友人から聞いた情報。
三井は二年生とケンカして、入院しているらしい。
ケンカして入院って、不良か。
ほんとに、不良か。
中学のときの三井を思うと、そんな不良三井は想像つかないんだけど。
いや、でも妙に突っかかってきてたし、なくはないのか…?
いや、とりあえず本人に会わなくちゃ。
…でも入院してるとなると、ますます探しにくいじゃないですか。
どこの病院なんだ。
てか、入院って、大丈夫なのかな。
入院するほどのケガ…。
考えていれば、だんだん心配になってきた。
い、生きてるのか三井!
顔を青ざめて、町を走る。
病院という病院を訪ねればいいんだ!!
よしそうしよう!!
入院するなら三井の家の近くとか、学校の付近だよね。
と、町の病院を訪ね出して一時間――。
「………。いない、いないぞ三井…。ほんとに病院いんの!?」
何軒か病院を訪ねて聞いてみても、三井なんて人は誰一人としていなかった。
そして、ついでに言うと…
「……迷った。」
そう、無我夢中で病院巡りをしていたら、自分の町にも関わらず、ここが何処だか分からなくなってしまった。
わはは、もう笑うしかないぜ。
それにもう慣れてますから。
フフンと笑いながら、海を眺める。
まあ、いつも結果何とかなるから別に気にしないんだよ、私は。
まあ、とりあえず辺りをうろうろしよう。
そうしたらきっと、まだ行ってない病院に辿り着くかもしれないし。
知ってる場所に戻れるかもしれないし。
そう考え、海を眺めるのをやめて歩こうと足を進めようとした瞬間、
ドシン、
「――っわ、」
振り返った所に人がいてその人に見事ぶつかってしまった。
ひなのは慌てて頭を下げる。
「ごめんなさいっ、よそ見して、て。……三井?」
「ひなの、」
ぶつかった相手を見れば間違いなく三井だった。
ひなのは探していた人物の登場に目を輝かせる。
「三井だ三井!三井!!」
名前を連呼すると、三井は眉を寄せる。
「なんだよ、うっせーな。人の名前を連呼すんな。」
「へへへっ!!」
今までと同じようなやり取りにひなのは頬が緩む。
この前会ったときのような様子は見られない。
「ねえ三井、ケガして入院してるって聞いたんだけど!大丈夫なの?」
そう尋ねれば、彼は少し間を空けてそして口を開いた。
「…大丈夫だよ、別に。」
「ほんと?ほんとに?退院したの?」
「大丈夫だって言ってんだろ、うっせーな。それに、退院してなきゃここにはいねーよ。」
そう三井が言った所でひなのはハッとする。
「み、三井!歯がないよ!?どこに置いてきたの!」
「黙れよお前ほんとうるせー!」
「うるさいのは前から!」
「誇らしげに言うな!」
そう言って歩き出した三井の横を並んで歩く。
中学のときと同じようなやり取りに少し安心してひなのは口を開く。
「ねえ三井、ケンカして入院って、三井ほんとに不良になっちゃったの?」
「うぜー、うるせー。オレに話かけんな。」
「今まで三井が不良になっちゃったなんて知らなかったよ、私。」
「…うるせーって言ってんだろ。」
「髪が長くても、歯がなくても、三井は三井でしょ?そんで、バスケばかの三井でしょ?なんで部活やめて、不良になったの…?赤木くんも木暮くんも、心配してる。」
そう言った途端、三井の表情が変わる。
「…アイツらに何か頼まれたのか。」
「…何も頼まれてなんかないよ。私が、三井に何があったのか気になったの。三井と話したかったの。ねえ三井、バスケやろうよ、また、前みたいに。変な意地、張らないでさ。」
「黙れよ!!」
この前のような怒鳴り声に、ひなのはびくりとする。
そして、この前のような冷たい視線で睨まれる。
「お前に、何が分かるんだよ!オレはもうバスケはやんねーんだ!!」
「三井、バスケばかの三井はそう簡単には変わらないよね!?安西先生の所でがんばるって言ってた三井が変わらないよね!?」
ひなのは三井に手を伸ばす。
しかしその手は他の誰でもない、三井に叩き落とされた。
「――黙れってんだろ!2年間オレのことを一切知らねえひなのに何が分かるんだよ!!余計なお世話なんだよ!!」
「みつ、い…。」
「――っ、もう分かったんだろ、オレが不良だって。前とは違う。分かったなら、もう近寄るな。いいな!!」
そう言い捨て、彼はこちらに背を向けて歩いていってしまう。
ああ、まるでこの前みた夢のような展開。
あんな夢、正夢にならなくていいのに。
じんじんと痛む手に、ひなのは眉を下げて俯いた。
心が、痛い。
三井の心も泣いている。
泣いた心
(なんでもっと早く三井のことを探さなかったんだ。)
(三井は苦しんでいるのに。)
(そして、私は三井になにもできないのだろうか。)
130316執筆