昨日、三井と話をした。
そしたらやっぱり三井は三井だった。
(まあ異様にケンカ強くなってたけど。異様にガラ悪いけど。)
でも、あの話をした感じだと、もしかしたらまた戻ってくるかもしれない。
心の痛みも、取れるかもしれない。
また、バスケばかの三井に戻るかもしれない。
時々でもいいから、話をするようにしよう。
そうすることで、きっとまた変わってくる。
もし戻ることになったら、赤木くんもまた変な意地張りながらも喜ぶんだろうな。
木暮くんも、絶対喜ぶ。
にへらと笑いながら学校に向かう。
すると後ろから声をかけられる。
「ひなのさん。」
「あ、水戸くん。…と、花道くん?どしたの花道くん機嫌悪そーだね。」
そう言えば、水戸くんは苦笑いした。
「やっぱわかるか。」
「いや、わかるでしょ。花道くん、わかりやすスギ。」
イライラしているような様子の花道くん。
でも、イライラだけでなく、落ち込んでいるような感じもある、ような。
ひなのは首を傾げ、そして口を開く。
「なにか落ち込んでるの?」
「へ。」
そう尋ねれば、目を丸くした水戸くんの姿。
そして、花道くんはぶわりと涙を流す。
「ワカリますかひなのさん!!さすがですひなのさん!!」
「うお、こわっ!」
涙を流したと同時に、花道くんはひなのの首に抱きつく。
「うぐぐ、強い重い痛い!絞めてる絞めてる水戸くんヘルプ!」
ぐぐっと絞まる首にひなのは悲鳴をあげる。
ちょっとちょっと、女の子に対してこの絞めはダメでしょ。
水戸くんに助けを求めるが、水戸くんは動かない。
「はははっ、ひなのさんは花道のことよくわかってるな。」
「いやいやいや、待って待って。花道くんのことわかってるとかそれはいーんだけどさ。助けてって…!」
「ひなのさん!!」
「ぎいやあああ…!!」
でかい奴がチビにもたれちゃダメでしょ!
こらそこの後輩水戸!!
笑ってないでなんとかして!
く、ください!
いやまじで苦しいから!!
ひなのの言葉が届くのにはかなりの時間がかかった。
「――なるほどね。練習試合だったんだ。」
「そーゆうことです!!」
「え、でもあの強豪の陵南と試合で…、しかも一点差?すごいよ!!」
あの強豪相手に善戦じゃないの。
目をぱちぱちさせてそう言えば、花道くんはまたずーんと沈む。
「エッ!なに、どーした。」
暗いオーラを背負う花道くんに首を傾げれば、代わりに水戸くんが説明してくれる。
「ははっ、コイツは“負ける”っていうことが嫌だからな。」
「そっか…、でとレイアップ決めたんでしょ?初試合で初得点!すごいよっ!」
「…そーですかね。」
「うんうん。がんばったね。」
ひなのは花道くんの頭をよしよしと撫でてみる。
すると彼は分かりやすく頬を赤くさせ、微笑む。
ほんと体でかいのに、可愛いな、花道くん。
気分がよくなったのか、鼻歌を口ずさみながら歩き出した花道くんに、ひなのは笑う。
そして思っていたことが口に出る。
「かーわいいねえ。花道くん。」
「は、花道が、可愛い?」
隣で水戸くんが目を丸くさせてこちらを見る。
ひなのはハテナを頭に浮かべた。
彩子ちゃんたちに言った時もそうだったけど、なんでみんな驚くんだろうか。
可愛いと思うんだけど。
花道くん。
「うん、花道くん可愛いよ。ほら体大きいのにさ、全身で心を表現するでしょう?それが可愛くて可愛くて。」
「……ひなのさんの可愛いの定義がわかんね。」
水戸くんがそう呟く。
それにひなのは首を傾げた。
その一方で花道くんは高宮くんたちに頭突きをくらわせている。
(からかわれてるんだろうなあ。花道くんおもしろいから。)
そんな彼らを見ながら水戸くんはあーあ、と笑い、そしてこちらに視線を向けた。
「そういえば、ひなのさんは楽しそうですね。なんかいいことあったのか?」
「わかる?」
「まあ。」
「ふふふ。まあね。聞きたい?」
「はあ、まあどっちでもいっすね。」
「ちょ、アッサリ!!アッサリしすぎだよ水戸くん。」
さっと聞くのをやめる水戸くん。
こうなれば、逆に教えてあげたい。
嫌だと言われても。
ひなのは勝手に話を始める。
「あのね、私の友だちに元バスケ部の不良がいるんだけどね。」
冒頭からそう言えば、水戸くんはズルリとすべる。
「ちょ、どーした。」
水戸くんはこちらに視線を向ける。
「いや、ひなのさんみたいな人に不良の友だちって、なんか予想外で。しかも元バスケ部って。…まぁいーです、その友だちがどーしたんすか。」
「中学のころ一緒にバスケの練習してたんだけどね。昨日久しぶりにゆっくり話できてね。そんで、不良になってもやっぱりアイツはアイツだったんだ。変わってないっていうのが、スゴく嬉しくて。」
「……そいつんことスキなんだな。ひなのさん。」
「うん。大事な友だち!きっとバスケ部に戻ってくるって…待ってるんだ。私。昨日話して確信した!絶対戻ってくるよ。…たぶん。も、戻ってきてくれるかな。」
どっちにしてもこれからしつこく話かけるつもりだけど。と笑いながら言うと水戸くんは苦笑いする。
「きっと戻ってきますよ。ひなのさんにしつこくされたら。…ひなのさんの友だちは大変だな。」
「む、何よ。そう言う水戸くんも私の友だちでしょ。」
頬を膨らませて言えば水戸くんはまた目を丸くさせる。
それにこちらもエッと目を丸くとする。
まさかそう思ってたのは自分だけっていうオチだった?
「…友だちじゃないの?」
「…いや、友だちで。ひなのさん、ほんと変わってますね。オレらみたいのと友だちなんて、なかなか思わないだろ。」
苦笑いで言う水戸くんに首を傾げる。
「そ、そうかな。私花道くんも高宮くんも大楠くんも野間くんも、みんな友だちと思ってるけど…。も、もしかして私だけ?」
「ははっ、んなことねーと思い入れますよ。逆にあいつら今の聞いたら大喜びするな。絶対。」
「ほんと?」
その言葉が嬉しくてひなのはにへらと微笑む。
「嬉しいな。」
なんだかハッピーなことだらけだ。
きっとまたいいことあるよね。
happiness day
(それにしても、練習試合あったなんて知らなかったなー。教えてくれたら見にいきたかったのに。)
(ほ、ほんとですか!そんなに天才桜木のプレーを見たいと!?次からは絶対に呼びますから!)
(あはは、ありがとー。)
(自称天才の花道の珍プレーにも期待だぜひなのさん。)
(おっ、それ楽しみー。)
(ひなのさん…!?)
130317執筆