ひなのは3組の前で気合いを入れる。

名づけて三井の脱・不良作戦!の開始だ。

話をいっぱいする。

時々バスケの話を入れ込む。

バスケを懐かしくさせる。

三井バスケ部に復活させる。

これが脱・不良作戦の内容だ。

あんまり作戦内容がないかもしれないというのは考えないことにしておいた。

とりあえず、話をするぞ!

ひなのは3組の教室のドアをガラリと開けた。

ドアの前に去年同じクラスだった友人、里田が立っていた。

彼はものすごく驚いた表情をこちらに向ける。


「おー、春川じゃねーか。どうしたんだよ、お前がよそのクラスに来るって珍しいなー。明日は雨か?」


突然述べられた彼の言葉にひなのはムッとする。


「何その言い方。珍しいとか、そんなことないよ。」

「いや、だって春川めんどくさがりだろ。わざわざよそのクラスに行くってないし、教科書忘れたこと分かっててもめんどくさくてよそのクラスに借りにすら行かねーしな。そんなヤツが来たなら誰でも驚くって。」

「し、失礼すぎる。」


頬をぴくりとさせながら、そう言えば里田は笑って口を開く。


「ははは、つか何の用だよ。」

「ごまかしたな里田。」


睨みながらそう言えば、里田は首を振る。


「い、いやいや、そんなことないって。」


ひなのはムッと口を尖らせる。

しかし、今は里田なんて気にしている場合ではない。

ひなのは心を落ちつかせ、口を開く。


「三井、来てる?」

「…え?」


そう言えば、3組の教室の雰囲気が一瞬固まる。

そして全員がこちらをちらちらと見る。

そんな様子にひなのはぽかんとする。

そしてその理由をすぐに察する。

あー、三井が不良だからみんなびびってるのかなあ。

悪い奴じゃないんだけどなぁ。

意外にナイーブだし。

まあでもケンカして退院あがりだから余計怖いのか。

ぷぷ、と笑いをこらえながらそんなことを考えていれば、里田は遠慮がちに声をかけてくる。


「三井くんなら、そこで寝てる、けど。」


里田が指差す方向を見れば、机にふっぷして寝ている三井の姿がある。

あいつ、退院したばかりのくせに寝てるよ。

ほんとにやる気ないなー。
(人のことは言えないけど。)


「ほんとだ。里田ありがとー。」

「ちょ、春川?」


慌てて止める里田にひなのはへらりと笑う。


「大丈夫だって、三井は悪い奴じゃないから。」

「え、」


ぽかんとした様子を見せる里田にもう一度へらりと笑い、三井の元に歩いていく。

そして三井の寝ている前に立ち声をかける。


「おーい、三井ー。ちょっと起きてよ。」


そう声をかけても、三井は微動だにしない。

コラ無視か。

ひなのは三井の耳元で口を開いた。


「コラ三井、起きろ!!」


耳元でそう言えば、三井は体をびくりとさせる。

そして機嫌悪そうに低い声を出した。


「ああ!?んだよウルセ…………。」


三井は、眠たそうな目をこちらに向ける。

そして目が合えばあからさまにめんどくさそうな表情をした。


「……………。」
「……………。」


ひなのは三井にへらりと笑いかける。

しかし三井はポリポリと頭をかくと、そのまままた頭を下げて眠りの世界へ戻ろうとする。

だから無視か!

ひなのはムッとして、三井の頭目掛けて手を上から下に振り落とす。

――即ちチョップだ。

ズビシ!!


「いってえな!!何すんだよ!ばかひなの!」

「うるさい!三井が無視するからでしょ!」

「無視されたらお前は人にチョップしやがるのか!」

「する!三井には!!」

「うぜー!マジうぜー!」


ひなののチョップにより、すっかり目が覚めたらしい三井は、ちっ、と舌打ちをする。

それにひなのはムッとする。

いやいや、ムッとしたらダメだ。

ここは心を穏やかにしなくては。

脱・不良作戦をこの少しの苛立ちで無駄にしてはいけない。

話をいっぱいして、三井の心をバスケばかに戻さなくちゃいけないんだ。

私はまたバスケばかの三井に会いたい。

ひなのは笑顔を見せる。


「三井の退院のお祝いに一緒に昼ごはん食べよう!」

「ああ!?なんでオレがお前と…。」

「いーじゃん!退院のお祝いだから!ほら、おいしいパン屋さんのパンだぞー。」


ひなのは今朝買ってきた三井用のパンを見せる。

ちなみにこの店は中学のときの常連だったお店だ。


「なにが退院のお祝いだ!パンかよ!」


ひなのは再び三井にチョップする。


「てい!!」

「だー!やめろっての!!」

「見てわからないのか!」


ひなのはニヤリと笑いそのパンを見せる。

これは中学のころにハマッたもの。

週に数回、いつ出るか分からないというパンで、幻のパンと武石中では有名な品である。

故に競争率も激しい。

そのパンだということに三井はようやく気づいたようで目を見開く。


「ハッ!それは幻の…。」

「ふふふ、いいでしょう。食べたいでしょう。さ、行こう行こう!」


そう言って座っている三井の手を引き、ズルズル引きずっていく。

最初は嫌そうな表情をしていた三井だが、パン作戦は見事成功し、しぶしぶながらも着いてくる。

ぽかんとする3組の方々の様子が見えたが、これも脱・不良への第一歩だ。

まずは第一段階クリア!

私だってやればできるんだから!

今頃失敗するだろうと笑っているハズの友人にひなのはどうだと胸を張るのだった。


















やればできる!
















(いやー、三井ちゃんと教室にいてよかったよー。危うくたどり着けなかった!)

(お前の方向音痴はほんと治らねえよな。)

(ははは、誉め言葉として受け取っておくね。)

(いや、マジでけなしてる。つか手え離せよ。)

(うっざ!ほんと三井は変わらずヤな感じだよ!手離してやんないから!ほら早く行くよ!!時間なくなる!)

(時間過ぎたらサボればいーだろ。)

(不良か!――ハッ!不良だった!!)

(お前ほんとに心の中の言葉がダダ漏れだな。心ン中にしまっとけよ。)










*****
里田くん、オリジナルキャラです。1、2年で主人公と同じクラス。
そして幻のパン。
“おいしいパン屋さん”という名前のパン屋さん。幻のパンは週に数回いつ売るか分からないという代物で、結構レアだったり。幻のパンの名前は“おいしいパン”
っていういらない設定。



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