっぱりバスケやるの楽しかったな。
あの頃はほんと毎日部活してたよなー。
そんなことを思いながら、今日ここに来たのは別件だと思い出す。
――そう、バスケばかの三井がいるかいないかの確認だ。
ここにいれさえすれば、昨日の出来事は夢か、はたまた三井そっくりさんか、三井の双子の弟か、という風に解釈できる。
(果たして奴に弟がいたかと言われればいなかった気がするけれど。)
体育館に足を踏み入れれば、すでに練習は始まっており、部員たちは汗を流して走っている。
「ソ〜ッエイ!オウ!エイオウ!エイ!オウ!!」
「おお、走ってる…。」
ひなのは走ってる部員を後ろから順番に見ていく。
すると目立つのは赤い髪。
「ん?……あれも、バスケ部?なんかすごい人がいるのね。」
ひなのの隣にいる女子生徒にピースしながら走る赤い髪の部員。
まあバスケやるのに髪の毛は関係ないか、と視線を前へ前へと動かしていく。
「ダッシュ!!」
「あ、木暮くんだ。赤木くんも。あれ?二人ともバスケ部だったんだ。」
「ダァッシュ!!」
「おお、すごい気合い。赤木くんキャプテンなんだー。」
先頭を走るのは同じクラスになった赤木くんに木暮くん。
そういえば背が高いもんなぁ、赤木くん。
威圧感あるもんなぁ、赤木くん。
木暮くんは、正直以外だったけど、シュートとかパスが正確そうだもんなぁ。
メガネだけど。…いやメガネは関係ないか。
そう思いながらもこれでここにいる部員たちの中には三井がいないと気づく。
「…ほんとにいない?いや、もしかして補習とか、今日はたまたま休みなのかもしれない。…うん、赤木くんに後で聞いてみよう。」
あいつはバカだったしとひなのは一人頷き、練習の区切りがつくまで待つことにした。
でもしかし、ほんとにすごいな、あの赤い髪の子。
あの威圧感のある赤木くんに対等に渡り合っているぞ。
そして元気だな。
一年生か、一年生ってあんなに元気だったかなぁ。
若い、若いぞ赤い髪の子。
あ、でも赤木くんにめっちゃ怒られてる。
おもしろいなー、あの子。
ぷふ、と笑っていると、時間はあっという間に過ぎて部活の後半になる時間まで残ってしまった。
休憩の合間に聞けばよかったのに、ついあの赤い髪の子に見入ってしまった。
ようやく休憩になった所を失礼ながらお邪魔して赤木くんの所へ向かう。
休憩中なのに申し訳ないけど、まあいいか。
近づいていくと、赤木くんも。
木暮くんもこちらに気づく。
最初に声をかけてきたのは木暮くんだ。
「――あれ、どうしたの春川?」
「おお、どうした。」
「赤木くん、木暮くん、練習中にごめん。二人ともバスケ部だったんだね。」
「ああ、」
「知らなかった?」
そう尋ねてくる木暮くんにひなのは頷く。
クラスの人の部活とか、あまり把握できないよね。
ていうか、自分があまり人に興味がないんだろうけど。
いや!別に気になるとこは気になるんだよ!?
でも部活とかまでは把握しきれないよね!
とまあ、それは置いといて話を本題に移そう。
「あのさ、三井って、どうしてる?今日は来てないの?」
そう尋ねると、赤木くんと木暮くんの表情が一瞬で変わった。
――ああ、あいつか。あいつなら今日は休みだぞ。
…というような顔ではない。
どこか、言いにくそうなその表情に、ひなのは嫌な予感しかしない。
彼らは顔を見合わせ、そしてこちらを見る。
「あいつは、三井は――――バスケ部をやめた。」
「―――――、」
その時の、自分の表情が一体どんな顔だったのかわからない。
ただ、目の前にいる木暮くんが眉を下げてこちらを見ているということはあまりいい顔をしてはいないのだろう。
――その後、木暮くんが詳しく話をしてくれた。
三井は一年生の春に、ケガをして、それを悪化させてしまい試合には出れなかった。
…そしてそれ以来、彼は体育館を訪れていないらしい。
どうやら、友人たちの話が正しかったようだ。
まさか、三井がケガをして、バスケをやめたなんて。
そんなこと、知らなかった。
全然、知らなかった。
なんで私は二年間も彼のことをしらなかったのだろうか
(ああ、)
(本当に、信じられない。)
130308執筆