三井の背中が見えなくなってからも、ひなのはそこに立ったままだった。

どのくらいの時間が経ったのか分からない。

けど、時間なんて今は全く気にならなかった。


三井の心は荒れている。

バスケという言葉は今の彼には禁句なんだろう。

ケガをして、バスケをやめてしまった三井に対して自分の言葉はトゲとなってしまったのだ。

もっと気を使わないといけなかった。

自分に、非がある。





――お前に、何が分かるんだよ。






「ごめん、三井…。」


今はもう見えない三井に謝る。

遠い。

三井の心が遠いよ。

視界が歪む。

私の、せいだ…、私の…。


ドシン、


「――きゃ、」

「こんなとこで突っ立ってんな。」


後ろからぶつかられ、バランスを崩す。

なんとか転ぶのは耐えて、後ろを振り返る。

するとそこに立っているのは、強面のお兄さんたち。

おいおい、お顔が怖いですよ、いやまじで。

絡まれたらたまらないので、自分は悪くないと思うが謝罪する。


「ご、ごめんなさい。」


すると何故か強面のお兄さんはこちらをじっと見てきた。


「あっれ〜どうしたの?泣いてんの、あんた。」

「え、」


さっき涙ぐんだ涙が目元に少し残っている。

それを慌ててぬぐうとぶつかった人を見る。


「慰めてあげよっか〜?」

「は、いえ、結構です、」


なんで見ず知らずの彼らに慰められないといけないんだ。

すっと断り、意味が分からないとばかりに首を傾げる。

するとその内の一人がこちらを覗き込んでくる。


「…可愛いなぁアンタ。高校生?」

「かわ…?え、いや、まあ高校生ですが。」

「ふーん。よし、じゃあオレらと行こうぜ。」

「は?いえいえ、私用事あるので。」

「遠慮すんなって、慰めてやるからさ。」

「いや、大丈夫です。」


なんて面倒なことに、と思いながら、この場所から逃げようと足を進める。

するとひなのの行く先を強面のお兄さんにふさがれる。


「おいおい、そりゃーねえだろ。」

「ぶつかった縁ってことでよ。」

「え、ちょ、」

「なに?断ろうっての!?」


突然怒鳴られひなのはびくりとする。

ちょっとちょっと、やめてください。

ほんとまじ怖いですけど。

急に怒鳴らないでください。

そして帰らせてください。
(道は分からないけどどーにかするので。)


「いえいえ、断るとかじゃないんですけどね。」

「だから来いよってんだよ!!」


ぐいぐいと手をひっぱられる。

ちょ、まじでやばい。

ほんと怖い。

てゆうか手、痛い。


「あの離して――」

「黙って来やがれ!!」

「―――っ!?」


強面のお兄さんは何故か手をグーにしてこちらに向けてきた。

待って、ほんと待って。

私今日厄日!?

目を瞑って身構える。



バキィ!!


「ぶべべ!!」

「……?」


来なかった衝撃に疑問を感じ、そっと目を開く。

ひなのの前にはさっき見送ったはずの三井の姿。

そしてさっき手をグーにしていた強面のお兄さんは鼻血を出して倒れていた。


「三井、」

「おいてめえ!!オレのダチに何しやがんだよ!!」

「うるせえ!!そっちが先に手ぇ出してきたんだろが!!」


そう言い、三井はもう一人の強面のお兄さんを殴る。

え、嘘。

一瞬でお兄さんたち撃沈ですか。

三井のパンチヤバくない?

自分無傷とか、最強か。

ぽかんとしていると、三井はこちらを振り返る。

そして口を開く。


「お前ばかじゃねーの。」

「……はい?」

「お前一時間もこんなとこでぼーっとしてやがるからこんな変なヤツに絡まれるんだよ。」

「え、一時間てそんな時間たってた?でも、あの人たち今たまたまぶつかって、」

「んなわけねーだろ。」

「え?」


首を傾げると、三井はチッと舌打ちする。


「てゆうか、三井、何してたの?帰ったんじゃ…。」

「ぼーっとしたままひなのがずっと突っ立ってっから心配、」

「心配、」


ひなのがそう呟くと三井は頬を赤らめる。


「ばっ!!ちげーよ!!言葉のアヤだよ!!たまたま忘れものがあってだな!!」

「……。」

「そしたらまだお前がここにいやがるから!!」

「…うん。うん、わかったよ。」


ひなのは微笑む。

三井の表情を見てればわかる。

彼は、優しい人だから。

ケンカ強くても、怖い目をしていても。

他の人が何を言っていても。

――やっぱり三井は三井だ。


「へへっ、ありがとー。」

「何がありがとうだ!!黙っとけこの無用心が!」

「うん、うん。」

「……バカひなの。」

「うん。ね、三井。さっきは、ごめん、無神経だった。」

「……何がだよ。つーかお前どーせ帰れねーんだろ。」

「え、よくわかったね。三井の入院してる病院探してたら迷ったんだ。」

「…オレの病院探してたのかよ。」

「うん、まさか歯医者とは思わなかったけどね。」

「ばっかじゃねーの!!歯医者に入院するわけねーだろが!!つか人の歯を見んな!!」

「いやー、だってなかなか個性的…。」

「黙れ!!帰るぞ。」

「へへへっ。うん。」


















不良でも彼は私の友だちです


















(でさ、そのロングな髪はなんなのさ。)

(うっせー、黙れよ。また怒鳴られたいのかよ。)

(そ、それは嫌だけど。っていうか三井ほんとガラ悪い。)

(お前口を慎むとかねーのか。)

(そんなんないよ、三井相手だもん。)

(………。)








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